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アニメーションクリエイター  金子友里香さん

2010 年5月に開催された「北海道インディペンデント映像フェスティバル」の
グランプリ受賞作『生(あ)る日の潮汐(ちょうせき)』が
9月11日〜17日の一週間、シアターキノで特別上映される。
作者はICCに入居するアニメーショングループ「kocka」(コチカ)の
金子友里香さん。色鮮やかな切り絵アニメの世界を案内してくれた。

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  • 「切り絵の作品紹介」

  • 「作品:生る日の潮汐 1」

  • 「作品:生る日の潮汐 2」

  • 「作品:生る日の潮汐 3」

  • 「作品:生る日の潮汐 4」

  • 「作品:生る日の潮汐 5」

  • 「作品:旅情詩 1」

  • 「作品:旅情詩 2」

  • 「作品:旅情詩 3」

  • 「作品:旅情詩 4」

  • 「作品:旅情詩 5」

  • 「作品:旅情詩 6」

  • 「作品:SCOPE 1」

  • 「作品:SCOPE 2」

  • 「作品:SCOPE 3」

  • 「作品:SCOPE 4」

  • 「作品:SCOPE 5」

  • 「作品:SCOPE 6」

  • 「アニメ撮影用硝子盤 1」

  • 「アニメ撮影用硝子盤 2」

  • 「金子友里香さん 1」

  • 「金子友里香さん 2」

  • 「金子友里香さん 3」

  • 「金子友里香さん 4」

 


切り絵をコマ撮りの受賞作、劇場公開が目前!

「上映時間5分」の短さも、切り絵をコマ撮りしたアニメーション作品だと聞いて納得した。登場するキャラクターや背景を数ミリ単位で動かしては撮影する。根気と集中力が同時に求められる渾身の一作。それが、第3回「北海道インディペンデント映像フェスティバル」グランプリに輝いた『生(あ)る日の潮汐(ちょうせき)』だ。

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グランプリ受賞作『生(あ)る日の潮汐(ちょうせき)』(2008年)。完成された世界観が審査員に高く評価された。

監督はICCに入居中のクリエイター金子友里香さん。今年の5月末、ICCにも受賞の知らせが届いてからしばらくは、館内中に金子さんの快挙をともに喜ぶ「おめでとう!」の声が飛び交った。タイトルにある「潮汐」とは朝夕の潮の満ち引きのこと。押しては引く波の音をBGMに、主人公の少年が見つめる生命の満ち引きを色鮮やかに表現した。
グランプリ受賞作にはシアターキノでの上映特典があり、9月11日〜17日の一週間、スティーヴン・ソダーバーグ監督作品『ガールフレンド・エクスペリエンス』の本編前に特別上映されることが決定した。美しく繊細な“動く切り絵”をぜひとも大画面で体験していただきたい。
 

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作者の金子友里香さんは3人の女性クリエイターで構成する「kocka」(コチカ)」のメンバー。札幌出身。

 

撮影現場で決断、後戻りがきかない制作工程

『生る日の潮汐』は波打ち際に眠る少年の目覚めから始まる。天空に現れる星は顕微鏡で見る細胞のように丸く、網目状の表面が不気味ささえ感じさせる。星が海に沈み、高く上がった波しぶきはそのまま空へ枝を伸ばす大樹に変わる。そしてその梢から出た芽もじきに次の生命へと姿を変えていく…。

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天空に現れる星。二重三重に色画用紙を重ねた有機的な様が生命の細胞を連想させる。

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<出芽>の場面に使ったパーツ。花びらの細やかな模様や配色の妙に目を奪われる。

上の写真は、<出芽>の場面の制作工程がわかるように金子さんが用意してくれたものだ。道具は細身のデザインカッターを駆使し、素材は色画用紙を使う。一枚一枚模様が異なる花びらに「大変な作業でしたね」と感心していると、「これを作っているときの気持ちは“無”(笑)。手がひとりでに動く単純作業です。本当に大変なのは撮影に入ってから」と教えてくれた。

花が育つ過程を見せるには、ガラス台の上に花びらを置いた静止画像を撮影し、またつけ足しては撮影する…この作業をひたすら繰り返す。しかも後から足す花びらは前列の花びらの“下”にピンセットで差し込む手のかかりようだ。「撮影に入ると途中で止めたくないので、ほぼノンストップ。絵コンテは事前に描くんですが、パーツをどう動かすかは現場のインスピレーションなので、時には夜通しの長丁場になってしまいます」。

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鳥に乗る少年を動かすときは下に重ねた背景パーツのガラス台を動かして撮影する。

