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新春特別対談  デザインディレクター ナガオカケンメイ氏

デザインとリサイクルを融合した「D&DEPARTMENT PROJECT」、地場の若い作り手とともに日本のデザインを正しく購入できるストアインフラ「NIPPON PROJECT」など、次々に新しい展開を見せてくれるナガオカケンメイ氏。D&DEPARTMENT PROJECT SAPPORO by 3KGなどを通じて札幌や北海道にも縁が深い。昨年11月には日本をデザインの視点で案内するガイドブック「d design travel」を創刊、北海道が第一巻の舞台となった。 次々に展開される新しいプロジェクトの発想はどこから生まれてくるのか。ナガオカ氏と旧くから親交のあるICCチーフコーディネーター久保俊哉がその秘密の解明に挑んだ。 

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 −ナガオカさんの活躍ぶりは多方面にわたっていて、紹介するのが難しいのですが(笑)、簡単に言うと何屋さんということになりますか?

もともとはグラフィックデザイナーですが、いまは、デザインの領域でデザインを使って何かをするということが多いので、「デザインディレクター」ということになるでしょうか。 肩書きについては色々聞かれるのですが、自分では“ビジョナー”と名乗りたいですね。“ビジョナー”という肩書きは日本ではあまり聞かないと思いますが、例えば大阪万博は岡本太郎が一人いたことで成立したという意味で、彼は完全に“ビジョナー”ですよね。そいういう人を目指したいと思っています。目指しても簡単になれるものではないでしょうが、人格から含めてダイナミックにデザインに関係したいなと思っています。あまりいうと恥ずかしくなりますが。(笑)

−長年、デザインの世界で活躍されてきて、十分にキャリアを積まれた今、ナガオカさんの目に見えていることはどんなことでしょう?

僕は学生の時に自分の目と耳と足でかなり色々なものを見ました。その時に見たものが今の自分のベースになっているように思います。 いま学校で教えているのですが、僕自身がそういう経験をしているので、「学生の時には学生らしく生活しろ、大人のマネはするな」と言っています。 学生たちは今、就職のことで頭がいっぱいです。特に、学校を卒業したら、デザイン事務所とか、その道の会社や業種に就職しなくちゃと思っている学生がほとんどなのですが、僕はとにかく「卒業したら、全く違う職業を経験しなさい」と言っています。それは、クリエイターになるなと言いたいのではなくて、Creationをしてほしいからこそそう言うのです。 デザイナーとかクリエイターは自由な職業だと思われがちですが、決してそうではありません。デザイナーの仕事というのは、社会から問題を拾って、それを解決することです。社会に対する解をしっかり持っていないとやっていけない職業だと思います。だから、そこを意識するために、どんな職業でもいいから一度は仕事に就いて、社会を知る必要があると思っています。 いま僕は44歳ですが、僕らの世代がこうしていられる土台を作ってくれた50代や60代の先輩たちともようやく対話ができるようになってきました。最近は、そうした先輩たちと若いデザイナーとの間に入って対話のつなぎ役をする立場も意識しています。たぶん、それは40代だからこそやらなくてはならない役割の一つだと思っています。

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 −D&DEPARTMENT PROJECTやd design travelなど、ナガオカさんが手がけるものを見ると、いつもユニークなポジションというかセンスを感じるのですが、それらの発想はどういったところから出てくるのでしょう?

自分の特殊性は、ミーハーな部分にあると思います。(笑) ミーハーというのはすごく重要で、Creationには絶対に必要な要素です。 僕は北海道生まれの愛知育ちなのですが、ちょうど愛知で暮らしているときに、ロンドンを拠点にしているICAというギャラリーが日本に拠点をもっていて、それが幸運にも名古屋にあったのです(ICAナゴヤ)。 南條史生さんという優れたディレクターがキュレーションをしていて、僕は高校卒業後に飲食業をやりながらバイトでICAに通い、そこで目標を見つけました。僕の中にある美術館やグラフィック、ギャラリーなどの基本はそこにあります。 実際にロンドンに行って本家のICAを見て、バラックで学生食堂以下のような建物を使いながら、しっかりキュレーションされたギャラリーを目の当たりにして衝撃を受けました。日本の美術館のように立派なものを目指してはいないけれど、そこにはちゃんと本質があった。そういう空気感を日本でも再現できないかと思いました。それがD&DEPARTMENT PROJECTにも生かされています。

−D&DEPARTMENT PROJECTではロングライフデザインを提唱されていますね?

