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有限会社ヴァズ  代表 比嘉秀郎さん・山田マサルさん

北海道の冬のバス運行は路面状況により10分、20分遅れは当たり前。
骨身にこたえる寒さの中、乗客はいつ来るともわからぬバスを待つ…。
そんな苦行のような光景も、乗りたいバスの位置情報が携帯電話でわかる
画期的なロケーションサービス「ドコイル」の出現で大きく変わった。
考案者は、52歳で起業した有限会社ヴァズの比嘉秀郎さん(60)。
親子ほど年齢の違う相方、山田マサルさん(37)を誘って開発に乗り出した。

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  • 「木と磁石のおもしろオブジェ tukkun」

  • 「つっくん03やまのぼり 1」

  • 「つっくん03やまのぼり 2」

  • 「つっくん01リング」

  • 「パッケージデザインを手がける 札幌タイムズスクエア」

  • 「バスロケーションサービス ドコイル iPhone用アプリ」

  • 「ドコイル 乗車予約画面」

  • 「バスロケーションサービス ドコイル システム」

  • 「有限会社ヴァズ オフィス」

  • 「有限会社ヴァズの二人 1」

  • 「有限会社ヴァズの二人 2」

  • 「代表取締役 比嘉秀郎さん 1」

  • 「代表取締役 比嘉秀郎さん 2」

  • 「デザイナー 山田マサルさん 1」

  • 「デザイナー 山田マサルさん 2」




冬の悲しい風物詩、バス待ち光景を変える

有限会社ヴァズの看板商品「ドコイル」とは、自分が乗りたいバスの位置情報がリアルタイムに利用者の携帯電話にメールで送られてくるバスロケーションサービスのこと。2004年に発売以来、幼稚園や自動車学校などのバス40台に導入され、毎日のべ3,000人が活用。「バス待ちのストレスが一気になくなった」と好評の声を集めている。

開発物語の序章は北海道の冬のバス待ち光景から始まる。ドライバーの視界が効かなくなる猛吹雪や路面がツルツルに凍る氷点下ではバスが定刻どおりに来ることは、ほぼ皆無だ。体を震わせながらバスを待つ利用者の列は、北海道の冬の悲しい風物詩になっていた。
「自宅近くにある高校前のバス停でもそう。もし、寒そうにバスを待ち続ける高校生たちに“あと何分後に着くよ”ということを教えてあげられたら、到着直前まで屋内で待てるんじゃないか、と思いついたのが出発点です」。考案者の比嘉秀郎さんはこう語る。



顧客の要望で進化、iPhoneアプリも開発中

当時札幌市内の印刷会社に勤務していた比嘉さんだが、「まだ誰もやっていなくて、実現したら絶対人の役に立つもの」と踏んだドコイルに第二の人生を懸け、52歳で起業を決意。
そのアイデアを具現化する相方に、と声をかけたのが前職からつきあいがあったデザイナーの山田マサルさんだった。二人の年齢差は23。親子ほど年が離れていても“ウマがあう”異色コンビで2004年、新会社ヴァズは始まった。

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写真左から比嘉さんと山田さん。二人ともメガネ&ヒゲ、飄々とした雰囲気から親子と間違われることも少なくない。


知人のプログラマーの手を借り試験機が出来上がると、試乗運転をやってみた。運行中のバスの後ろを試験機を積んだ乗用車を走らせ、バスが停留所を出る同じタイミングで利用者へのお知らせスイッチを押す。「山田くんはバスの後をつけて、私は自宅で携帯電話片手に待機。実際にメールが届いたときは歓声を上げて喜んだ」と比嘉さんが教えてくれた。

そうして2004年に発売が始まって以来、ドコイルは「お客様に育ててもらった商品」と二人は口を揃える。当初はなかった「何分遅れ」の表示も「待っている利用者のために入れてほしい」という顧客からの要望で追加した。
現在はGPS機能を活用したiPhone用アプリケーションも開発中。より高い精度と簡易操作、安価な価格設定でさらなる利用者の拡大を目指す。

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iPhoneアプリ「ドコイル」の画面。右端の数字「0」部分には乗車予約の人数が表示される。



