現在位置の階層

  1. トップ
  2. ニュース
  3. PICK UP
  4. 【クリエイター×企業】esports特化ホテルのキャラクター「風越星名」に込める “情熱派”経営者2人の思い

【クリエイター×企業】esports特化ホテルのキャラクター「風越星名」に込める “情熱派”経営者2人の思い

PICK UP

更新

恒志堂初の公式キャラクター初披露

不動産業をメインに事業展開する有限会社恒志堂は2021年3月、「VILLA KOSHIDO ODORI」をオープンした。
恒志堂が運営するコンセプトホテル「VILLA KOSHIDO」の3棟目で、ゲームの成績を競う「esports」に特化。
新たなホテルのスタイルが話題を呼んでいる。
  • 風越星名の画像 風越星名の画像
プレオープニングイベントではホテル内部とともに、公式キャラクターが初披露された。

その名も「風越(かぜこし)星名(せな)」。恒志堂のコーポレートカラーであるオレンジが目を引く。レーシングスーツに身を包んで、こう挨拶した。

「みなさん、はじめまして。VILLA KOSHIDO と KOSHIDO eRACING 所属、レースゲームが大好き、風越星名と申します。これから北海道のesports選手たちと一緒に世界へ情報を発信してまいりますので、みなさまよろしくお願いします!」

風越星名を造り上げたのは、キャラクターデザインやゲームイラスト制作を手がける株式会社エクスデザイン

北海道初のesports VTuberをめざす風越星名。恒志堂代表の佐藤元春さんと、エクスデザイン代表の谷本智之さんに、誕生のいきさつや今後のねらいを聞いた。
  • インタビュー写真 恒志堂代表の佐藤元春さん(右)と、エクスデザイン代表の谷本智之さん(左) エクスデザイン代表の谷本智之さん(左)と恒志堂代表の佐藤元春さん(右)

esports先進国での合宿風景から着想

マンション運営のノウハウをホテルに活かそうと、3年前に宿泊業に進出した恒志堂。「VILLA KOSHIDO」は、各階ごとにテーマを設定し、厳選した家具やアメニティを配置。「VIPな雰囲気でも住みたくなるホテル」をめざす。

琴似エリアの2棟に続き、新築した「ODORI」は、esports選手向けに特化した。恒志堂の佐藤元春社長は「東日本初の試み」と胸を張る。

自身も、国際C級ライセンスを持ち、リアルとesports両方のレーシングチームオーナーでもある佐藤さん。設備にはとことん、力をいれた。
  • 恒志堂代表の佐藤元春さんの写真 恒志堂代表の佐藤元春さん
5台の高性能パソコンが並ぶ201号室。esports選手の「強化合宿」に対応する部屋で、プロ選手の利用実績もある。レーシングゲームに特化した部屋には、3台のコックピットが並ぶ。

レーシングゲームではハンドルさばきやペダルを踏む動作。他のゲームでは、コントローラーやキーの割り当てなどの細かい部分が、勝負のゆくえを左右する。いずれも、オンラインでは見えにくい部分だ。合宿では、直に選手の動きを見合うことができ、互いに腕を磨ける。

中国や韓国など近隣の「esports先進国」のプロチームが、合宿所を作って練習している光景から着想を得た、と佐藤さんは話す。

ネット回線にも気を配り、1Gbps近くの速度が安定して出る。佐藤元春社長は「選手にとって、ネットの速度は早ければ早いほど有利。プロの試合にもしっかり対応する」と紹介してくれた。
  • 部屋の写真

    (提供写真)

esportsの浸透進む札幌

シューティングゲームやレーシングゲームなど、あらゆるゲームの腕前を、オンラインやリアルの大会で競う「esports」。大規模な国際大会も増え、なかには数億円の賞金を手にする「プロ選手」が現れている。

アメリカや韓国、中国はesports先進国とされ、サッカーやテニスなどと同様に、選手の養成も活発。「esports観戦」を楽しむファンも多いそうだ。

日本でも、少しずつ浸透が進んでいる。全国の高校に大学で「esportsサークル」ができ、2019年には「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」が初開催された。

