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ペーパークラフト作家  林 啓一さん

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驚嘆、共感、尊敬。
おそらくその作品を見た人は、一様にそう思うことだろう。
さらに続けてこう言うのだ。「懐かしい」、「細かい」、そし てまた「懐かしい」と。
子どもをテーマにした素朴な作品から、モーターで動く大掛かりな作品まで、ペーパークラフト作家・林啓一さんが生み出す作 品の数々は、人の琴線にふれるものばかりだ。

 

紙 素材がここまで! 度肝を抜かれる作品の数々

ま新しいランドセルを背負った新入生の男の子。そのちょっ と前のめりになった格好が新しい世界への期待と一寸の不安を思わせる。林さんの新作「いぶき」は、誰もが経験したはずの、こうした情景を見事なまでに表現 している。

「作品を作るときには自分の中に必ずテーマがあるのですが、この作品は、ランドセル、帽子、靴袋といったアイテムを究めようと 思って、徹底的に研究して丹念に作りました」。

 その言葉通り、作品をよく見ると、ランドセルには小さな白いフック、靴袋には名札入れ、帽子も、ラ ンドセルも、その質感が実にリアルだ。

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02_hayashi_ibuki2.jpg林さんの新作「いぶき」。ランドセル、帽子、靴袋などのアイテムが緻密に表現されている


夏の暑い盛りに、虫取り網を持った少年が瓶を口に当て、美味しそうに飲む情景が微笑ましい作品「シトロン」は、喉を通るゴクゴク感とその息づかいが伝わってくるような作品。「少年が持っている虫かごのようなものは三角缶といって、採取した蝶などの羽を傷つけないための入れ物です。そこまでこだわって作りました」(笑)。
紙素材だけでここまで緻密にアイテムを作りこみ、情感あふれるやさしい雰囲気を創り出すその技術には、誰もが度肝を抜かれるに違いない。
 

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05_hayashi_citron2.jpg喉のゴクゴク感が伝わってきそうな作品「シトロン」。夏の日の記憶がよみがえる



驚愕の“動く”ペーパークラフト

林さんの作品のもう一つの魅力は、“動くペーパークラフト”の存在だ。
モーター類を巧みに使い、作品のテーマに沿った動きを演出している。
“動く作品”のひとつ「大航海」は、筏に乗った少年が地球儀をモチーフに作られた荒海を超えていく様子を表現した力作。少年のやや不安げな表情が筏の不安定な動きとシンクロして臨場感にあふれ、羅針盤、食料の果物などのアイテムも実に緻密だ。
そもそもペーパークラフトが動き出すという展開自体が意外で、作品を見る楽しさが倍増する。

「まずは作品の見た目を優先に考え、スケッチし、構想が固まってから機械的な部分をどう組み込むかを考えます。ただ、動く作品を作る場合は、細かな設計図面を起こしてから取り掛かります」。
紙素材の温もり、情感あふれる子どもの表情、精巧なアイテム、林さんのエンジニアリング技術が見事に調和し、独特の世界観を創り出している。

こうした作品の数々は高く評価され、林さんは、かつて放送されていたTVの人気番組「たけしの誰でもピカソ」の中の名物コーナー「THEアートバトル」で計3個のメダルを獲得するなど、優れたアーチストとして注目を浴びた。
 

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07_hayashi_daikoukai2.jpg作品「大航海」は、少年の乗った筏が波をかきわけて突き進む


個展や企画展で作品の虜になる人も・・

「個展を開いて一番嬉しいのは、色々な世代の人が訪れてくれて、じっくり作品を見た後に話しかけてくれることです。作品を見て、自分の子どもの頃のことや兄弟と遊んだり喧嘩したりした時のことを思い出す人が多いようです。そのものズバリのシーンではなくとも、なんとなくそれに近い経験をしたことがある人は熱心に見て行かれますね。毎回必ず足を運んでくれる人や3時間も会場にいる人など、様々です」。
個展や企画展の回数はさほど多くはないにもかかわらず、林さんの作品にはコアなファンも多いという。
「あの頃はああだった、こうだった」と、作品を見た人が、作品と自分の中にある子どもの頃の記憶を合成させてオリジナルのストーリーを生み出せるのが林さんの作品の最大の魅力だ。
 

08_hayashi_oresama.jpgバッタを捕まえようと、一瞬息を止める少年の表情が印象的な作品「俺様と殿様」。少年の日の一コマ



イメージを形に。デッサンには時間をかけて

これほどまでに人の心を打ち、細かなアイテムまで作り込んだ作品は、一体どうやって生み出されるのだろうか?

