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「札幌試行錯誤シリーズ」まどーんさんインタビュー~初めての「試行錯誤」は音楽を作るように

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2020年度インタークロス・クリエイティブ・センター(ICC)がスタートした「札幌試行錯誤シリーズ」。
クリエイターのアイデアに新しい価値をつけ、ICCが伴走し実験的なプロトタイプを作るという試みは、2020年度にはテーマ「学び」から「世の中のがんに対するイメージを変えたい」を採択、プロトタイプ制作まで漕ぎつけました。
現在、プロトタイプの内容も充実しつつあります。今回はプロトタイプを完成させたばかりの2021年3月にクリエイターまどーんさんに今回の取り組みについて伺ったインタビューをお送りします。

作る人との出会いでハッとさせられるものは作ることができる

  • まどーんさんの写真
——プロトタイプが完成したそうですが、いかがですか?

動画もウェブサイトも満足いくものになりました。
もし、私たちが何の知識もなしに、映像作家さんや制作会社さんを探してお願いしていたとしたらこんなふうに仕上がらなかったのではないかと。
「試行錯誤」を通じて出会えたクリエイターさんと作れたことと、伝えたい相手や内容、どんな風に見せたいかなどトータルでICCさんが一緒に考えてくれたからできたことだと思っています。

——ICCと一緒に取り組んで具体的にどんなところがよかったのでしょう?

やっぱり、1人や仲間だけで考えていると、場が狭いというか、顔ぶれも少ないし考え方が偏りがちになります。今回は、テーマが病気のことですし。自分たちだけで閉じることなく進められたのがよかったと思います。
デザインひとつをとっても、これまで、福祉系のウェブサイトなどは見せ方にまでこだわって作られているものが少なかったと思うんです。でも、やっぱり乳がんのことを考えるとしても受け手に与えるイメージの部分が重要で、そのためにアートワークは必要だと考えていました。だからこそICCさんに相談したら、絶対かっこよくなる! と思っていたのです。実際にやってみて思った通りでした。

さらに、私はウェブサイトの制作については全く知識がなくて、専門用語にしても進め方にしてもわからないことが多かったのですけど、「まどーんさんはこれをやってくれれば大丈夫」と、手取り足取りやってもらえたので助かりました。こちらから各クリエイターさんへ丸投げするのではなくて、最終的にどういう形にするかっていうことや、今後の運用の仕方まで細かく相談させてもらえるようにできたのは、私たちと各ジャンルを専門とするクリエイターさんの間にICCさんがいてくれたからだと思うんですよね。
こういうプロジェクトって、大企業がバックボーンとなって資金が潤沢にあればすごいものをつくれるのかもしれませんが、私たちはそんなにお金があるわけではない。でも、作る人との出会いで、ちょっとでもハッとさせるものを作ることができるのだとは思っていて。それが実現できたと思います。
  • まどーんさんの横顔写真

音楽を作るように、やってみては考え直して進める

——第一回のミーティングの時、ICCのカジタから「まず企画を一旦分解してみましょう」と、提案されましたが、その時はどんなお気持ちでした?

ちょっと一瞬、ショックでした。かなり悩んで作った企画だったのに「私のダメだった?」って。不完全だったのかなとか。でも、すぐに「これは面白いかも」と思いました。物事を分解していろんな方向から立体的に見て……みたいな感じかなと。私、集中してみんなでわーっとブレーンストーミングするのがすごく好きなので、逆にワクワクしてきました。一瞬、「ガーン」から「ワクワク」みたいな感じでしたね(笑)。

「試行錯誤」の進め方は音楽に似ていたなと思っています。曲をひとつ作るときも、何回もやっては見直しての繰り返しでアレンジをしていきます。「試行錯誤」もそんな感じで進んでいた気がします。一般的な仕事ではどうしても効率やスピードが優先されるじゃないですか。音楽も仕事ですけど、表現という部分では何回も考え直して実行して進めるっていうのは当たり前のこと。今回のがんのことは正解がないから、特に「試行錯誤」に合っていたのかもと思います。

がんというテーマは、「これでいっちゃえ!」と、勢いや独断で進めてはいけないものだとも考えています。センシティブな内容ですし、人によって全然受け取り方が違います。「どうしてこんなに壮大で面倒なテーマを選んでしまったんだ」と途方に暮れる時期もありました。覚悟がもっと必要だったって。でも、立ち向かわなきゃいけない時が絶対に来ていたんだとの思いで、ここまで来ることができました。
  • まどーんさんの真剣な表情の写真

大事なのは泣き顔ではなくて、笑顔の私たち

——今回の「試行錯誤」を進める中で気づいたことや変わったことはありますか?

「病気じゃない人の気持ちには戻れない」って気づいたのは、大きかったです。
プロジェクトを進めるにあたってPink Ring北海道支部の代表やメンバーとも話す機会が増えました。話すうちに気づいたのが、病気になっちゃったら、もう病気の前の感覚は取り戻せないということ。このプロジェクトも私たちだけで進めていたら、患者オンリーになってしまうから、病気にかかったことのない人のことを置いてきぼりにしてしまったかも。だから、ICCさんや外部の方から客観的に意見をもらえるのはとても大事だし、ありがたかったです。今後もどんどん助言してもらいたいなと思っています。

それから、がんになってどんな生きづらさを感じてきたかをみんながちょっとずつ話せるようになってきたんです。

——それは辛いことを思い出すからあまり話したくないことなのでは?

やっぱり思い出したくないでしょうね。傷ついた経験をみんな抱えています。でも、辛くない程度に体験談を伝えてもらえるようになって。そういうことは簡単になくせないとは思いますけど、今後、病気について誤解されている部分を解いて、少しでも辛い思いをしないようにしていけるようにできたらと思っています。

そもそも、がんに対する偏見ってどこからくるのかを最近、よく考えています。
私自身は、比較的フラットな視点で、誰に対しても差別や偏見の意識をあまり持つことなくこれまで過ごしてきました。それは、小学校時代の恩師が差別ということについていろいろな面から教えてくれたおかげです。ですから、そういう意識って生まれ育った環境や教育の影響もあるのではないかと感じています。必要以上に隠すのではなく、世の中にはいろいろな人がいることや差別・偏見について、小さい頃から大人が一緒に考えていくのは大切なことだなと思います。

そこで、最近、がん教育についても学び始めています。でも、がん教育の資料を取り寄せたら、初っ端から「がんは生活習慣によってかかります」、「がんはこわい病気です」なんて書いてある(笑)。これから、がんについて学びますよっていうのに、これではいきなり偏見を生んでしまうでしょうって。
もっとがんについてもフラットに受け止められるよう、幼少期からアプローチしてみたいと考えています。これはがんに限らず差別や偏見全般に関わることなんですけどね。
  • まどーんさん屋外での写真
——最後に、これからプロトタイプに触れる人たちに伝えたいことはありますか?

メディアなどでは、がんにかかった私たちのストーリーを感動もの、お涙頂戴的なものとして取り上げがちですけれど、今回の企画の趣旨は違います。同情してほしいわけではなく、そのままを知ってほしいのです。だから、動画も泣き顔ではなく、「私たち強く生きているよ」と笑顔で終わっています。

ちょっと不安な人もいるかもしれない。でも、検診を受けてがんを発見・治療し元気になった私たちの姿を通して、少しの勇気を出してもらったり、乳がんのことを知ってもらったりできたらいいなと思っています。そのために、今後も今回のプロトタイプとしてのウェブサイトをさらに充実させる、がんについて知ってもらうためのアイデアをもっと出していくなどして進んでいこうと思います。
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