Sapporo Community File 02 札幌アートディレクターズクラブ(SADC)
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デザインシーンの発展を担う、札幌アートディレクターズクラブ
私たちの身の回りにあるクリエイティブなデザイン。札幌には、それらを手掛けるクリエイターたちの背中を押し、デザインシーンの発展と向上を目指して活動している団体があります。今回ご紹介するのは、札幌アートディレクターズクラブ。その活動内容と参加する魅力を語っていただきました。-
左から札幌アートディレクターズクラブの運営委員 小島歌織氏(有限会社大西広告事務所)、会長の岡田善敬氏(札幌大同印刷株式会社)
作品の評価を通して、交流と研鑽を図るクリエイターの課外活動
──まずは札幌アートディレクターズクラブ(以下、札幌ADC)とは、どんな団体なのかを聞かせてください。小島:札幌ADCは、デザイナーやアートディレクターなどのクリエイターが会社ではなく、個人として参加し、運営している会員組織です。
岡田:誕生したのは2001年。当時、東京や大阪だけでなく、地方都市でもアートディレクターズクラブを立ち上げる動きが広がっていて、北海道でもコンペティションや交流を通して、切磋琢磨し合える場を作っていけたらと先輩アートディレクターである前田弘志さんや寺島賢幸さんが中心となって、北海道内のクリエイターに声をかけたと聞いています。
小島:具体的には毎年9月にデザイン表現を競う「コンペティション&アワード」を開催していて、そこで入賞した作品の年鑑を翌年の6月くらいに発行し、同時期に総会と授賞式を行っています。
岡田:札幌ADCは設立当初から「知る機会」「もまれる機会」「きたえる機会」「発表する機会」をつくることを目的にしていて、活動自体も「クリエイターの課外活動」と言っています。それが脈々と受け継がれて、今に至っています。
──活動の軸にコンペ(作品審査会)があるのですね?
岡田:はい。東京アートディレクターズクラブのコンペに代表されるように、広告デザインのコンペというと通常はクライアントが存在する作品のみで行われることが多いですが、札幌ADCはちょっと変わっていて、自主制作の作品も受け付けています。
小島:クライアントワークだとある程度のディレクションの経験を積み、年齢的にも30代以上にならないと任せてもらえないことが多いけれど、自主制作の作品であれば、若い人にもチャンスがあります。また、岡田さんが大賞を受賞した「オバケ!ホント?」やワビサビさんの「hormon」に代表されるようにクライアント不在で考案したオリジナルのフォントが仕事につながり、クライアントワーク化していったこともあります。
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札幌ADCのコンペには道内在住のプロのクリエイターであれば誰でも出品可能。会員になると出品料が割引されるため、たくさん出品する場合は会員になった方がお得になる。(写真提供:札幌ADC)
小島:年によって異なりますが、毎年だいたい700近い作品が集まっています。
岡田:コンペはポスターや新聞・雑誌広告、パッケージ、WEBなど10部門に分けて表彰していて、さらにグランプリ、準グランプリをすべての部門の中から決めています。そのほか、35歳以下の会員が対象の新人賞、各審査員が個人的に選ぶチョイス賞など全部で約40種類の賞を用意しています。
小島:クライアントの大小など関係なく、素晴らしい仕事かどうかをしっかりと審査されているので、すごく勉強になりますし、刺激を受けますよ。
岡田:これまでは審査の様子や賞の発表を会員でなくても見られたのですが、コロナ禍の今は一般公開が難しくなってしまって。北海道のデザインの最前線を知れる機会でもあるので、一般公開できるようになったら、ぜひ見に来てほしいです。毎年の入賞作品は年鑑としてまとめ、一般販売しています。ICCにも寄贈していますので、見てもらえたらうれしいです。
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札幌ADCの年鑑は前年のグランプリ受賞者がデザインを担当。最新の「SADC年鑑2019年版」は岡田さんが制作し、しおり紐を効果的に使ったアイデアあふれる一冊になっている。(写真提供:札幌ADC)
視点を広げ、作品づくりへの意識と意欲を高める札幌ADCという存在
──おふたりはいつから参加されているのですか?
小島:私は2003年からですね。デザイナー仲間に誘われて、デザイン団体主催のポスター展に向けて作品をつくり、それを出品したのが最初でした。
岡田:僕はその翌年の2004年から。存在自体はもっと前から知っていたのですが、正直、自分とは無関係だと思っていたんです。というのも、受賞作品や参加者を見ていると、広告代理店や制作プロダクションに所属するクリエイターが輝いている場所のように見えて、僕のような印刷会社のインハウスデザイナーが出すこともないだろうなって。ですが、ある日、うちの会社の50周年のノベルティが、よくある普通の書体で「札幌大同印刷 祝50年」と書かれたボールペンになろうとしていたんです。それを知り、もっと文字をデザインしたノベルティを作らせてほしいとお願いしまして、その作品を札幌ADCのコンペに出品しました。
小島:それって岡田さんが何歳くらいのときですか?
