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油彩画家  石倉美萌菜さん

肉感的な裸女が挑発的な表情でこちらを見つめる。
力強いタッチのこの油絵に付けられたタイトルは『最強のアピールコスチュームを着て 愛の告白をする“わたし”「す」「き」』。
モデルはこの作品の作者、石倉美萌菜さん自身だ。
自分の中に去来する抑え難い不安や情念を力強く描く若き画家は、上海でのレジデンスを機に大きく羽ばたく。
 

ishikura_top.jpg

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  • 「石倉美萌菜さん 4」


とにかく上手くなりたい一心で・・

美術部に所属した高校時代から美大をめざし、油絵を描き続けた。
結果は2年間の浪人生活。
この時期の落ち込んだ気持ちが今でも自身の創作に影響を与えているという。
「ハッピーな気分でいる時よりも、惨めな気分でいる時に創作にアイデアが湧いてきます。力不足な自分、好きな気持を伝えられない自分、役に立ってない自分とか、そうした気分の時に書きとめたメモをヒントに作品に取り掛かることが多いです」。

念願かなって入学した大学では、上手くなりたい一心で、具象の創作に集中した。
恋愛が苦手な自分をモデルに、普段はできない「告白」を表現した組作品『最強のアピールコスチュームを着て愛の告白をする“わたし”「す」「き」』は、欲望と自虐が交錯した代表作。裸身の彼女が2枚のキャンバスの中で「す」「き」と囁く。

「作品を観た人が作品のタイトルを読む際、“わたし”の部分を読んだ瞬間に、絵の中の“わたし”になってしまえという支配的な想いも込めています」。
彼女自身がモデルだと聞くと、観る側のほうが戸惑ってしまうが、「モデルを頼むにもお金がかかるので」と笑い、意に介さない。
「自虐的」なのか、「屈託がない」のか、「青春まっ只中」なのか、その全部なのか、いずれにせよ、彼女にそれを描かせてしまうエネルギーの大きさには驚くばかりだ。
 

mimona_01_su_ki.jpg『最強のアピールコスチュームを着て愛の告白をする“わたし”「す」「き」』
挑発的な表情のモデルは石倉さん自身だ



画家という存在との葛藤

大学卒業後、迷うことなく画家として生きていくことを決意した石倉さんは、アルバイトをしながら創作する生活に入った。
そんな毎日の中、「社会に対して自分の創作はいったい何の役に立っているのだろう?」と疑問を持ちはじめた。
「一番美術を信じていなくてならないはずなのに、その美術が信じられなくなった」と当時を振り返る。

葛藤の末に生み出したのが、2009年に制作した「実用絵画シリーズ」だ。
風景や花など、普段描いている自画像とは全く異なるモチーフを描いた絵画に台所用具をかけるフックを付けたり、トイレ用の芳香剤を付けたり。
「絵画を実用品として使ってもらえるように、絵に機能を付けて、値段も安くしました。芸術としての価値を持つことを放棄して矛盾と葛藤を作品にしてしまいました」。

昨年8月には札幌のギャラリー・門馬で、『石倉美萌菜・初・個展!!!!』を開催し、ここでも多くの貴重な体験をした。
「個展の準備も大変でしたが、精神状態を維持するのが大変でした。絵で自分を保ってきたのに、その絵に自分をおかしくされそうな感じというか・・・。持っている作品をすべて展示したので、もしも失敗したら画家としての自分が完全に否定されてしまうというプレッシャーが大きかったです」。
それでも無事開催にこぎつけ、10日間の個展を乗り切った。
初個展の自己評価は「作品が空間に負けてしまった」とのことだが、「今度はもっと計画的にやりたい」との意欲も湧いてきた。次回個展に期待しよう。

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mimona_04_koten_sugoroku.jpg昨年8月には初個展を開催。来場者にはすごろくを楽しんでもらった



