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「仕事の失敗コレクション2019~こうすれば良かったのか!~」(2019年12月21日開催)レポート

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開催概要

  • 「仕事の失敗コレクション2019~こうすれば良かったのか!~」(2019年12月21日開催)レポート
 お仕事をされている方は、どなたでも失敗の経験があると思います。今となっては笑えるものから思い出しただけでも背筋がゾクッとするものまで、お仕事の失敗談を募集し、イベントで紹介。ゲストとして弁護士の今野佑一郎さんにみなさんから頂いた失敗談から「こうすればよかったのか!」という目が覚めるような対処法を紹介していただきました。
(このイベントはICCで行っている新契約書プロジェクトの一環として行なわれました)

1. いつも仕事をしているクライアントからの依頼。事前にギャラの話がないまま引き受けたが、蓋を開けたらかなり複雑な内容だった。通常の倍のギャラを請求できるほどの作業量だったため、納品前に話したところ「そんな予算は無い」と言われてしまった。それでも自分の経歴として載せられるから仕方ないと思っていたが、自分の名前がクレジットされないことが納品後に判明。非常に残念な思い出だけの作品になってしまいました。
  • 知り合いからの依頼だったり、紹介で始まる仕事のような場合、それまでの関係性などから、依頼内容について、明確な取り決めをしないままに作業がスタートすることも多いと思います。
  • 業務委託における契約の成立は、当事者間の合意で成立します。ですので、クライアントとの間での契約書が必ずしも必要になるわけではありません。ただし、契約における業務内容(目的)だったり、その金額などがどのように合意されていたかは場合によっては争いになります。
  • 依頼を受けた当時、当事者双方がどのような認識だったかについて齟齬が生じると、代金や作業内容、引き渡し時期などでトラブルになります。そのためにも、クリエイターが依頼を受けるにあたっては、どのような業務を行うか、それに対する対価はいくらか、内容の変更等があった場合に金額の変更はあるか、完成品の引き渡しはいつか(契約の終了時点など)を、クライアントとの間で共通認識として定めなければなりません。
  • 契約書は、当事者双方の合意内容を一義的に定めるものとなります。クライアントとの関係性などから契約内容を詰める前に作業が始まる場合はありますが、仕事を受けるにあたっては、その契約がどのような内容か(クリエイターがやることは何か、その対価はいくらかなど)を明確にする必要があります。当然、契約内容は双方の協議の中で変更されることも出てきます。ただ、その前提として、まずは、自身の業務内容をきちんと提案し、作業の価値を示していくことが大切になります。

 

2. 当初予定していた座組で進めていたら、途中から別の業者が加わることになってしまって混乱した。結果として予定通り仕事が進まなかったため、途中から変更せざるを得なかった。
  • 関係者が複数になる場合、だれが、どの業務を行っていくかを決めておくことは大切です。その話し合いも必要になりますし、決定内容を合意書や契約書といった形にすることができることが望ましいことは変わりません。
  •  例えばA,B,C,Dの4社で一つのプロジェクトに行う際に、4社の立場や関わる作業内容によっても、位置付けは変わってきます。さらに、E社が加わるとなれば、他4社と同列で関わるのか、A社の下請けとして関わるのかも確認しないといけません。
  • 作業内容に対して対価が発生するとなれば、トラブルを回避して、関係各社で円滑に作業を進める上でも、作業分担などの合意内容(契約内容)の共通認識を持つことが必要になります。
  • ひとつの書類に落とし込むことがよりよい手段となるところではありますが、後の紛争回避という視点では、協議の記録や関係者とのやり取り(議事録やメール、メモ)を意識的に記録化しておくことも大切です。情報を明示して(場合によっては報告等を兼ねて経過を示しておくことも重要です)、関係事項を確認、確定していく工夫も必要になります。議事録の記載やメール本文の記載の仕方によっても、後の関係資料(証拠)としての位置づけは異なってきますし、リスク管理に繋がります。

