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札幌試行錯誤シリーズ vol.1:~アイデアはいかにして実現へと向かうのか

リポート

更新

まどーん氏の写真
札幌市のクリエイティブ産業の活性化にさまざまな角度から取り組んでいるインタークロス・クリエイティブ・センター(ICC)。
2020年度ICCでは、クリエイターによるアイデアに新たな価値をつけ、具現化していくプロセスを手助けしていくという試み、その名も「札幌試行錯誤シリーズ」を始めました。
本レポートでは、現在進行中の事例を追い、「札幌試行錯誤」とは何かを探るとともに、アイデアが実現に至るまでの一つの道のりを3回に分けて紹介していきます。

クリエイティブなアイデアで社会や生活の中の課題を解決へ

これまでも、ICCではクリエイティブ産業の振興を目的とした活動が行われてきました。
クリエイター支援のためのインキュベーション施設をはじめ、クリエイティブ産業に関するプロジェクトはもちろん、その他の産業にクリエイティブの力で貢献するクリエイターの活動に対する支援、クリエイターのアイデアによる商品・サービスなどの新しい価値づくりへの挑戦、次世代を担う中高生や若手クリエイターの人材育成とその取り組みは多岐に渡っています。
  • グラフィックデザインの公開制作のイベント写真 イベント「名称未設定 -グラフィックデザインの公開制作-」より(令和元年度実施)
  • ICC入口展示スペースの写真 ICC展示スペース:「しくみ」のしくみ展vol.01(2020年12月18日~2021年3月31日)
「札幌試行錯誤シリーズ」はこのような活動の一環として打ち出された事業です。

コンセプトは「アイデアに価値を」。

これからの社会の中でクリエイティブがどのように活かされていくとよいか……まずは、より新しい形で「クリエイティブが活かされた事例」を増やしていくことがその答えに繋がる一歩ともいえます。
そこで、クリエイター自らが社会や日常生活に目を向け課題を見出し、その解決策を創造的なアイデアにより具体的なものとして実現に導くことができるという条件でクリエイターの募集が開始されました。

クリエイターに対して提示されたテーマは、

1.子育て
2.食
3.移動
4.学び
5.映像産業
6.ICC

の6つ。これらの中から、一つを選び、想定されるターゲットの調査やヒアリングを行い、課題をあぶり出した上で、その解決策を考えてもらいます。

ICCとしての支援は、採択案のプロトタイプ制作というゴールに向かうまでの過程を全面的にバックアップし伴走すること。そして、できあがったプロトタイプの積極的なプロモーションを行うというもの。さらに事例制作に向けて25万円が用意されました。

2020年8月末から10月30日までの期間、最大3件の枠の募集が行われ、審査の結果1件が選ばれました。

テーマ「学び」として提案されたのは「がんを学ぶ」という課題

「札幌試行錯誤」として初の採択案は、まどーんさんの「世の中のがんに対するイメージを変えたい」という案でした。
  • まどーんさんの企画書の画像 まどーんさんの企画書より
まどーんさんは、ベーシスト、まちづくりコーディネーターなどとして活動するクリエイター。地域振興事業やそれに伴うプロモーション、地熱・雪を主とする自然エネルギーの普及、世界的に活躍する少女ドラマーよよかさんのサポートなどの音楽活動、子どもたちの教育支援……と、縦横無尽に日々活躍中です。若年性乳がんサポートコミュニティPink Ring(以下、Pink Ring)のボランティアスタッフでもあるまどーんさんは、ご自身も乳がんを患い、治療・克服されています。

それまで虫歯一つなく病気とは全く無縁だったまどーんさんが、がんであることがわかったのはCDレコーディングの真っ只中だったそう。病気を受け入れ、精神的に立ち直るまでの辛さ、手術によりベースを弾けなくなるのではないかという大きな不安、少しでも明るい兆しがほしくて読み続けた乳がん患者のブログが途切れ、家族による本人が亡くなったという書きこみを見た時の背筋が凍るような思い……。

「告知された瞬間から何か生きてる世界がポンって変わった感じでした。
でも、今となっては良かったとも思うんです。
ガンになったあとの方が、世界を、物事をフラットに見られるようになったような気がします。病気の人ばかりではなく、そうでない人でもみんな、何かしらの痛みがあるものなんだなっていうのがわかったり、人生を無駄にしないように自分もしたいし、みんなもそうした方がいいと思ったり。前はもっと尖っている人だったんですけど(笑)」(まどーんさん)


自分が乳がんを経験したことをカミングアウトしているのも、人前に立つ機会があるからこそだったそうです。

「もしも今日がんを告知された人がいたとして、乳がんを乗り越えて今ステージに立っている私をたまたま見かけて、ちょっとでも元気づけられていたらいいのかもって。『こういう未来もあるんだよ』と伝わっていたらと。」(同)
  • まどーんさん演奏写真 ベースを演奏するまどーんさん
それぞれの人にもよるけれども、みんないろいろなことを抱えている。だからこそ、もっとがんに対してもライトにとらえられるようになってもよいのではないか。がんを患った人たちとそうではない人たちの間に壁を作られたくないし、作りたくもない……そんな思いを抱き、Pink Ringの活動をさらに進めるためにも、今回の「札幌試行錯誤シリーズ」に挑戦してみようと仲間とともに考えたとのこと。

「『札幌試行錯誤シリーズ』にチャレンジすることで、他のクリエイターさんとの繋がりができるのではないかということ、ICCが伴走してくれるというのが大きな魅力だと思いました。これをきっかけに私たちのの団体も変わると。すごいチャンスを手にできると確信したんです」(同)

これまでのまちづくりの活動で身につけたスキルを発揮するまどーんさん主導で企画書を作成、「札幌試行錯誤シリーズ」に応募することとなりました。

企画書の内容を細かに分解、そして再構築からのスタート

まどーんさんの案を実現するための第一回目のミーティングが行われたのは、2020年11月18日のこと。新型コロナウイルス感染症対策のため、ミーティングは対面ではなくオンラインで行われることとなりました。まどーんさんをはじめとするPink Ring北海道branchメンバー、ICCからはコーディネーターなど3名の参加者が画面上に一堂に会して、アイデアの実現化はスタートを切りました。
  • zoom会議の写真

    画面越しにも内容の濃い話し合いが繰り広げられる

Pink Ring 北海道branchメンバーの生の声が反映された企画書は、内容的にギュッと詰まった濃いものでありました。しかし、ここで行われたのは、まずは、この中身をバラバラに分解し、検証していくことだったのです。
今回の「札幌試行錯誤シリーズ」は2020年度末の3月までにプロトタイプを仕上げていかなければなりません。そのためには、最終的にたどり着きたいゴール、ターゲット、そして、何を作るのかを明確に整理し、それをどのように実行に移していくのかを見極める必要がありました。
企画書が物語る「やりたいこと」を否定するわけではなく、より細かいパーツに分けていき、ひとつずつ丁寧に精査し、再構築していくための話し合いが行われました。そして、それに基づいてPink Ring 北海道branchメンバーにはメンバー同士の話し合いとリサーチを行うという宿題が課されたのです。この宿題の答えをたたき台として、次の回ではさらなるブラッシュアップが行われることとなります。

生まれ出たアイデアを届けたい人たちにきちんと届く形にしていくためには、どのようなプロセスを経ていくものなのか? 一つの“試行錯誤”が始まりました。たどり着く形も、たどる道のりも、どのようなものになるのかは、今はまだわかりません。2021年3月、どんなゴールを迎えるのか……熱のこもった打ち合わせは深夜まで続きます。