札幌市も、市場規模が急拡するesportsビジネスに着目。先進地の調査のほか、esports事業への参入セミナーを、定期的に開催している。イベント「No Maps」でも、esports選手や関係者らの交流会を実施している。

2021年2月には、北海道eスポーツ協会が主催となり北海道最大のイベント「HOKKAIDO esports FESTIVAL2021」を開催。着実に札幌とesportsとの接点が増えてきている。

キャラクターの「人を動かす力」に期待

札幌にもesportsの熱気が届き始めたのを肌で感じ、「札幌をesportsの聖地にしたい」と意気込んでホテルづくりに着手した佐藤さん。しかし、ホテルの強みをアピールするには「ズバ抜けた〈何か〉が必要だ」と感じていた。

「ヨーロッパには、キャプテン翼を見て、セリエAのプロ選手になる人がいっぱいいる。キャラクターの持つ影響力が使えないか」。

ひらめいた佐藤さん。漫画やアニメなどサブカルチャーの勉強を始めた。やがて「ホテルのキャラクターを生みだそう」と結論が出る。

それでも「キャラクター」というPR材料が、日本全国や世界中で通用するだろうか?という疑問は拭えず、漠然としたアイデアを具体的に展開していくパートナーが必要だった。

エクスデザインとの出会いで急加速

ICCでは、市内クリエイターとの連携や、ビジネスにデザインを活用したい企業からの相談を受け付けている。コーディネーターが対応し、企業をつなぐ役割を果たす。

恒志堂は2020年秋、esports関連の専門家との接点を求めて、ICCに相談した。やりとりを重ねるうち、エクスデザインとの協働が提案された。

エクスデザインは、大手ゲーム会社や広告代理店との取引があり、イベント「トマコス」(苫小牧市)のキャラクター作りの実績もあるプロ集団。谷本智之さんが2008年に創業した。
  • とまこまいコスプレフェスタのイラスト とまこまいコスプレフェスタのイラスト
  • とまこまいコスプレフェスタのイラスト とまこまいコスプレフェスタのイラスト
esports関連のオファーは初めて。どんな第一印象を持ったのだろう。

「もともとesportsに関心がありましたが、esportsとホテルという組み合わせは他になく、まず面白いと感じた」(谷本さん)

経営者の人物像に興味が湧いた。佐藤さんのブログなどを読み、事業をリサーチ。レーシングへの熱を見て、「何事にも本気で取り組む姿勢がある人だ」と直感したと話す。
  • エクスデザイン代表の谷本智之さんの写真 エクスデザイン代表の谷本智之さん
初めてのミーティングは2020年10月ごろ、オンラインで行われた。谷本さんが「驚いた」と振り返るのは、恒志堂側がデザインや性格を細かく決めていたことだ。

「esportsとリアルのレースドライバー」「AB型」「文系大学生」「負けず嫌い」「ゲームやレースに関しての熱が強く、ステアリングを握ると性格が変わると噂される」……など。佐藤さんは、「風越星名」の命名のため、姓名判断まで行っていた。

風越星名の設定は、当初提示されたものから、ほとんど変わっていないそうだ。

「キャラクターのデザインや性格をはじめ、どのような場面で活用したいのか、具体的な想定まで恒志堂さんから話がありました。通常、私たちが企業様にご提案させていただく側ですが、今回は恒志堂さんからご提案をいただいた形です。社内でここまで練られている例は、ほとんどありません」

  制作の方向性は、おおむね一致。谷本さんとのミーティングを終え、「漠然としていたキャラクターづくりの構想が、PRにつながる確信に変わった」と佐藤さんは言う。
  • 【KOSHIDO eRacing キャラクター原案】の画像 【KOSHIDO eRacing キャラクター原案】の画像

「どれを選ばれても納得」

佐藤さんとミーティングを終えた谷本さん。早速、キャラクターづくりに着手していく。キャラクターのイラスト作りにあたり、絵のテイストは極めて重要だ。

恒志堂の場合、「スタイリッシュなホテル」「レースカーと並ぶこと」を念頭に、原案をよりよくデザインできるテイスト案を厳選していった。谷本さんの「腕の見せ所」だ。
とはいえ、絶対の正解はなく、最終的には企業が「ピン」ときたものが良いという。