3. 共同企画者Aさんを通して間接的に頼んだデザイナーBの仕事がひどく、納期にも間に合わないことから、別のデザイナーCに頼まざるを得ない状態になった。あとで確認したら最初に頼んだデザイナーBは、自分の企画のデザインをしたことがあるのみで、きちんとデザイン案件をやったことがない人だった。
  • このようなトラブルの場合、まずは、注文者とAとの間の契約がどのようなものであったかが問題になります。
  • 注文者がBと別個契約している事情があれば別ですが、注文者との間では、Aとの契約のみが成立している場合、その契約内容をAが行ったか(義務を履行したか)が問題になります。Bに依頼するとしても、これはあくまでAの業務の範囲の者ですので、BはAの履行補助者という立場になります。そのため、Bのミスについては、契約上、Aが自己の責任において対応を求められることになります。
  • Aが受注するにあたりA(Bのことを含む)の不履行があれば、Aは、納期に間に合わなかったことに伴う損害賠償義務を負うことになります。この場合の損害とは、Cへの依頼にかかった費用であったり、納期が遅れたことにより生じた損害等が考えられます。
  • また、契約途中であれば、契約の解消(代金を支払わないこと)もあり得るところです。
  • 注文者側でこの点を考えると、Aへの依頼内容をどの程度具体的に取り決めておくかの問題となります。Aへの依頼であれば、Aがほかの者(本件ではB)に依頼をすることを許容するか否かも、契約内容として決めておく必要があります。イベントの実施などの場合、納期が遅れてもスケジュールは進みますので、損害賠償請求ができるからと言って問題解決になるわけではありません。スケジュール管理を要する業務であれば、その契約の内容として、定期的な報告や、定期的な打ち合わせ、面談の実施などを事前に取り決めておくことも注文者のリスク管理として重要です。

4. クライアントから50万で依頼され承諾した。しかし作業ボリューム的にやりきれないので、別のフリーランスの方に声をかけて作業を進めた。作業も中盤になってクライアントが「やっぱり変えたい」と言い出したが、それを実現すると当初予算と全く合わない。しかし追加の予算は出なかったので、頼んだフリーランスの方に50万払って、自分の手元には1円も残らなかった。
  • 頭書の契約がどのようなものであったのか、その契約が維持されているのか、変更されたかによって、対応は変わってきます。
  • 受注者(クリエイター)からすれば、金額と作業内容が決まっていれば、契約を解消する理由もないですし、代金を請求することもできます。
  • ただ、作業内容の変更等が生じ、それに応じて対応を変えていくとなれば、それによる契約の変更、あるいは新たな契約の締結となり、当然、費用の精算、設定をすることにもなります。
  • 精算となれば、既に行った作業に対応する金額の精算も協議することになりますし、作業状況に応じた対価を示すことも必要になります。契約内容の変更があり得るとすれば、当初の契約時点で、変更時、契約解消時の精算についての条項を設けておく必要があります。作業が進む中で、経過の確認等の情報提供をしていくことも重要になります。

 

5. 本の表紙デザインについて口頭で相談を受けたの際に、いくつかアイデアを提案しました。その後音沙汰がなかったので案件自体が流れたと思っていたのですが、しばらくするとその時話したアイデアを使って別のイラストレーターさんによってデザインされた本が発売されてました。アイデアの盗用というのはあり得るのでしょうか。 
  • 著作権法は、「表現」を保護する法律となりますので、アイデアが表現されていない場合、著作権による保護の対象とはなりません。
  • アイデアが、イラストとして示された場合、表現されたものとしてのイラストが著作権の対象となり得ます。著作権で保護されるイラストがあれば、新たに作成されたものについて、もとのイラストに似ているか(類似しているか、そのイラストに依拠しているか)否かによって、著作権侵害の可能性が生じてきます。
  • もちろん、新たに作成されたものについては、この作成者の表現としての性質も有することになります。
  • ラフなどもとになるイラストが既に存在していた場合などであれば、完成したイラストとの類似性がどこまであるかという部分が争点になります。

 

6. ウェブ用に撮影して納品した写真が、同じ会社のパンフレットにも利用されていました。
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雑貨店のチラシのデザインを依頼され、そのデザインの中に自身で書いたイラストを使いました。納品後、元のデータが一応ほしいということで渡したのですが、その後、その雑貨店が特に断りもなくオリジナルグッズとして前述のイラストを使った商品を販売していたことを知りました。こういった場合商品の取り下げをお願いすることは可能でしょうか。
  • 著作物についてどういう権利を定めるかは契約内容をどのように取り決めるかによるところです。グッズを作成した場合には、当該著作物の利用の問題や二次的利用の問題が生じてきます。
  • 著作権法上は、二次的著作物の利用に関する権利は、契約書にきちんと明記することが必要になります(著作権法61条2項参照)。
  • そのため、クリエーターとしても、自身の作成した著作物について、どのような権利があるか、そしてこの著作物がどのように使われるかを考えていかないといけませんし、契約においてはその内容を把握し確定させる必要もあります。
  •  使用方法によって、金額に差を設けることもありますし、使用方法によっては、別途契約を要する取り決めにするなどの工夫もあり得ます。
  • 著作権の譲渡に当たっては、契約書で、著作物の利用目的や使用方法などを取り決めることもできます。そうすれば、その内容に違反した場合、契約の解消(目的物の返還と返金)という選択肢も出てきます。
  •  受注に際して、きちんと業務内容、すなわち、契約内容を把握し、契約内容に従って対価を設定することが重要になります。場合によっては、さらに協議するとの取り決めをしておくことも効果的です。

 

