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札幌の歴史ある印刷関連業4社が合同で商品開発・販売・広報「北紙道」

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札幌の歴史ある印刷関連業4社が合同で商品開発・販売・広報「北紙道」

「ああ緊張した…!」「汗だらけになっちゃった」

インタビュー会場に訪れると、少年のような笑顔を見せながら和気あいあいと話をしている人たちの姿が見えた。オンラインイベントで流すビデオ撮影を、ちょうど終えたところのようだ。

集まっていたのは、「北紙道 hokKAMIdo」のメンバー。オリジナル商品の開発やPRに取り組もうと、印刷の「プロ中のプロ」たちが企業の垣根を超えて集まり、7月に発足したチームだ。

コロナ禍を集結のチャンスに

新型コロナウイルスの感染拡大につれ、イベントは相次ぎ中止となり、移動自粛で旅行客も急減。それに付随する形で印刷に関する需要も一気に「蒸発」し、印刷関連業も大きな影響を受けた。

それは商品PRの場にも影響が及んだ。東京で夏に開催予定だった紙ものや雑貨好きに大人気のイベント「紙博」もオンライン開催に変更になった。だが、これを「チャンス」に変えたのが、発起人の北海紙工社・梅田修平さんだ。
  • 梅田さんの写真

    北海紙工社の営業企画部長・梅田修平さん。発起人であり「北紙道」で一番若いメンバー。

 「オンラインで東京に行かずに済むなら、札幌のメンバーで組んで、面白いことができそうだ!」

ピンときた梅田さんは紙博の開催が1か月後に迫る中、自社製品の企画・制作の経験がある北海道の印刷関連会社3社に声をかけた。 

石田製本株式会社、札幌大同印刷株式会社、モリタ株式会社。

3社とも札幌の地で、60年以上の歴史を持つ老舗だ。いずれもこれまでに培ってきた高精度な技術やノウハウ、そして楽しく、真剣にものづくりに挑むパッションを持っている。 

札幌の印刷関連業界が高品質のモノを作れると知ってもらいたい。
札幌の印刷関連業界を盛り上げたい—。

お金も時間も何より労力もかかるが、3社は快諾。7月初旬の初顔合わせを経て「北紙道」のトライが始まった。

印刷を究める4社の特色

一口に「印刷」と言っても、集まった4社にはそれぞれ違う得意分野がある。そこで「北紙道」に参加した4社の特色や得意分野を遺憾なく発揮している各社の商品をざっとご紹介したい。いずれも老舗ながら新しいことに取り組む冒険心いっぱいの会社だ。
  • 4社の代表的なオリジナル製品の写真。

    4社の代表的なオリジナル製品。どれもデザイン性に富み、高度な技術を必要とするものばかりだ。

 株式会社北海紙工社
北海紙工社は1931年創業。紙箱やパッケージを製造する会社で、厚い紙への印刷や加工が得意。きれいな色出しや打ち抜きなど、高い精度の加工技術を持つ。
近年、一般向けのブランド「ほっかいしこう社」を立ち上げ、ポストカードや紙製の花瓶、折り畳めるギフトバックなど、デザイン性と実用性を兼ね揃えた商品を販売している。
  • 北海紙工社さんの写真

    手に持っているのはポストカードで、木彫りのクマやホッキョクグマなどのバリエーションがある人気商品。特殊な紙と厚紙を貼り合わせ、ユニークな風合いが楽しめる。

石田製本株式会社
1937年の創業来、「上製本(ハードカバー本)」の製本をメインに扱っている。紙を糸で綴る「糸がかり」の作業は、機械だけでは不可能なことも多く、職人が手作業で行う。これまでに蓄積した技術や新たなアイデアを形にした文具を制作・販売するブランド「booco」を立ち上げ、新作も続々登場している。
  • 北海紙工社さんの写真

    新作の一つ、2021年ダイアリーは、紙の色に加え、綴る糸の色も1本ずつ変え、カラフルにした力作。

札幌大同印刷株式会社
1954年創業。デザインに力を入れた商業印刷をはじめ、近年はWEBサイトの制作も行っている。強みはなんと言っても「面白さ」。
アイデア探しに余念がなく、2020年7月には、遊びゴコロ満載の商品を販売するWEB通販サイト「DAIDO Stationeries」をオープン!
  • 大同印刷さんの写真

    身につけているのは、なんとメモのできる紙製ネクタイ。車での移動中、メモをできる紙を探し慌てた経験から生まれた商品だという。3色展開。

モリタ株式会社
1932年創業。食品や雑貨、ギフトなどさまざまな紙箱を製造する会社で、全国に顧客を抱える。シャープな角に仕上がる特殊な「Vカットボックス」加工のできる数少ない会社。デザイナーとの関わりを深め、箱のデザイン展「HAKOMART」を開催したり、デスクトップ収納箱「MiNiMuM-Space」をデザイナーと開発し全国販売している。
  • モリタさんの写真

    複数の箱をはり合わせて作る、折りたたみ式の収納具。職人が一つ一つ、糊で貼り付けているというから、精度の高さに驚きだ。

週1回のオンライン会議で仕様決め

話を「北紙道」に戻そう。顔合わせを終えたあとは、週に1度ほどのオンライン会議でどんな商品を作るかを決めていった。

4社の「得意」を1つの商品にぜんぶ盛り込むのは言うまでもなく「難題」だ。しかも、お披露目予定のオンライン紙博まで1か月もない。スピード感も求められていた。

各社の担当や工場の職人らも交えてアイデアを持ち寄った。「宿題」を持ち帰っては、次の会議に臨む作業をくり返したが、一筋縄ではいかなかった。

そんななか、石田製本から「隠し本はどうだろう」と提案が出た。ただ「隠し本」自体はそう珍しくない。

そこに「押し花」や「旅日記」や「手紙」といった実用的な要素を加えよう─。こうした紆余曲折を経て、仕様が決まった。

  • 「北紙道」の立ち上げ時やアイデア出しの様子を振り返る北紙道のメンバーの写真

    「北紙道」の立ち上げ時やアイデア出しの様子を振り返る北紙道のメンバー

 「我々だけだと、印刷のことだけしか分からない。話がとっちらかって方向性を見失うときもあった」(梅田さん)

