現在位置の階層

  1. トップ
  2. ニュース
  3. PICK UP
  4. コロナ対策を考える実証実験「しくみ」プロジェクト

コロナ対策を考える実証実験「しくみ」プロジェクト

PICK UP

更新

コロナ対策を考える実証実験「しくみ」プロジェクト

初のアーカイブ展もICCで3月末まで開催中!

  • メイン画像
 (2021年1月20日リリース)

地域の課題解決に向けて今こそデザイナーが動くとき

 2021年1月、新型コロナウイルスの感染拡大にともない日本各地で緊急事態宣言が発令されている。
北海道は前年の2月28日に全国で初めての緊急事態宣言の対象地域となり、続く4月12日にも北海道・札幌市緊急共同宣言が発令された。
「密閉・密集・密着」の3密を避けるソーシャルディスタンスを取り入れた「新しい生活スタイル」が、他の都府県よりもいち早く始まっていた。

この緊急事態宣言下で「自分たちにできることはないだろうか?」と動き出した札幌のデザイナー有志がいる。日頃は広告や販促活動でその力を発揮している彼らが地域の課題解決に向けて自発的に取り組んでいく。その名も「しくみプロジェクト」が始まった。
  • 札幌市民交流プラザ しくみプロジェクトのコアメンバー

    しくみプロジェクトのコアメンバー。左から伊藤千織さん、カジタシノブさん、佐々木信さん、山岸正美さん。

「しくみ」プロジェクトの発起人はイベントプロデューサーの山岸正美さん。長年広告業界に身を置き、札幌国際短編映画祭や札幌スタイルの立ち上げなど地域の活性化にも積極的に関わってきた北海道デザイン業界のキーマンである。 

「コロナ禍で人を集めるための広告業界もまったく先が見えなくなりました。不安はつきませんが、こういう未曾有の事態にこそ日頃学生たちに伝えているように“デザインの力で地域に何ができるか”を考えるとき」

そのためにも仲間を募りたいと多方面にメールで呼びかけたところ、札幌市交通局のICカードSAPICAや札幌市のシティプロモートのマークを手がけた佐々木信さんと、デンマークで課題解決型のデザインを学んだ空間・家具デザイナーの伊藤千織さんが手を挙げた。
 

「しくみ」プロジェクトの命名は、江戸時代に町の安寧を守った火消し「め組」を意識した。活動コンセプトは「新しい日常の教科書づくり」。
市民の「安心」「安全」を守るだけでなく「楽しい」「美しい」「機能的」「カンタン」「低コスト」を掲げ、将来的には誰でも活用できるオープンソースを目指すという。


札幌市民交流プラザから実験スタート!利用者の反応は…

 日頃のクライアントワークとは異なり、何が出来上がるのか、どうやったら“正解”なのかはわからない。動きながら答えを探る「実証実験プロジェクト」になりそうだと感じた山岸さんたちは、手始めに札幌市経済観光局に相談した。

そこで新たにICCコーディネーターのカジタシノブが、「しくみ」プロジェクトに個人の立場でメンバー入り。4人のコアメンバーが揃ったところで、経済観光局から実証実験の場として劇場や図書館等の複合施設、札幌市民交流プラザ(以下、プラザ)が紹介され、2020年5月から具体的な打ち合わせが始まった。

このときプラザは4月に発令された北海道・札幌市緊急共同宣言を受けて5月2日から臨時休館。その後札幌市図書・情報館を皮切りに、次はフリースペース以外の施設と段階を踏んで再開し、さらに6月26日からはフリースペースの再開が決まっていた。

そのフリースペースのコロナの対策について話し合った結果、伊藤さんがデザイン案を考え、造作が得意なプラザ側のスタッフが材料を揃えて施工する。両者の役割分担で作業が進んだ。

  • 札幌市民交流プラザ 2階の四人掛けボックス席

    札幌市民交流プラザ2階にある4人掛けボックス席に飛沫感染予防のビニールシートを吊した。

  • 市民交流プラザ 2階ボックス席
  • 市民交流プラザ 背もたれのしくみ

    背もたれにも「距離が縮まらないように」あえて違和感のある立体的なプロダクトを設置した。

実験はやはり、やってみなければわからない。上記の事例以外にも各所にソーシャルディスタンスを呼びかける仕掛けを作ったところ、座面設置型のパネルがいつの間にか規定の位置から動かされたり、あるいは壊れたこともあったという。その都度伊藤さんに連絡が行き、また次の手を考えた。