子どもの安全を見守る登下校管理システムも

ドコイルの知名度が学校関係者の間に広がると、嬉しいことに道外からも引き合いがきた。安全意識が高まる登下校管理に使えるシステムが作れないかという問い合わせだった。山田さんに解説をお願いした。
「初めは子どもたちのランドセルにICチップを埋め込む案もあったんですが、小学生高学年はランドセルの利用率が低い。その一方で、平均1時間半の通学事情から誰もが定期、つまり非接触ICカードは持っている。そこから、生徒が学校玄関に取り付けたリーダライタにICカードをタッチするだけで、保護者の携帯電話に“何時何分に学校に到着しました”とメールが届く新システム『AIRKIDS』を完成させました」。

AIRKIDSは現在、東京・大阪の小学校2校に導入され、1,200人の子どもたちの登下校を見守っている。「今後は一人暮らしの高齢者を対象にしたシステムにも挑戦してみたい」と次の目標を据えている。



木と磁石のおもしろオブジェ「tukkun」

ここまでの流れでヴァズという会社を理解しようとすると「システム構築に強いWEB制作会社」だと思われそうだが、それだけではないところがまたヴァズなのだ。
取材半ばに「これ知ってる?」と比嘉さんが嬉しそうに出してきたのが、なんと木のオブジェである。「tukkun」(つっくん)の名称でオンラインショップやモエレ沼公園で発売中のこのシリーズはもちろんヴァズが企画・販売するオリジナル商品であり、実は比嘉さんがドコイル同様に起業前からあたため続けていたアイデアだった。

vas_03.jpg「単純だけどおもしろい木と磁石のオブジェ」tukkunシリーズ(http://vas.co.jp/tukkun/)。 手前が「つっくん03やまのぼり」(税込7,980円)、左奥がつっくん01リング(3個セット玉付 税込9,660円)


手触りのいい無垢材の中には磁石が入っており、磁力の作用反作用で各ピースがくっついたり離れたり。なるほど、「単純だけどおもしろい」キャッチコピーにまんまとハマってしまう楽しさがある。「買うのは7割がた私と同じオジサン層」と笑う比嘉さんが若い頃建築金物の図面を引いていた腕を生かして自ら設計図を書き上げた。

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つっくんリングを2本使うとこんな形にもなる。「モエレ沼にあるイサムノグチのオブジェにそっくりの形があって驚いた。学芸員さんにも“マネしたんですか?”と言われたけど違う違う!」(比嘉さん)。tukkunシリーズは札幌スタイルにも認証されている。


かたや、山田さんも札幌銘菓「札幌タイムズスクエア」のパッケージデザインや店舗ディスプレイを担当するなど本業のデザイナーとしても活躍が続く。「まあ、ようはなんでもやってますよね(笑)。お客様から“おたくならできそうだと思って”と声をかけていただいたお話に応え続けて今にいたる感じです」。新しいところでは、iPad用アプリケーションの開発も進んでいるという。

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山田さんがヴァズ以前からパッケージデザインを担当し続けている銘菓「札幌タイムズスクエア」。



アイデアと観察を生かして日常を楽しく

ヴァズは2004年から3年間、ICCに入居していた時期もある。「制作環境は充実していたし、ICCを出た後もお客様を紹介していただいたりと本当にお世話になりました」。今ではアルバイトの人数も増え、手狭だった旧オフィスから昨年秋に中央区にある「あけぼのアート&コミュニティセンター」の一角へ引っ越した。設立6年目を新たな気分で迎えている。

バスロケーションサービス「ドコイル」の構築にiPhone・iPad用アプリの開発、デザイン・映像全般に木製オブジェや家具も制作。まさに“なんでもあり”を地でいくヴァズだが、そこにはつねに同社のテーマである「アイデアと観察」が生かされている。誰もが仕方がないとあきらめていた冬のバス待ち風景も、「日常生活にちょっとだけアイデアを注入する」ことで大きく変わった。
自分たちのことを「一見ミスマッチの料理を作っているみたい」と評する山田さんの言葉が心に残る。そういう料理に限って熱心なファンがつくものだ。異色コンビのヴァズが作る「アイデアと観察」の持ち味に今後も注目していきたい。

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札幌市中央区の曙小学校跡地「あけぼのアート&コミュニティセンター」2階にあるヴァズオフィス。


●有限会社ヴァズ http://www.vas.co.jp/

取材・文 ライター佐藤優子(耳にバナナが
撮影 ハレバレシャシン