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「モリエール」オーナーシェフ  中道博さん

農林水産省「料理マスターズ」に認定
北海道の食をさらに高みへ



2008年の北海道洞爺湖サミットで料理を提供し、
2011年、農林水産省の顕彰制度「料理マスターズ」に認定。
札幌から全国に名を轟かせるフレンチレストラン
「モリエール」のオーナーシェフ中道博さん(60)に語っていただきました。
中道流「地産地消」考、料理人の大いなる敵の正体、
還暦を迎え、あの名作にインスパイアされた今後の夢とは—。

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北海道を代表する食の仕掛け人が登場

「ICCは食を重要なクリエイティブ産業だと考えています」。ICCチーフコーディネーターの久保俊哉が今回の取材依頼状にこう書き記したとおり、北海道には「食」という巨大なクリエイティブ産業が存在する。
若手農業従事者による「六次産業化」が盛んに行われ、店頭にはプロのデザイナーが手がけた洗練された食品パッケージが並んでいる。外食の席でも「○○町の○○さんのジャガイモを使った…」というような生産者名入りのメニューがあたりまえの時代になった。

気がつけば、食に関わる誰もが「地産地消」というキャッチフレーズに魅せられ、「地元のものを食べて北海道の食を支える」ことに大きな意義を見出している——。
この風潮を冷静に見つめる人物がいる。久保が冒頭の取材依頼状を送った相手、フレンチレストラン「モリエール」のオーナーシェフ中道博さんである。

今回の主人公は「食の仕掛人」。23歳のときにフランスへ渡り、31歳で世界料理コンクールの金賞を受賞。この秋には北海道の食の活性化に貢献してきた功績が認められ、農林水産省から「料理マスターズ」に認定された名シェフにご登場を願った。



「地産地消」=「おいしい」は本当か?

中道流「地産地消」考をうかがう前に、ご本人の経歴を足早に見てみよう。
中道博さんは北海道登別生まれ。23歳のときにフランスへ渡り、3年間の修行の後、帰国。札幌グランドホテルでさらに経験を積み、1982年オーストリアで開催された世界料理コンクールに日本代表として出場し、見事金賞、特別賞を受賞した。
その2年後にホテルを退社し、円山でフレンチレストラン「モリエール」を開店してからも真狩村のテロワールを表現するオーベルジュ「マッカリーナ」や、JAびえいとタイアップしたアンテナショップ「美瑛選果」など、数々の名店をプロデュースしてきた。
2008年には北海道洞爺湖サミットで料理を提供し(「マッカリーナ」は参加首脳陣の配偶者プログラムの会場に選ばれた)、2011年10月には農林水産省より「料理マスターズ」に認定されたばかり。名実ともに北海道を代表する料理人の一人なのだ。

その中道さんをして、近年の過度な「地産地消」人気は本質的な問いかけが欠けているのではないかという危惧を抱かしめるものだという。
「もちろん、地元のものを買い支えて地域の経済をまわすことは素晴らしい営みだと私も賛同します」。そう一言前置きをしてから中道さんはさらに言葉を重ねた。
「“フランス料理界の巨星”とたたえられたアラン・シャペルも地元の食材をこよなく愛していました。けれども、シャペルの弟子たちはマルシェから帰ってきたシャペルの表情を見て、“客に出してはいけない”レベルの食材を敏感に選り分けたそうです」

「地産地消」であることがそのまま「最高のおいしさ」につながるのか。さらに高品質なものを目指す志を、生産者や料理人は見失っていないか。さまざまなメディアの取材を受けるたびに「地産地消はごくあたりまえのこと」と繰り返す中道さんの真意が、尊敬してやまない伝説的なシェフの逸話とともに浮かび上がってきた。

_MG_0082.jpg円山にあるモリエールをアラン・シャペル氏の著作が見守る。その昔、料理コンクールの審査委員長として来道したシャペル氏はモリエールで食事をし、翌日の審査総評の際に「フランス料理をやりたいのならあの店へ」と言い残して帰っていったという。



若き日の決意、敵は「ほめられること」

23歳から3年間フランスの名店で修行し、帰国直前の思い出づくりにベルギーを訪れたときのことだ。職人集団の「ギルド」発祥の地で知られるベルギーには首都ブリュッセルの中心地に大広場があり、その四方を家具職人や大工、パン屋など職人たちのギルドハウスが取り囲む。
中世から続く伝統と威厳をまとう建物に圧倒された中道さんはこのとき、職人たるもの、つねに高みを目指し人に恥じない仕事をしていかなければ、と心に誓う。

その若き日の決意をもっともダメにしてしまうのが「褒(ほ)められること」だという持論は、還暦を迎えた今も変わらない。
「褒めてくださるのはありがたいことですが、そこでいい気分になるなんてとんでもない。むしろ、僕らの仕事はもっとすごいところまで行けるんだ、と。このレベルで褒めそやされては自分がダメになる、という意識をつねに持ち続けています」