「100人いたとして、全員が好きというキャラクターはいない。最終的には企業様の直感や好みで決まることがほとんど。どれを選ばれても納得が行き、対応できるよう、提案する案は吟味に吟味を重ねます」(谷本さん)

ホテルの開業まで半年足らず。プレオープンイベントで声をつけてお披露目をしたいという要望も加わり、「締切」は迫っていた。

限られた期間で、4人チームを組み、集中的に制作が行われた。等身大の制作物になることを想定して、ロゴの配置などのデザインを、原案から改良していった。

イベントでは、風越星名が声つきの動画で、1分ほどの自己紹介。twitterにもアカウント(@sena_kazekoshi)を開設。「風越星名」が誕生した瞬間だった。
  • エクスデザイン代表の谷本智之さんの写真

キャラクターは育てるもの

ところで、誕生したばかりのキャラクターは、「いわば赤ちゃんの段階で、どう育てていくかが鍵を握る」のだと谷本さんは話す。

キャラクターを誕生させるのが谷本さんの仕事のはず─。育てる、とはどういうことなのだろうか。

「アイドルグループを考えてみてください。結成しただけでは、ファンはゼロ。グループ活動など、動いて初めてファンがついてくる。キャラクターも同じなのです」(谷本さん)

キャラクターにファンがつき、企業がキャラクターに求めるPR効果が現れる、という。ただ、キャラクターを育てるのは、コストも時間もかかる。長い期間でみた計画も必要となり、そう簡単ではない。

風越星名の例では、レーシングスーツを着ていることから、リアルでのコスプレのしやすさや、記念撮影用の看板やグッズとの相性を検討。エクスデザインにグッズ事業部がある強みを生かし、アクリルスタンドや文房具などの制作も引き受ける。

「持続性や、キャラクターに求める効果との合致性などを総合的に見て、クライアントに無理をきたさない提案をしていくのが使命」と谷本さんは強調する。恒志堂の佐藤さんも「段階を踏んで、しっかりとしたロードマップを作ったうえで、世に送り出す必要があった。ありがたい」と応えた。

アイデアは尽きない。VTuberとしては、ミニゲーム大会や特別宿泊プラン、リアルレースの解説動画などのコンテンツをアップしていき、活動の幅を広めたい考えだ。

風越星名には、早くもコスプレイヤー候補者がいるという。単独ライブなど、オンライン、リアル両面の楽しみ方ができるよう、育てていきたいと2人は声を揃える。

札幌企業の熱を感じてほしい

  • インタビュー写真 恒志堂代表の佐藤元春さん(右)と、エクスデザイン代表の谷本智之さん(左)
佐藤さんと谷本さん、2人の経営者には、共通点がある。一つは、札幌への強い思い入れ。もう一つは「人と同じことをしていては、つまらない」という理念だ。

エクスデザインは、創業の動機からも、これを見て取ることからできる。札幌の優秀なクリエイターが、東京や海外にどんどん出ていくのを横目に、札幌でも一流のクリエイターが活躍できることを世に見せたいと、立ち上げた会社だ。

佐藤さんもまた、札幌への愛にあふれた経営者だ。

「札幌は生まれた土地。恩返しをしたい。コロナ禍のオープンだったが、札幌から明るいニュースを届けたかった。苦しいながらも、できる。有言実行したかった」(佐藤さん)

たがいに「熱のある市内の会社と仕事をしたいと思っていた」と、マッチングの結果に喜んでいた。インタビューの合間にも次々と新しいアイデアが飛び交い、ついていくのがやっとだ。

風越星名が情熱大陸やカンブリア宮殿に出演するのが夢─。

2人の熱量が生んだ風越星名の活動は、まだまだこれから。今後の成長に期待したい。
  • インタビュー写真 恒志堂代表の佐藤元春さん(右)と、エクスデザイン代表の谷本智之さん(左)
文:川本 康博
撮影:出羽遼介(株式会社アンドボーダー