会議にはICCのコーディネーターが同席。印刷を知らない〈外部〉の目線が、アイデアのとりまとめる「あと一押し」の場面で助けになったという。

新型コロナ禍でテレワークでのコミュニケーションに四苦八苦しているという話も耳にする。ましてや紙の手触りや光沢感など、もっとも画面越しでは伝わりにくそうだ。しかもプロ同士だからこそ「譲れない部分」だってありそうだ。苦労はなかったのだろうか。

そう聞くと「打ち合わせはスムーズだった」と、口を揃える。不思議で仕方がなく「なぜ、そんなにうまくいったのですか?」と、もう一度聞いた。

「みんなプロですから。」

メンバーは全員、経験豊富。プロ同士、互いの仕事を信頼できるからこそ、敬意を払い仕事に取り組める。それはオンラインでも対面でも変わりはなかったのだろう。
  • オンライン会議の写真

    (写真・北紙道提供)

第1号作「花と言の葉を綴じる旅」

完成した商品は「花と言の葉を綴じる旅」と命名。縦横27センチ、厚さ9センチと大型で、ずっしりとした重量感がある。

  • 押し花のできる日記帳の写真1

    「花と言の葉を綴じる旅」は5点組。1点1点に4社の得意な技術がとことん盛り込まれている。(写真・北紙道提供)

  • 押し花のできる日記帳の写真2
いちばん厚い本は一見、「押し花のできる日記帳」。ところが、後ろ半分のページは紙の大部分がくり抜かれていて、大中小3つの紙箱が隠されている。
  • 押し花のできる日記帳の写真3
一番大きな隠し箱には、レターセットが収められている。北紙道のロゴマークがプリントされた便箋と封筒で、使うのがもったいない気がするほど上品だ。(写真・北紙道提供)

数百ページをくり抜いて、箱をぴったりと納めるには、高い水準の加工技術が求められる。北海紙工社の打ち抜き技術が生きている。製本は石田製本の職人が 1冊ずつ手作業で行っている。
  • 押し花のできる日記帳の写真4
すべてを格納する外箱(写真左)はモリタが製造、もちろん「Vカットボックス」加工を施してあり、思わずじっくり鑑賞したくなる仕上がりだ。
  • 押し花のできる日記帳の写真5
全体のデザインを担当したのは、札幌大同印刷のデザイナー岡田善敬さん。

「このデザインは、梅田さんから届いた長いメールによって一気に完成しました。コロナに向き合い、自分たちが今つくるべきものは何か、考え抜いて綴られたメールに感激し、その熱い想いに応えたいと心から思い、短く限られた時間の中、精一杯デザインさせていただきました。」(岡田さん)

表紙には、札幌市の花で「再び幸せが訪れる」の花言葉を持つスズランを大きく入れた。「旅」をイメージする小鳥をあしらい「言の葉」をイメージしたペン先を添えた。
  • 言の葉の写真

    左が押し花のできる「隠し本」。右は押し花や手紙などを収納できる箱。どちらも厚紙に砂のような手触りの特殊紙「サガン」を貼り合わせ箔が押されている。背表紙には布を、素材選びや配色も岡田さんが担当した。

隠し本を数ページめくると、栞のように1枚の「手紙」が挟まれていた。

“わたしたちの世界には、美しい花と美しい言葉が溢れています。”
“押し花と言葉のふたつに、世界の美しさを理解し永く残すための技術という共通項を見出しました。”

北紙道が「花と言の葉を綴じる旅」に込めた思いと、楽しみ方がまとめられた文をぜひ一読してほしい。

紙博で初披露 作る過程も公開

2020年8月3日から13日にオンライン開催されたイベント「オンライン紙博」で、満を持して「花と言の葉を綴じる旅」は販売された。

PRイベントの一環として、商品の制作過程を撮影した動画も交え、工場から中継を行った。成果物だけではなく「できるまで」を発信することで、いっそう「北紙道」の高い技術や活動に、関心をもってもらおうという狙いだ。 

  • 紙博オンラインイベントの写真

    工場に設置したカメラに向かって配信を行う「北紙道」のメンバー。(写真・ICCコーディネーター提供)

2020年11月16日から23日には、「VIRTUAL ART BOOK FAIR」に参加。毎年、国内外のアート出版社や書店が出展する大型イベントで、今年はオンライン上に展示ブースを再現する形で開催される。

会期中にhttps://virtualartbookfair.com/ にアクセスすると、展示ブースを見ることができ、「花と言の葉を綴じる旅」はもちろん各社の商品を購入することが可能だ。この取材を冒頭でお伝えした緊張しながらICCで撮影した商品紹介ビデオも見られる。

北紙道は、来年以降も引き続き活動を行う予定だ。「北海道の印刷関連業界で高い品質のものづくりをしていることを、もっと多くの人に知ってもらいたい」とメンバーは意気込む。

  • 北紙道メンバー5名全体の写真

    (写真・川本康博提供)

文 川本 康博
撮影 footic minaco.