初めてアーティストとして迎えられた上海でのレジデンス

そして2010年末、石倉さんの創作活動に大きなインパクトを与える転機が訪れた。
アーティスト・イン・レジデンス事業を展開するNPO法人S-AIRのアーティスト海外派遣プログラムに採択され、上海に2ヶ月間滞在し、創作ができるチャンスを得たのだ。
上海のアートマネジメント会社Office339のサポートを受けながら、現地で油絵の創作と発表を行う計画で、昨年11月、札幌を後にした。

初めての海外、そして滞在。
不安と期待が交錯する中で迎えた上海での生活は想像を大きく超えたものだった。
「まず、生まれて初めてアーティストとして扱われたことに戸惑いました。最初はとくに現地で私の創作をコーディネートしてくれる人たちとの距離感の取り方がわからなくて悩みました。アーティストは「私が考えていることはこんなに面白いからみんな手伝って」という主張ができないといけないのですが、それが難しく、もっと勉強して、知識も技術も身につける必要性を痛感しました」。

現地のスタッフから「いまこの時期に上海に来ていることを体感すべき」とアドバイスを受け、上海の街、人、空気を体で感じることを心がけ、創作に向けたエネルギーを高めていった石倉さんは、高さ2.5mサイズの油絵の制作に着手した。
作品のタイトルは『何がわかってないのかわからない』。
いかにも石倉さんらしい題名だが、この作品の構想は以前から温めていたもの。なかなか創作にとりかかれないでいた作品だが、上海の環境が創作に向けて背中を押した。
約2週間という異例のスピードで描いたこの作品は、上海に来なければ描けなかった一作となった。

mimona_05_shanghai.jpg 上海でのレジデンス風景。ここでの経験は石倉さんにとって大きな財産となった

mimona_06_wakaranai.jpg上海で創作した作品 『何がわかってないのかわからない』

mimona_07_happyoukai.jpg上海での作品展示風景。
中央は石倉さんの代表作『最強のアピールコスチュームを着て愛の告白をする“わたし”「す」「き」』



『石倉美萌菜すごろく』で上海市民と交流

上海で制作したもう一つの作品が「石倉美萌菜すごろく」だ。上海に出発する前から制作をスタートさせたもので、1日の出来事を絵と短い文で表現し、毎日描き続けたものをすごろくゲームにしたものだ。
上海では毎週日曜日にこのすごろくを持って公園に出かけ、道行く人たちに楽しんでもらった。
「最初はゲームの説明も何もしなかったので盛り上がりませんでしたが、準備をして行くと、子どもやお年寄りが喜んで遊んでくれました。ただ、すごろくに描かれている絵が作品だという認識があまりなくて、描かれている物や題材に関心があったようです」(笑)。
すごろくという作品を通じて上海の市民と交流を持てたことも大きな収穫となった。
 

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上海では『石倉美萌菜すごろく』で市民との交流も楽しんだ



“社会性のある作品”の追求

 

mimona_09_yokogao.jpg2011年は、「上海での経験を活かし、自分を追求する年」に!


アーティストとしても、一人の人間としても、大きく成長する機会を得た上海滞在だったが、最後にちょっと悔しい思いもした。

「あなたの作品には社会性が足りない」――上海のスタッフから言われた一言が今も忘れられない。
「その場で反論することもできたのですが、その言葉の意味をしっかり考えないといけないと思いました。「社会性」とは何を意味するのか、今でもはっきりはわかりませんが、ちゃんと納得させられるような作品を描けるように。これから追求していきます」。

美術史、社会のしくみ、マナーなど、上海でのレジデンスを通じて、勉強の必要性を痛感したという石倉さん。2011年は勉強をしつつ、色々なものを追求する年にしたいという。
「社会性」の謎解きが作品にどう反映されるのか、今から楽しみだ。

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■油彩画家 石倉美萌菜
http://www.office339.com/jp/artists/mimonaishikura/
(上海のアートマネジメント事務所Office339Webサイト)
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取材・文 佐藤栄一(プランナーズ・インク
写真   山本顕史(ハレバレシャシン