はい。よく、「ロングライフデザインは生み出せますか?」と聞かれるのですが、僕は生み出せると思っています。ただし、ロングライフデザインには10の条件があると僕は思っています。その1つに「修理ができること」という条件があります。今まで僕らが使い続けているものは修理ができているから使い続けていられるわけで、新品と交換することが当たり前になっている今の商品は、なかなかこれをクリアできないでしょう。D&DEPARTMENT PROJECTで扱っている商品は、この10項目に照らして、それをクリアするものを売っています。商品のメーカーに「ここが壊れたらどうするんですか?」と聞いて、修理できないものはその時点でロングライフデザインから外れてしまいます。

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 −今回d design travelを出した背景やねらいはどんなところにありますか?

日本中がデザインに関心を持ちはじめているのに、観光が若返っていないことに気づいたのです。 子どもからお年寄りまで、これだけデザインに囲まれて生活しているわけですから、知らず知らずのうちにデザイン的な感覚は植えつけられています。駅前の観光案内所に行って観光パンフレットを見るだけでも、そこにはデザインがしっかり生かされていて、イケてるデザインのものとそうでないものは誰の目にも明白で、無意識のうちにデザインレベルの高いパンフレットを手に取っているわけです。 そして、デザインに関心を持つ人は、現場を訪ねる旅をするときも、デザインの視点でその土地らしい宿やギャラリー、カフェや工房を訪ねます。 だとすると、いつまでたっても観光案内所やタクシーの中や旅館や飲食店が昔のままのデザインでいると、そこに人が行かなくなってしまうし、「あそこに置かれるんだったらモノを作らない」というような悪循環に陥ってしまいます。そこで、観光に関すること全体をデザインで底上げする必要があると思ったのです。そのためには、観光ガイドもこれまでのような情報満載のものばかりではなく、デザインに関心のある人たちがデザインの視点で選んだ情報が載っているトラベル誌、編集者の顔が見える旅の本があってもいいんじゃないかということで、とにかく一つ作ってみようということになりました。

−d design travel誌の10ページに、掲載対象をどんな基準で選んだかが書かれています。「その土地らしさがあるもの」「その土地の人がやっていること」といった条件をつけていることや「継続性のないものはとりあげない」というロングライフデザインの視点が入っている点は素晴らしいと思います。

ありがとうございます。d design travelは、その土地らしさがあることを条件にしているので、第一号の北海道版では北海道らしいものしか選んでいません。東京を真似た旅館やカフェは掲載対象から外れますし、一見良さそうなところでも、「どこがこの土地らしいのか?」という視点で見ると、結局は違ったというケースもあります。

−取材にあたって、「カメラは一般のものを使い、特殊なフィルターやレンズは使わない」というのも面白い条件ですね。これは、誰でもこの本を作るのに参加できるようにハードルを下げているのですか?

その通りです。デジカメも進化していて、今の人たちは一定以上の解像度で写真を撮ることが普通になっているので、いつでも雑誌に参加できるようにと思っています。おそらくあと2年もすれば、家庭用のプリンタで製本ができる時代になるでしょう。そうすると、PC上でこの雑誌のフォーマットを公開していって、自分でd design travel誌を製本できるようになると思います。そういったことも考えています。

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 −d design travelの第一号は北海道版だったわけですが、今後、他の地域でも展開されていくのですか?

