Sapporo Community File 03 北海道イラストレーターズクラブアルファ
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あらゆるコト・モノを描く、北海道イラストレーターズクラブアルファ
私たちが目にする情報。それは文字や映像だけに限りません。イラストは、さまざまなコト・モノを分かりやすく伝えてくれる、情報発信の強い味方。そんなイラストを描く北海道在住のイラストレーターたちが集う、北海道イラストレーターズクラブアルファという団体があります。どんな組織なのか、お話を聞きました。-
左から北海道イラストレーターズクラブアルファの会長でフリーペーパー「イララ」の編集長も務める小田啓介さん、同副会長の八角屋さん
実力の高さを認められた人だけが所属できるイラストのプロ集団
──北海道イラストレーターズクラブアルファ(以下、アルファ)を知って、北海道にこれほどたくさんのイラストレーターが活躍されていることを初めて知りました。小田:アルファには現在49名が所属していますが、これでも一部だと思いますよ。
八角屋:そうですね。北海道にはイラストレーターがまだまだいます。今は主婦で、たまにイラストレーターとして活動されている人もいますし、そういう人も含めたら相当な数の人がいらっしゃると思います。
──そうだったのですね。そのような中で、組織としてアルファが誕生した経緯からまずは教えていただけますか?
小田:アルファは僕が生まれた1973年に発足した団体なんですが、個人で活動する人が多いイラストレーターの社会的地位の向上や意識の高揚、さらには交流したり、相談し合える場を作ろうということで仲間同士が集まってできた会だと聞いています。私が会長を務めるようになった今も、全道にいる会員たちの交流や会員たちの仕事のアピールをサポートできる場として組織を運営しています。
———具体的にはどのようなことを行っているのですか?
小田:第一に「マイワーク(MY WORK)」という、それぞれの仕事をまとめた作品集を2年おきに制作しています。さらにマイワークを出版した年にはイラスト展も開催しています。マイワークを出さない年は役員でイベントの企画を立てて、ここ最近はチ・カ・ホ(札幌駅前通地下広場)での作品販売やワークショップなどを実施してきました。その他、会員から有志を募り、「イララ」というフリーペーパーも年2回発行しています。
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マイワークは本来、今年が最新号の発行年だったが、コロナ禍で仕事が不安定だったため中止に。その分、発足50周年を迎える2年後にまとめて出版する予定。
小田:まずは北海道在住で、プロとして仕事をしているイラストレーターであることが条件になります。
八角屋:その上で審査があり、申請いただいたら役員がホームページや作品などを確認して承認するかどうかをジャッジさせてもらっています。
小田:参加している理由は、皆さんさまざまです。最近はコロナ禍でできていませんが、「イララ」を発行した際に打ち上げをしていて、それを目的に参加している会員もいます(笑)。
八角屋:一人で描いていると孤独を感じて寂しくなってしまうこともありますので、ときどき飲み会があるのには助けられますね。私は会員になったことで、なにか“後ろ盾”を得たような感じがしました。イラストレーターはフリーで始める人が多く、最初の頃などは実績もないので、なかなか信用してもらえなかったりします。しっかりした組織に認められているとクライアントなどの相手先にも安心してもらえますし、会員になることで、そういう肩書きを得ているように感じています。あとは、これどうやって描いているんだろう!?っていう技術を直接本人に聞けるのがありがたいです。
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イラストレーターの活動をもっと知ってもらいたいと、小田さんを編集長に5人の会員で作っている「イララ」。会員以外のイラストレーターもゲスト参加し、毎号決まったテーマのイラストが掲載されている。
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2021年7月には初の「イララ原画展」を札幌市内のギャラリーで開催。「イララ」の創刊から7年間に掲載された原画が展示された(写真提供:小田啓介氏)
「こういう絵が欲しい」に応えるのがイラストレーターの仕事
———現在参加している49名の会員は、それぞれどのようなイラストを得意とされているのでしょうか?八角屋:みんなバラバラですね。風景が得意でカレンダーなどに使われている人もいれば、建物の未来図が得意な人もいたり。斜面やリフトなどが描かれたスキー場のマップが得意な人もいます。ただ、みんな北海道のポスターやパンフレットを手掛けることが多いので、キツネやクマなど、北海道をイメージさせるものを描くのは上手だと思います。
———それぞれに得意な作風やタッチがあるようですが、イラストをお願いしたい場合は、どのように依頼したら良いのでしょうか?