7. 仕事が入る予定としてスケジュールを抑えていたが、白紙になってしまった。その分のキャンセル料などもない上、その日程で他の案件の問い合わせも来ていたが断っていたのでマイナスの結果になってしまった。
  • このようなケースの場合、どの時点で、契約が締結されていたかの問題になります。スケジュールを抑えた時点で契約がなされているのか、その前の段階(予定、候補)というものかでも位置づけが異なります。
  • 契約が既に締結されていれば、相手方の一方的な都合での契約の解消(解除)となりますので、代金の精算も出てきます。場合によっては、損害賠償の問題も生じます。
  • 他の依頼を断った場合の補填も、契約が解消されたことによる損害賠償の請求という法律構成になります。ただ、この場合、損害額をどう見るか(契約上の対価を取得しているか否かなど)にもよります。
  • やむを得ない事情による場合もあるかとは思います。スケジュールの確保にあたり、他の依頼を断るとの対応をするかどうかも、契約内容、取り決めによります。リスク管理としてみれば、いつまでに予定が決まるか、どの程度優先して確保しないといけないかを、当方において確認しながら、契約の内容を確定させていくことが必要になります。

 

8. 仕事を取るためのコンペ用資料を作ってほしいとの依頼があり、コンペに勝てば仕事になるからと、打ち合わせや仮デザインを作って提出したが、コンペに負けてしまい全てが無駄に終わってしまった。こういった場合ギャラを請求しては駄目なのでしょうか。
  • 打ち合わせや仮デザインの作成について、どのような契約に基づく作業であったかの問題になります。その契約での取り決め方によって、コンペの結果に関わらず、代金の請求をすることができるようになります。
  • 案件によっては、コンペの結果によって、代金が発生するか否かが決まる契約を締結するケースも出てくるかもしれません。ただし、そのような場合についても、両者が合意していることが前提となります。もちろん、契約内容に当事者間で齟齬があれば、トラブルに発展することも出てきますが、作業を始めるにあたって、この点を明確に定めておくことが必要です。
  • 事前の打ち合わせから、作業内容のみならず、その費用や対価等の協議、取り決めを行うことが重要になります。

 

9. 締め切りまでのスケジュール確認を電話でのみ行ったが、その日にあがってこず、言った言わないの話になってしまった。
  • 電話でやり取りしたら、あわせて文章を残すなどして、当方が請求をした事実を残すことが必要になります。業務との関係にもよりますが、当方としてやるべきことをしたと示すうえでも、行ったことを記録化する工夫は重要です。電話での連絡の後、メール、文書等で、「電話をしたこと」を記載して送付するなどの対応も重要です。
  • そもそものリスク管理としては、スケジュール管理を事前に徹底するなどの対応になりますが、実際に作業が進む中での対応一つをとっても、相手の行動を促すための対応は必要になります。

 

10. ギャラを払ってくれないので、回収しようと訪ねたところ、入れ墨を見せられ「若い衆を呼ぶぞ」と言われた。ギャラは結局払ってもらえませんでした。
  • 未払金の支払については、契約に従って、請求をすること自体は問題はありません。その支払いの確保については、契約での取り決めや支払時期などを工夫することで対応していくことになります。
  • 他方、「若い衆を呼ぶぞ」などと言われたことについては、脅迫や強要、恐喝など刑事罰の対象となる行為でもあります。そうであれば、刑事事件として、直ちに警察による対応を進めることも、自身を守るための手段です。
  • 契約書上、反社会的勢力ではないことの確認を条項に設けることもあります。契約に関して、反社会的勢力との関係が疑われることがないようにするためにも、契約時点で反社会的勢力でないことを確認した事実も、対外的な信頼を確保するうえで必要になります。

 

11. ギャラを支払ってくれない。事後でも何かできるのか。 
  • 事後的な対応としては、契約で定められた請求をしていくことになります。当然、代金の未払いを理由に、契約の解消(目的物の返還など)を求めることもできます。
  • 実際には、クライアント用の対応をすでに終え、納品も終えている場合、目的物の返還を受けることによる解決とはなりにくいことも多いです。損害賠償請求等の余地もありますが、基本的には、当該金額の支払の実現を考えていくことになります。
  • 裁判手続を考えると、支払督促による請求や訴訟提起などの手段はあります。裁判で判決を得たとしても、相手の財産を特定して、強制執行での実現を図ることのハードルも一定程度生じていきます。
  • そのようなリスクを踏まえて、契約締結時から対価の回収について取り決めをしていく必要があります。着手時に一定割合の支払いを求めることや納品時に一定額の支払いを条件とすることもできます。従前のクライアントとの関係性もありますので、直ちに変更はできないとしても、作業や業務内容を理解してもらい、支払時期を双方の合意で取り決めていく工夫は必要です。契約内容の確認とともに、支払時期の確認についても、見積もり段階から提案していくことも考えてみてよいかもしれません。

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