切り絵アニメの場合は貼って足すほかに“切って引く”技術も存在する。「事前に切り目を入れた箇所を少しずつはがしながら撮影することもあります。描きアニメなら“後からもう一コマ足そう”ができても、こっちは最後に残るのは紙くずだけ(笑)。撮影をやり直すときは頭から。後戻りがきかないんです」。こうした苦心の制作工程から生まれた金子さんの作品にはどれも「もう一度見たい」と思わせる力が宿っている。

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取材協力は『生る日の潮汐』が上映されるシアターキノ。金子さんが持っているパーツは作中に使われた星の一部分。

 


ミクロな顕微鏡観察を切り絵で見せる「細胞好き」

札幌で生まれ育ち、高校の美術部ではじめて切り絵に挑戦した。「そのときは単純な好奇心から。札幌の街並をモノクロで切った静止画でした」。卒業後の進路はアニメーションに興味を抱いて北海道教育大学視覚・映像デザイン研究室へ。アクリルガッシュやデジタルのアニメ作りも試したが、「しっくりこない」自分がいた。そこで思い立ったのが切り絵を動かすコマ撮りアニメだった。

ryojyoshi03.jpg   ryojyoshi05.jpg 金子さんの切り絵アニメ第一作『旅情詩』(2006年)より。“ボカシ”の表現にはトレーシングペーパーを使った。

初めて作った短編は群れから離れたシマウマを描いた『旅情詩』という。白黒のイメージが強い切り絵の世界にやわらかなパステル調の色彩を持ちこみ、市販の色画用紙で物足りないときは水彩絵の具で着色もした。自分には色を楽しむ切り絵アニメが「しっくりくる」。手描きアニメでは出ない影ごと映し込む質感にも惹かれ、「切り絵でやっていく」気持ちが固まった。

次に手がけた作品は2分50秒の『SCOPE』だ。「先生のご指導で研究室のカメラ付き撮影台を使うようになったので技術的に安定した撮影が可能になりました」。

scope01.jpg   scope03.jpg scope04.jpg   scope06.jpg 『SCOPE』(2006年)。「万華鏡を見ているときの時間も忘れる恍惚感」を目指した。

作品のテーマは幼いころから好きだった万華鏡を取り上げた。主人公がのぞく望遠鏡は万華鏡でもあり、場面が進むにつれ「これは…顕微鏡?」とも気づかされる。実は金子さん、「細胞とかがすごく好き」、生物の教科書にある細胞分裂や微生物のミクロな顕微鏡観察をこよなく愛する人だった。画面では“切って引く”技術で得られた紙の模様がめまぐるしく増殖と変化を繰り返す。美しさと、人体の内側を見せられたようなグロテスクさが絶妙な調和を見せる。金子さんの作家性を深めた秀作となった。
 

 

駆け出しクリエイター、故郷でスタート地点に

『生る日の潮汐』は大学の卒業制作として作った短編だった。卒業後、金子さんは東京のアニメーション会社に就職したが、想像以上にオートマチックな現場に違和感を覚え、一年後に帰郷した。同じ研究室出身の高橋幸子さんに声をかけられアニメーショングループ「kocka」(コチカ)に参加し、現在に至る。

帰郷後は映像の仕事で生計を立てる一方で、大学時代の作品を精力的にコンテストに応募した。2009年には『生る日の潮汐』がNHK『デジタル・スタジアム』第364回「田中秀幸セレクション」に選ばれ、そして今回の「北海道インディペンデント映像フェスティバル」でグランプリを受賞と快進撃が続く。審査員からも「今後の成長が楽しみ」と期待を寄せられた。
  
kaneko06.jpg   kaneko07.jpg 切り絵カードも制作する。写真は「縁日」(2010年)。美麗な尾ひれを見ていると今にも泳ぎ出しそうだ。

クリエイターとしてはほんの駆け出しだが、独自の世界観には早くもファンがついている。日本人の郷愁を誘う切り絵に鮮やかな彩色をほどこし、新しいミクロの世界を見せてくれる金子友里香さん。まずはシアターキノの特別上映へ足を運びたい。私たちの心に新人を応援する喜びも目覚めさせてくれそうだ。
 

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今後の課題は「音」。基本はノンダイアローグだが、作品の世界観に寄り添うBGM作りにも挑戦してみたい。



●アニメーション「kocka」 http://kocka.xxxxxxxx.jp/
札幌市豊平区豊平1条12丁目1-12 札幌市デジタル創造プラザ(ICC)214
●アニメーションクリエイター 金子友里香
E-mail:gondango31@yahoo.co.jp
TEL:090-9435-0730

取材・文 ライター 佐藤優子 仕事blog「耳にバナナが」  http://mimibana.exblog.jp/
写真 山本顕史(ハレバレシャシン)