小田:それぞれ得意のタッチや雰囲気はありますが、好きに書いてくださいっていう仕事はほぼないです(笑)。基本的には、こういう雰囲気で、こういうタッチで、こういう構図で表現しようと相談させてもらいながら一緒に決めていきます。
八角屋:依頼いただく際にある程度、こういうイラストが欲しいって具体的なイメージがあると、よりスムーズかもしれないですね。
小田:そうですね。イメージを共有できると、ああでもないこうでもないと何度も描いて時間を費やすことも減ると思います。もちろん、何パターンか必要な場合は、さまざまなパターンを考えて、その中からすり合わせていくということもしています。
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イラストは時代によって求められるタッチやイラストの種類が変わると話す小田さん。「最近は介護に関する記事に載せる挿絵をずっと描いています。あと、マスクを描くことも増えましたね」。
小田:僕はイラストレーターって定食屋だと思っているんです。コース料理のように、こちらが好き勝手に提供するものじゃない。お客さんが焼き魚の定食を食べたいという声に応えて、その焼き魚の定食をどうオリジナルでおいしく作れるかっていうのが大事なのかなって。画家やアーティストであれば、自分の描いた絵を好きか嫌いかで判断してもらい、嫌いだったら買わなくていいってなるけど、僕らは相手の好き嫌いも確認して、確実にお客さんに喜んでもらえるものを提供するのが仕事。そこで相手が思っていたよりもいいものを届けられたら万々歳ですし、「想像以上にいいものができました。八角屋さんに頼んで良かったです」なんて言われるのが一番うれしいですよね。
八角屋:ですね。「思ってたよりうまいじゃん!」って言われたりすると最高に喜びます(笑)。
小田:イラストレーターは縁の下の存在といいますか、名前が出る仕事は少ないんですよね。僕らは誰が描いたかって分かりますけど、身近にあるお菓子のパッケージなどにもイラストレーターの名前は載っていないと思います。雑誌などのイラストに名前が出ていたりして、憧れる人もいると思いますが、実際は裏方の仕事で、お客さんはもちろん、デザイナーさんやディレクターさんといった方々と一緒に作り上げる仕事なんですよね。
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八角屋さんが得意にしているのは、紙を切ってPhotoshopでデータ化する切り絵イラスト。水彩で描くイラストにも定評がある。
イラストは時間や言語の壁も越えて、情報を伝えることができる。
———お二人はイラストの存在価値を、どのように考えていますか?八角屋:1つは文章を分かりやすく伝えたり、理解を深めるのを手伝うものだと考えています。それから、会員の中にこれから建つ建物の未来図を描く会員がいますが、そうした未来を描けるのも写真にはできない、イラストだからこそだと思います。あと、掲載される場所を明るい雰囲気にしてくれる存在でもありますよね。
小田:もしイラストがなかったら、物事が伝わりにくいだけでなく、すごく殺伐とした世界になっちゃいそうですよね。それと、言語は各国で違いますが、絵だったら先日のオリンピックのピクトグラムのように世界共通で伝わります。そんなメッセージの伝達方法も、イラストだからこそだと思います。
———年2回発行しているフリーペーパー「イララ」には、イラストレーターを目指す学生たちも参加しているそうですね?
小田:はい。僕たちの業界も若い人が少なくなってきていると感じていて、もっとイラストレーターに興味を抱いてもらえたらと、「イララのたまご」という学生向けの公募企画を行っています。
八角屋:若い人は感性が違うので、私たちも刺激になります。もちろん、技術的には低かったりしますが、発想や視点が面白いんですよね。
小田:イラストを描くのが好きな人には「イララ」という場をどんどん使って活動を頑張ってほしいと願っています。「イララ」に参加してくれている学生の中には「アルファに入ってマイワークに載りたい」って思ってくれている人もいたりしますので、そうした若い世代の人たちにも入って良かったと思ってもらえるよう、これからもアルファの活動をしっかりと考えていきたいと思っています。
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アルファが制作しているマイワークとイララの最新号はICCで見ることができる。また、札幌市の中央図書館には両方のバックナンバーがすべてそろっている。
北海道イラストレーターズクラブアルファ
活動内容|視覚デザインを職能とするプロのイラストレーターの全道組織。さまざまな活動や交流を通じて会員相互の親睦を深め、社会における自覚と文化の発展を目的に活動を行っている。会員数 |49名
文:児玉源太郎(株式会社造形)
撮影:出羽遼介(株式会社アンドボーダー)