そうです。20年くらいかけてやっと47都道府県できるかなという感じです。 たぶん全都道府県が完成する頃には僕も65歳くらいになっていると思います。(笑) 20冊くらい発行されたたところで、例えば北海道の誰かが北海道の分を月刊化してくれたりすると嬉しいですね。 実は先日、沖縄の人からこのd design travelの沖縄版が届きました。僕らはこの本の発行については、表紙のデザインから何からをブログで公開しているので、マネしようと思ったらできるわけです。それを見た沖縄の学生が、自分たちでd design travel沖縄を勝手に作って送ってきたのですが、なかなか面白い内容でした。 この手法は、僕らの年代でいえば、「ぴあ」に似ています。「ぴあ」は、あのようなフォーマットで情報を出すことのポテンシャルを証明しましたが、同時にスタイルの提案でもあったわけです。それはd design travelでも目指していることです。

−d design travelを通じて、地域がデザインを考え直すきっかけになると良いですね。

 今は東京からも、世界からも、情報がものすごいスピードでどんどん入ってくるので、影響されるスピードも速くなっています。その結果、自分らしくなくてもウケるものがすぐ手に入ればそれでいいじゃないかという風潮になって、デザイナーもその土地らしさをコンサルするのではなく、いかに流行ったものを早く取り入れるかを考えるようになってしまったように思います。 ファッションにしても、日本のDCブランドで生き残ったところは、結局自分たちらしさを持ったところだけでした。トレンドをいち早く吸収するのが今のファッションになっていますが、デザインも同じで、トレンドを吸収する業態になりつつあります。しかし、それではデザインもやがて崩壊してしまいます。 よく、「東京でできるCreationが地方に住んでいるとできない」などと言う人がいます。 しかし、地方ですごく成功していて、東京でも十分通用するレベルのクリエイターに時々出会うと、彼らは東京をベースにものを考えていなくて、どこに行っても自分は自分だし、デザインを生み出す思想を持っているので、どこにいても高いレベルのデザインを生み出しています。そういう人たちに活躍してほしいですね。 

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 −来年は2010年ということで、21世紀に入って10年目になりますが、自分が生きてきた時代から大きく何かが変るというような予感などはありますか?

おそらく、2010〜2012年頃までは僕らが思い描いていた未来が現実的にやってくると思います。リニアモーターカーは走らないにしても、電気自動車などはものすごい勢いで普及すると思いますし、そういう面では、僕らが30年くらい前に描いていた未来が次々に実現するでしょう。 そうした中で、「デザインするとは一体どういうことなのか?」を根本的に考えないといけなくなると思います。アートとか、メンタルな部分でのCreationもすごく重要になってきて、新しいデザイン的なカテゴリーとか業態が次々と生まれてくるような気がします。 細かいことを言えば、家庭用のプリンタが製本機能を持ったり、雑誌が10部や20部くらいでも機能するようになるかもしれない。 そんな考えから、d design travel も、雑誌、Web、アプリ、パーソナルなTV、そして場所という5つで改革していこうとしています。だから雑誌はその1/5でしかないわけですね。色々REMIXしながら、観光というものを若返らせていこうとしています。今まで組み合わせることがあまり考えられなかったものを取り上げるという、そういう発想力もクリエイターにはすごく重要になってくると思います。

−とても良い話ですね。(笑)
ICCのコンセプトにある「インタークロス」というのは「交配」を意味していて、この発想はいまのお話と同じだと思うんですね。まさにその新しい組み合わせを考える時に、人間性とか思いやりのようなものがコアになって、それをつなぐ道具がデジタルなのだろうという考え方です。
 

きっと、デジタルのような表現が「体温」を持ち始めてくるのではないでしょうか。 頭の中にあるものを見せられたり、触れたりできる状態になってくるかもしれない。 そうなった時には、こうした雑誌だとか、今から何十年も前に僕らの先輩たちが作った媒体とかハードのあり方がガラっと変ってしまうでしょう。具体的にどんなことになるのかはわかりませんが、少なくともそうした変化に柔軟でないとダメだと思います。 自動車産業をみても、日本はいかに高性能なエンジンを作るかということでこれまで伸びてきましたが、モーターさえあれば誰でも車を作れる時代になっているのに、まだエンジンにこだわるのかと。車を作るベンチャー企業がすごくたくさん出てくるかもしれないし、3人くらいでテレビ局を開局するとか、今まで考えつかなかった様々なことが起きるでしょう。どういったものに価値観を見出すかという点については色々考えられるし、ワクワクしますね。