高校生のとき、テレビで見た法隆寺最後の宮大工棟梁、西岡常一さんの生き様に心を揺さぶられた。「法隆寺には西岡という鬼がいる」と言われるほど妥協を許さない仕事ぶりで知られた西岡氏は、弟子を決して褒めない師でもあった。西岡氏の語りを綴った「木のいのち木のこころ<天>」(新潮社)に、こんな一説がある。
 

  …人間というやつは、褒められると、こんどは褒められたくて仕事をするようになります。…(中略)ところがそういうふうにして造られた建物にはろくなものがないんです。…職人は思い上がったら終わりです。

——「褒めること」より抜粋


名前を知られるようになればなるほど、「ほめ殺し」にあう場面は多くなる。そこで成長を止めるかいなかは本人次第だ。「西岡さんの言葉どおり思い上がらず、ひたすら真摯に」。中道さんが生涯をかけて究めんとする理想の料理人像がここにある。



料理人は食べものの上に立っている

中道さんの真摯な仕事ぶりは、サミットという究極の晴れ舞台でもいかんなく発揮された。2006年から「ザ・ウィンザーホテル洞爺」の顧問を務める中道さんは、同ホテルを会場とする2008年北海道洞爺湖サミットでも協力を要請された。このとき経費節約を理由に表に出ないプレスや関係者用の食事を簡易なものですませようとする動きに、中道さんは頑として反対した。

「プレスに出すサンドイッチひとつとっても“さすが北海道は違う”というものを出すのが、料理人の仕事です。おいしかったと喜んでもらい、いい記事を書いてもらって北海道に来る観光客が一人でも増えたら嬉しいじゃないですか。自分が受けた以上は一人でも多くの人に喜んでいただいて、北海道の役に立ちたい。その一念あるのみです」。
そう周囲を説得し、最終的には関係者向け料理にも道産食材がふんだんに使われたメニューが提供された。<食の宝庫>北海道の評価を落とすことなくサミットは閉幕した。

そこまで主張を通せるのはやはり中道さんの実力あってのことだろうか。思いきってそう尋ねると、中道さんは「いえいえ」と笑い、「それは僕らが“食べものや”だからですよ」と言葉を継いだ。
「人は食べものがないと生きていけないでしょう。おにぎりひとつで人を感動させることもできる。その食べものの上に料理人は立っている。料理人ははじめから恵まれた環境に立っているんです。僕が先ほどから“ほめ殺しに気をつけろ”という理由はここにあるんです」

実はこうした仕事観、人生観を中道さんがもっとも聞かせたい人物が、この日の取材中つねにかたわらに控えていたモリエールの今智行シェフ(45)である。二十歳でモリエールに入った今さんは、店に勤める同世代シェフの中でもリーダー的な存在。次代の後継者として熱い期待が寄せられている。厨房の内外で自分の姿を教科書がわりとする中道さんの教えに、今さんはどう応えていくのか。それはこれから先に始まる物語だ。



大自然の中で名作さながらの晩餐会を

およそ2時間の取材を振り返ると、中道さんのお話は実に多彩で、厨房であらゆる作業を同時進行させる料理長ならではの思考スピードに感嘆させられるばかりだった。が、すべての話の核となる「食に関わるすべての方に質の高い体験を提供したい」というメッセージにはいっさいのブレがない。

今、中道さんにはこんな夢がある。
「映画『バベットの晩餐会』をご存知ですか? 料理人バベットが宝くじにあたって村のお年よりたちを晩餐会に招待する物語。僕はこの映画を見た瞬間、これだと思いました」

現実の世界ではこんなこともあった。ある女性の長寿を祝う席でスタッフのみならず、その場に居合わせた他のテーブルの全員がスタンディングで拍手を送る一体感を味わった。翌日、その女性から「冥土のみやげになりました」という感謝の手紙が寄せられた。

黒子に徹したバベットの美学と、人を幸福にする会食のありようにこれからの自分の道を見出した中道さんは、「遠くない将来、北海道の大自然の中で高齢者のためのプライベートレストランを作ること」を新たな目標にすえている。



〈さっぽろ創造仕掛け人に聞きたい! 2つのクエスチョン〉
Q.影響を受けた人物を教えてください。
A.
先ほどもお話したフランスのアラン・シャペル氏ともうお一方、京都の鷹峯にある光悦寺・表千家の山下惠光宗匠です。山下宗匠との会話の中で仕事の質やもてなしの深さを気づかされています。

Q.傾倒する料理人を一人だけ挙げていただけますか?
A.志摩観光ホテルの総支配人兼総料理長を2001 年に退かれた高橋忠之シェフです。高橋シェフが提唱する料理哲学「火を通して新鮮、形を変えて自然」は、まさに至言。一度札幌にお招きして座談会をしたこともありますが、またぜひお話をうかがいたい。この方が僕にとっての最高峰のシェフだと思っています。



_MG_0016.jpg   「レストラン モリエール」

URL: 
http://www.sapporo-moliere.com/


住所: 札幌市中央区宮ヶ丘2丁目1-1 ラファイエット宮ヶ丘1F
Tel:011-631-3155


営業時間:11:30~14:00、17:30~20:00
定休日:水曜日

 



取材・文 佐藤優子(耳にバナナが
撮影 ハレバレシャシン 

 

最終更新日:2011年10月31日