「空間に溶けこむようなデザインを意識しつつも、“ひっかかり”がないと人の気持ちを動かすインフォグラフィックスの役割は果たせない。そのバランスの難しさを改めて実感しました」
現在もプラザでの実証実験は継続中。利用状況を見ながら“その場の最適解”を探っている。

 

赤れんが「アトリウムテラス」にオレンジ色の巨石が出現

 札幌市民交流プラザでの活動を見て、「しくみプロジェクト」に新たな依頼が舞い込んだ。札幌駅の近くにある、全27店舗が集う赤れんがテラス2階のフリースペース「アトリウムテラス」のコロナ対策である。

「プラザは市の公共施設ですが、赤れんがテラスは民間施設。利用者の方々に向けて“使う以上は徹底して守っていただきたい”という最大限の感染予防を望む館側の意志を伝えるために、インパクトのある岩を模したオブジェを作り、キャッチコピーも『あなたの命を守る実験』と強めの言葉を使いました」(山岸さん)

  • 赤レンガ

    オブジェの設置は2020年11月。営業終了後の真夜中に行われた。“岩”の素材はアルミ合板とFRP(繊維強化プラスチック)。札幌の施工会社が協力した。

  • 床のサイン

    床にも「必ずマスクを着用」「会話は禁止」などのサインを設置。

  • 赤レンガの全体像

    設置後のアトリウムテラス。世界に点在する巨石信仰にならい、平穏な社会を再び取り戻す願いをこめた。★

穏やかに利用者との相互理解を深めたい公共施設と、徹底したコロナ対策で感染拡大を防ぎたい民間施設。目的は同じでもアプローチは異なる両者のように、「しくみ」のアイデアは案件ごとに求められる。

ベテランデザイナーたちの豊富な経験と徹夜の作業もいとわぬ機動力が、余すところなく発揮されている。


アーカイブ展が3月末まで開催中、書き下ろしの音楽も

 「しくみ」プロジェクトは各メンバーが本業のかたわら行っているため、市民にわかりやすいように発信するアウトリーチに課題が残ることは否めない。

そこでメンバーがいるICCで2020年の年末から《「しくみ」のしくみ展 vol.01》と題した初めてのアーカイブ展を開催中。
これまでの流れがわかる動画や製作したプロダクトの実物やプロトタイプが展示されている。

  • ICC展示

    会場のBGMはサウンドデザイナーの畑中正人さんが書き下ろした『交差する2音』。本来は同時に重なると不協和音を生む2つの音を使い、適切な距離感を表現した。★

「しくみ」のしくみ展 vol.01
会期/2020年12月18日(金曜日)〜2021年3月31日(水曜日)
開館時間/9:00〜22:00
※占有イベント利用時は観覧できません。下記のコワーキングスペース利用状況カレンダーをご確認ください。
会場/インタークロス・クリエイティブ・センター(1階クロスガーデン)
札幌市白石区東札幌5条1丁目1-1(札幌市産業振興センター内)
 
「『しくみ』プロジェクトはデザイナーやクリエイターだけが考えるのではなく、市民の皆さんと一緒に育てていきたい」という思いから、2021年1月に新たに動画配信「しくみTV」も始まる。

札幌から始まった新しい「しくみ」。どう発展していくかは、このまちで暮らす私たち一人一人の行動にかかっている。

 

 

関連イベント

「しくみTV」Vol.1特集:しくみの仕組みに迫る
日時/2021年1月21日(木曜日)19時00分~21時00分(開場18時30分)
会場/インタークロス・クリエイティブ・センター(1階クロスガーデン)
札幌市白石区東札幌5条1丁目1-1(札幌市産業振興センター内)
参加方法等詳細はこちらから

しくみ (外部サイト)新規ページで開きます

 文・★撮影 佐藤優子
画像提供 「しくみ」プロジェクト