岡田:18年前だから20代後半かな。
小島:それくらいの頃って、私もそうでしたが、他の人から見て「自分がどういうデザインをしているのか」「どのように評価されるのか」を分からないまま仕事している人が結構多いですよね。
岡田:確かにすごいデザイナーがいっぱいいるとは思っていたけど、社内のデザイナーしか知らなかったから、他の同世代のデザイナーがどんなデザインをしていたのかは全然分からなかった。札幌ADCに参加して、そうした人たちと出会えたことは大きかったですし、当時はこんなすごいやつがいたのか!って焦りました(笑)。
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岡田さんが制作した50周年のロゴタイプは2004年のコンペティションにてCI・VI・シンボル・ロゴ・タイポグラフィー部門で銀賞と会員審査賞をW受賞した。
小島:そうですね。積極的に参加している人の中には、普段の仕事から新しいモノを作ろうと意識されている人もいます。普段の仕事は納期や忙しさに追われると、納めることを優先してデザインも無難になりがちですが、コンペなどがあると「この作品を出したら審査員の人たちはどう思うだろう?」と別の視点で考えることができます。札幌ADCの存在は、そうした個々の意識の向上にも貢献できているのかなと感じます。
岡田:「コンペティション&アワード」の後にはパーティーがあり、そこでは審査員の人と交流することができます。僕も自分の作品についてあれこれ聞くのですが、たとえ入選しなくてもいろんな人から自分の作品に対する評価を聞ける機会があるというのも貴重だと思います。
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小島さんは2009年に新人賞を受賞。岡田さんは2008年、2012年、2015年、2018年の計4度のグランプリに輝いている。
デザインには、「心を動かすチカラ」がある
──北海道のデザインはレベルが高いとよく聞きます。岡田:確かに北海道のデザイナーは全国的な審査会や海外のコンペでも受賞したり、評価されているのかなとは感じますね。審査員をお願いしている東京のアートディレクターの方々からは「北海道はクライアントの距離が近い分、気持ちが前に現れている作品が多い」とよく言われているのですが、実際そういうところがあるんだと思います。
小島:特にパッケージのレベルがすごく高いと言われますね。札幌ADCのコンペでもパッケージ部門のエントリー数がとても多かったりします。
──おふたりは社会でのデザインの重要性、デザインが持つ力をどのように考えていますか?
岡田:これは個人としての思いになりますが、僕はデザインの役割として「心を動かす」ことが最も重要だと思っているんですね。デザインに触れることで、些細な幸せを感じさせたり、大きな出来事に感じさせたり、まったく違う心の動きをもたらす。「デザイン」という言葉の意味合いや仕事の領域は年々広がっていますが、そうした肝心な部分はずっと変わらないと思っています。
小島:デザインの領域はディレクションやブランディング、コンサルティングと幅広くなってきていますが、原点であるグラフィックの技術や力量をおざなりにはできません。洗練され、魅力的に映らないと説得力がありませんし、岡田さんの言葉を借りれば、心を動かすこともできない。バランスよく、機能するデザインをつくっていくことが大切だと思います。今、世界はこれまでに体験したことのないような時代を迎えています。これから先、もしかするとまた違ったデザインも生まれてくるのかなと思うと楽しみですし、札幌ADCもそうした新しい風を柔軟に受け止め、正当に評価できる会でありたいと思っています。
──デザインにも新たな時代がやってくる。楽しみですね。
岡田:「こんな手があったんだ!」とか、すごい作品を見たいですね。札幌ADCでの活動は、そうした刺激と出会えるのも醍醐味だと思います。これからもデザイナーたちの放課後の課外活動というコンセプトはそのままに、みんなで情報を共有し、切磋琢磨しながら、北海道のデザインシーンを高めていけたらと思います。
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最近は、なり手が少なくなっているというグラフィックデザイナー。2人は「業界を活性化させるためにも、札幌ADCが一つの使命を担っていると思います」と語る。
札幌アートディレクターズクラブ(札幌ADC)
活動内容|さまざまなジャンルのクリエイターが個人の資格で参加・運営する非営利の任意団体。審査会や交流の機会創出などを通じて、クリエイターの意識向上やレベルアップを図る。会員数 |111名(正会員84名、賛助法人23社、賛助個人4名)※2021年3月現在
文:児玉源太郎(株式会社造形)
撮影:出羽遼介(株式会社アンドボーダー)