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イベントプロデューサー  小島 紳次郎さん

北海道の音楽シーンとともに31年
オリジナル企画で心をつかむ


イベント会社WESSと北海道の音楽シーンは線路のレールのような関係だ。
今年14年目を数えるRSRをはじめ、
数々の忘れられないライブステージを北海道の観客に届けてきた。
2000年には道内初の音楽コンベンションイベント「MIX2000」を展開。
つねにオリジナル企画にこだわる音楽仕掛人、
WESSの小島紳次郎社長にご登場いただいた。

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  • 「ウエス社長室」

  • 「メモリアルグッズ 1」

  • 「メモリアルグッズ 2」

  • 「ライジングサンロックフェスティバル ポスター」

  • 「レゴ®ブロックワールドSAPPORO ホワイトワールド」

  • 「SXSW2011 トレードショー」

  • 「レゴ®ブロックワールドSAPPORO ホワイトワールド」

  • 「小島 紳次郎さん 1」


 

お宝満載の社長室、行動範囲は海を越えて

見る人が見れば垂涎モノがあるに違いない。札幌西区にあるWESS本社の社長室を訪ねると、ビートルズや中島みゆきたち大物アーティストのお宝グッズが所狭しと並んでいた。
前身の企画会社「ウイークエンド」から音楽イベントに特化したWESSを作って31年。北海道の音楽シーンとともに歩いてきた足跡が詰まった社長室だが、本人は「できるだけ会社にいたくない」行動派。毎年一度は海外に足を運び、世界のエンターテインメントビジネスを自身の目で確かめに行くという。

kojima01.jpgお宝グッズが並ぶウエスの社長室。小島社長が「うちの若いの」と呼ぶ社員は現在47名。RSRの時期は関係者100人近くが不眠不休になるという。


ICC久保とは2000年に開催された音楽イベント「MIX2000」を機に交流が始まった。今回のインタビューも「久保さんが聞き手なら」と、いつもは避けているご本人への取材にOKをいただいた。「プロデューサーの大先輩である小島さんに聞きたいことは山ほどある」と久保も楽しみにしていた時間だ。

北海道・札幌で「え、こんな新しいことが始まったの?」というイベントの送り手には、ほぼいつもこの人の名前がある。WESSの小島紳次郎社長にお話をうかがった。



自作Tシャツでプロデュース業に開眼

1950年浦河生まれ。江別高校を卒業後、北海道デザイン研究所(現・栗谷川学園北海道造形デザイン専門学校)に進学した。1970年、ウッドストックのドキュメンタリー映画が公開された。見たこともない大規模野外フェスの熱気に衝撃を受けた。
なかでも目に焼き付いたのは観客が着ている色とりどりの絞り染めTシャツ。「欲しい、けどどこにも売っていない。じゃあ作るかと」。友人らと作ったTシャツは学校で飛ぶように売れた。
じきにブティックに卸すまでになり、とうとう会社員以上の収入を得ることに。パートまで雇っていたというから驚かされる。小島さん20歳、学校を辞め「ゼロから作る」プロデュースの道を歩き始めた。

初めて運営した本格的なコンサートは1972年中島公園の野外音楽堂で開いた「ひなたぼっこ」という。東京や京都からアーティストを呼び寄せ、小さいながらも札幌版ウッドストックを実現した。
レンタル楽器やPA屋もない時代、仕事の声がかかるたび必要なものはすすきののバンドから借りた。コンサートがある土日はすすきのが休む。平日の夜中に借りに行き、機材を寝かせずフル活用した。じきに自分たちで機材を揃え、ますます仕事が増えていった。

kojima02.jpgWESSは何の頭文字ですか?「ウイークエンド・ステージサービス。人が遊んでいる土日祭日に働けば週4日くらいは遊べると思って。遊び人の発想です(笑)」


「使えるやつ、詳しいやつ」の情報は音楽専門誌のツテや業界の口コミから。ステージ企画からアーティストの手配、照明、PAまわりの裏方まで、小島さんの周りには細胞の増殖のように音楽・ステージのプロが集まった。
「今みたいに何でも細分化されていない時代だったからね。テレビ局が公開録画を始めるようになったときも、全てできます、仕切らせてもらいますと言えた時代でした」
そして1981年にWESSを設立。北海道の音楽シーンが大きく動き出す。



国際音楽コンベンション「MIX2000」を実現

2000年は小島さんにとって大きなチャレンジの年だった。発想を得たのはアメリカから。1996年からアメリカ・テキサス州のオースティンで続く「SXSW (South By South West :サウス・バイ・サウス・ウエスト)」は世界最大の音楽コンベンション。アーティストの売り出し方に悩む3人のマネージャーが互いに意見交換の場を持とうと全米に呼びかけたのが始まりだ。

今では5日間の期間中1000組以上のライブが行われ、日中は音楽業界関係者に向けたセミナーやパネル(勉強会)、トレードショー(見本市)、フィルム・フェスティバルも開催。インタラクティブIT分野ではいち早くTwitterに着目し、大ブレイクとなるきっかけを作ったのもSXSWなのである。

kojima03.jpg「後にも先にもMIX規模のコンベンションはない」と久保。現在「初音ミク」で知られるクリプトン・フューチャー・メディアの伊藤博之社長もMIXの賛同者だった。