−そういう変化の中でも、D&DEPARTMENT PROJECT のように、物理的な場所や空間、ちゃんと足で立てるアナログな空間があることは大事ですね。
ナガオカさんはこういう次元の使い方がとても上手だと思います。戻れる場所があるとか、来るべき場所があるというのはすごく大切なことではないでしょうか 。

そう思います。今から20年くらい前に「バーチャル」という言葉がでてきて、未来像を予測していたそのバーチャルがこれからますます本格化していって、現実と仮想の2種類の世界をどう生きるか、どう両立させるかといったことで悩む時代が来るかもしれません。あまり考えたくはないですが、その時にもやはり現実的な場所の意味合いはとても重要になってくるし、戻れる場所とか自分のアイデンティティを感じられるような原点が重要になってくるでしょうね。

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 −最後に、今年、2010年の事業プランなどを教えてください 。

4月にd design travelの東京版を出す予定です。 ものすごい情報量を持った街、継続性があるのかないのかもわからない街、僕が今住んでいる街・東京を対象にしたトラベル本に挑んでみたいと思っています。 最近、やたらとロングライフデザインっぽい建物や店が多くて、一見、昔からあったように思えるほど巧妙なつくりのものも多いので、そこをしっかり見極めていきたいですね。日本のマーケティング力はすごいですから、騙されないようにしないと。(笑)

−東京版のd design travelにも期待しています。今日はありがとうございました。

BGM:渡辺崇(Junkan Production)

■ナガオカケンメイ
1965年北海道生まれ 日本デザインセンター原デザイン研究室 (現研究所)を経て、drawing and manualを設立。2000年、これまでのデザインワークの集大成としてデザイナーが考える消費の場を追求すべく、東京・世田谷にデザインとリサイクルを融合した新事業「D&DEPARTMENT PROJECT」を開始。02年には大阪・南堀江に2号店を展開。また同年より、「日本のものづくりの原点商品・企業だけが集まる場所」としてのブランド「60VISION」(ロクマルビジョン)を発案し、カリモクの60年代の廃番商品をリブランディングするなどのプロジェクトを推進。現在、地場の若い作り手とともに、日本のデザインを正しく購入できるストアインフラをイメージした「NIPPON PROJECT」を47都道府県に展開中。その第1号店として07年11月、北海道・札幌市に「D&DEPARTMENT PROJECT SAPPORO by 3KG」をオープン。2009年11月、日本をデザインの視点で案内するガイドブック「d design travel」を創刊。
http://www.d-department.jp

 <対談を終えて>
ICCチーフコーディネーター 久保俊哉

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 ナガオカケンメイさんは会った瞬間から、「なにか人と違うな」という印象を持っていました。今回、対談してみてわかったのですが視点がユニークなのですね。そのユニークな視点をきちんとデザインできる、しかも実現できる。それがナガオカさんのすごいところだと思います。ちょっと先を行きながら、ちょっと前に見過ごした小さな良い物をちゃんと拾って再編集していける。可視化・価値化ができる、そんな才能の持ち主だと思います。ある意味トリッキーにも見えて、でも確信犯的な自信がみなぎっている。常に穏やかだけれど情熱と覚悟がある。そんなナガオカケンメイさんとの新春対談では、この一年の指針にもなるすてきな話を聞かせてもらいました。ICCは今年で10年目。これからの10年も多くのアイディアを熟成させていきたいなと改めて思いました。

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文・構成 佐藤栄一(プランナーズ・インク)
http://planners-inc.sblo.jp/ 

最終更新日:2010年01月01日