「作り始めたら早いのですが、その気になるまでに時間がかかりますね(笑)。時間をかけるのはデッサン。何パターンも描きながらイメージを膨らませていきます。構想が固まれば、小さな作品なら1ヵ月半くらいで一気に作品を完成させます」。
子どもを題材にした作品は、自身の子どもの頃の体験や、そこから連想したイメージをもとに構想を膨らませていくという。

その作品制作の場となるアトリエは意外なほど整然とし、たくさんの部品や工具がズラリと並ぶ。作業台、製図台、写真撮影室まであり、およそペーパークラフトを作る場所だとは思えない。
「紙が素材だから何もないところで作っていると思われるかもしれませんが、実はかなりの道具が必要です」。
このアトリエから次にどんな作品が生まれるのか、新作の誕生を楽しみに待ちたい。
 

09_hayashi_aterier.jpg部品が整然と並ぶアトリエにて。制作には多くの工具や器具を使う


紙は厄介な素材?

林さんは1990年からペーパークラフトづくりを始め、20年にわたって作品を作り続けているが、作り手にとって紙という素材は、その性質上、厄介な部分も多いという。
「紙はシミが付きやすいので、手汗をかきやすい夏場の作業は特に大変です。エアコンつけ、普通の人が見たら異常じゃないかと思うくらい手を洗います(笑)。ゆがみや波打ちが出てしまうので、大きな作品を作る場合には制約があります。骨組みを作り、発砲スチロールを使えばある程度対応できますが、中空状態のものは大きさに限界があります」。

近年はさらに、材料の確保も大変になっているという。
「制作に使っているマーメイド紙という素材は現在90色ほど種類がありますが、毎年のように色数が減っています。赤ねずみ色など、微妙な色あいの紙が生産されなくなっているのです。生産されているうちにまとめて確保しておかなければなりません」。

一方、作品の保管にも神経を遣う。
「作品を良い状態で常設展示できるスペースを確保できれば」と林さん。
作品を見る側としても、ぜひそれを望みたいところだ。


いますぐ苫小牧市博物館へGo!〜 「林啓一のペーパーワークス」

常設とはいかないまでも、今夏、林さんの作品をじっくり楽しめる絶好の機会が訪れた。
苫小牧市博物館の特別展「紙をつくる 紙でつくる」(8月7日〜9月26日)の一環として、「林啓一のペーパーワークス」が現在開催中であり、子どもをテーマにした作品13点と、2004年作の動く大型作品「ふきボウズ」が展示されている。

会場に入ると、まず、腰を振りながら出迎えてくれる「ふきボウズ」の姿に目が釘付けになる。
13点の組作品はいずれも、最初に書いたスケッチと制作中に描いたスケッチとともに展示されており、実際に出来上がった作品とスケッチとの対比が実に面白い。
「スケッチは何枚も書きますが、最初に描いたものに近い作品になることが多い」とのことで、作品とスケッチを比較しながら制作のプロセスを想像する楽しみもある。
紙の街・苫小牧で開催される今回の特別展は開催期間も長いので、ぜひ足を運び、林さんのペーパークラフトの魅力を体感してほしい。
 

10_hayasi_fukibouzu.jpg会場では「ふきボウズ」が腰を振ってお出迎え

11_hayashi_tomakomai1.jpg子どもをテーマにした13点の作品がスケッチとともに展示。その対比が面白い


次回作は大作?

子どもテーマにした作品を作り続け、魅了してきた林さんに、今後の構想を聞いてみた。
「子どものシリーズものを作り終わったら、大作にチャレンジしたいと思っています。100人くらいを登場させて、街を作ってみたいですね。個展を開くたびに制作途中のものを展示して、回を重ねるたびにだんだん大作が仕上がっていく様子を見てもらうのも良いかなと思っています」。
どんな壮大な街が出来上がるのか、完成を見るまで何度でも個展に足を運ぶことになりそうだ。
 

12_hayashi_portrait.jpg「大作にチャレンジしたい」と林さん。お披露目の機会を楽しみに待ちたい


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■ペーパークラフト作家 林啓一(スタジオジンバル)
K.Hayashi’s PaperGallery
http://homepage2.nifty.com/papercraft/

苫小牧市博物館 特別展「紙をつくる 紙でつくる」〜林啓一のペーパーワークス
日時:2010年8月7日(土)〜9月26日(日)(月曜休館、9月20日(月祝)、23日(木祝)は開館)
開館時間:9時30分〜17時(入館は16時15分まで)
場所:苫小牧市博物館(苫小牧市末広町3丁目9番7号)TEL(0144)35-2550
http://www.city.tomakomai.hokkaido.jp/hakubutukan/

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取材・文 佐藤栄一(プランナーズ・インク
写真   山本顕史(ハレバレシャシン