現地を見た小島さんはこのSXSWのうねりを札幌で起こそうと考えた。2000年10月5日からの4日間、「札幌市全体が音楽の街になる」というコンセプトのもと、北海道初の音楽コンベンションイベント「MIX2000」を開催。国内外のアーティスト220組以上のライブと見本市、20講座近くのセミナーを展開した。
ところが前例のない大規模がかえって観客の足を鈍らせた。反応は予想以上に振るわず99年のプレ、00年、02年の3回開催でMIXは収束した。

kojima04.jpg昨年3月にはSXSW2011のトレードショーに参加。「SAPPORO IDEAS CITY」ブースでRSRやSAPPOROショートフェストを紹介した。東日本大震災復興の義援金も募ったところ、各国から温かい応援が寄せられた。(画像提供:久保俊哉)


久保はこう語る。「コンベンションイベントの価値を我々に気づかせてくれた画期的な挑戦。札幌で国際的なイベントができることを証明した意味でも先駆けであり、札幌国際短編映画祭はMIXのDNAをしっかり受け継いでいます」。
他方、伸び悩んだ動員数については「初めから手広く展開しすぎた。ユーザーを迷わせたかもしれない」と小島さんも打ち明けた。
ただし見本市やセミナーなど業界向けの催しに対しては「空席が目立ったのは残念」とも。国内の音楽マーケットは多分に“当たったモノ勝ち”の傾向にあり、「もっとどん欲に世界の最新情報や成功例を学ぶ時間を作ってもいい」。自身も毎年必ず海外の視察に出向く小島さんからのメッセージだ。



ステージを挟んだ相乗効果がRSRクオリティー

札幌の街中でMIX2000が展開された前年、石狩湾新港の特設ステージではこちらも北海道で初めてとなる大規模野外フェス「ライジングサンロックフェスティバル(RSR)」が幕を開けた。ビッグネームから地元のインディーズまでが一堂に会するRSRは今年で14回目。今や北海道の夏を象徴する音楽イベントとして定着した。

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kojima06.jpgビートルズ、忌野清志郎、中島みゆき、CHAGE and ASKA…社長室で見つけたビッグネームのメモリアルグッズを見ていると時間があっという間に過ぎてしまう。


RSRの魅力はオーディエンスから見えないところにも存在する。通常は出演者に弁当が配られる程度のバックヤードに初回からレストランをオープン。北海道の食と野外フェスの開放感をアーティストたちにもたっぷりと味わってほしいという小島さんのアイデアだ。

kojima07.jpg2012年のRSRは8月10日(土)・11日(日)開催。すでにテントサイト付入場券の先行予約が始まっている。rsr.wess.co.jp


「F1もそうですが、充実したバックヤードを用意することで出演者のステイタスがキープされ、本番への意欲も高まります」。アーティストが熱くなればオーディエンスも盛り上がる。ステージを挟んだ誰もが「また来たい」と思うRSRクオリティーにつながった。
「会期中はスタッフ全員がハードワーク。でも“やった”という達成感は確実にある。どこにもない仕組みだったからこそ今も続いているんだと思います」



世界初、有料レゴ®イベントも大盛況

過去も未来もオリジナル企画にこだわり、海外で刺激的なエンターテインメントを目にするたび、「これは札幌にどうか」と考える。「世界一住みやすいまちじゃないですか、ここは」と愛郷心を語る一方で、「札幌基準から国際基準になっていく一人一人の成熟を次の世代に期待したい」というビジネスマンの視座を持つ。

kojima08.jpg「レゴ®ブロックワールドSAPPORO」では来場者と一緒に白い街「ホワイトワールド」を作る体験コーナーが大人気。写真はレゴ®クリエイターが作った架空の建物。社長室にまた一つお宝が増えた。


札幌のまちを活気づけるパワーの源は、好奇心。「うちの若いのが“社長、レゴきてますよ”と言うんで話を聞いたら熱烈なファンがいて確かにすごい」。折よく相談を持ちかけられていた北海道文化放送開局40周年記念イベントで仕掛けようと、2012年1月初旬「レゴ®ブロックワールドSAPPORO」(会場:北翔クロテック月寒ドーム)を企画した。
結果は10日間で6万5千人が来場。北海道の在庫が売り切れ、東京から11トン車で追加納品されるほどの盛況ぶりだった。「レゴ®の有料イベントは世界でも初めて。この実績が認められ、4月からの全国キャンペーンも僕らが展開します」

音楽をベースに考えながら札幌を熱くしそうな面白いことがあれば、いつでもどこへでも飛んで行く。お宝グッズに囲まれた社長室の椅子が温まる暇は当分なさそうだ。
 



〈札幌創造仕掛人に聞きたい! 2つのクエスチョン〉

Q.人生を変えた出会いは?
A.僕が10代のときです。ウエスの原形であるクリエーター集団「コミュニケーション・ポイント」にイベントプロデューサーの小栗秀秋という男がいましてね。彼に「津軽海峡を越えなきゃだめだよ」と言われたことは大きかった。あのころはどんなに世界を遠く感じたことか。今はネットがあるから距離は問題じゃない。「やるか、やらないか」です。
みんな、意外とマーケティングやリサーチに時間をかけていないんじゃないかな。知りたいことがあれば早くドアを叩けばいいんじゃないかと思う。僕はほら、どこでもドアを叩くタイプだから。知りたがりなんだよね。
Q.大切にしている言葉を教えてください。
A.無私大望(むしたいぼう)。読んで字のごとく、自分の欲ばかり追いかけていると大きな夢は釣り上げられないという意味です。もうたくさん釣り上げてきたじゃないかって? まだまだ全然! 世界中から札幌が注目されるような仕掛けがきっとあると思います。

 



●株式会社ウエス www.wess.jp
札幌市西区24軒4条5丁目5-1W’Sビル
TEL.011-611-1000
 



文 佐藤優子(耳にバナナが)
撮影 ハレバレシャシン