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コンテンツプロデューサー/古書店主  田原洋朗さん

音楽CD・電子本・映像DVDの出版と古本屋。
デジタルと超アナログ。
全く正反対に思えるこれらのビジネスを展開しているのは、ICC入居者OBでもあるbooxbox代表の田原洋朗さん(51)。
デジタルコンテンツのパブリッシャーがなぜ古本屋を始めたのか、その謎に迫る。

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  • 「古書リスト」

  • 「手製ブックカバー 1」

  • 「手製ブックカバー 2」

  • 「古書リスト 表紙」

  • 「展示会DM」

  • 「谷本光さんのギター」

  • 「創刊当初の雑誌たち」



マルチメディアの可能性に賭ける

田原さんは利尻島の出身。
東京の大学を卒業後、大阪でサービスエンジニアとして機械修理の仕事に就いていた時、阪神淡路大震災が起きた。マスメディアよりも草の根の情報やインターネットで飛び交う情報が有効に機能するのを見て衝撃を受け、当時話題となっていた“マルチメディア”という言葉にも触発されて、新たなメディアへの関心が高まっていった。
大学で中世文学を専攻したこともあり、自身のWebサイトで書評を発信しながら、「書評をクリックすると、その本が注文できるようにならないだろうか?」と考えたのもこの時期だという。

知人にトゥバ民族音楽の第一人者、等々力政彦がおり、「マルチメディアの可能性に賭けてみたい」、「好きな音楽を世に出したい」との想いから、1997年に北海道に戻り、音楽CDの企画・制作・販売を行う事業を始めた。屋号のbooxbox(ブックスボックス)は、“コンピューター=無限の可能性を秘めたコンテンツbox”との見立てに由来するものだ。



ICCを拠点にコンテンツ・パブリッシュ事業を本格展開


北海道に拠点を移してからは、「自分が好きな音楽」、「素晴らしい才能を持ちながらまだ世に知られていないアーティスト」を選び、精力的にCDの企画・制作・販売を行った。

等々力政彦(トゥバ音楽)と嵯峨治彦(モンゴル音楽)による民族音楽ユニット「タルバガン TARBAGAN」のCDを1998年と翌99年に相次いでリリースし、2000年には当時17歳の津軽三味線奏者、新田昌弘のソロデビューアルバム「SHAMISEN KID」を世に送り出した。

そして2001年4月、田原さんはオープンしたばかりのICCに拠点を移し、コンテンツパブリッシャーとしての基盤を確立する。

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CD/DVD
はこれまでに9タイトルをリリース


「ICCに入居して一番良かったのは、音楽著作権などのライツビジネスをするためには法人格が必須だと教えられ、法人化に向けて背中を押してもらったことです。映像、音楽、デザイン、テキストなど、色々なジャンルのクリエイターが入居していて、彼らとのコラボレーションが容易にできたことも有意義でした。良い映像作品を作り上げるためには、当時のICC入居クリエイターの協力が不可欠でした」。
実際、booxboxは2003年2月に法人化し、ICC入居中に手がけたアコースティックギタリスト・谷本光のDVD制作には、当時のICC入居クリエイターが協力した。

booxboxはこれまでに全9作のCD/DVDをプロデュースし、販売しているが、その意欲的な取り組みと成果に対し、ICCより「ベストコンテンツ賞」が贈られ、副賞として、インディーズレーベルが多数集まる米国の国際音楽産業見本市「サウス・バイ・サウスウエスト」への参加権を獲得した。



古本屋「ブックスボックス田原書店」の開業


2004年3月にICCを卒業した後もCD/DVDのリリースを続けたが、2006年で新規作品のリリースは一段落した。
「CDやDVDは、自分が出したいと思うのをほぼ出し切ってしまったというのもありましたが、ネットワークの進化とともに音楽のネット配信が進み、パッケージでの販売が難しくなったことが大きな理由です」。
ただし、これまでにリリースした音楽・映像コンテンツは、現在、iTunes Storeでダウンロード販売を行っており、ネット配信にも対応している。
 

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2006年3月、古本屋「ブックスボックス田原書店」を開業


変わって2006年3月、田原さんは意外なビジネスを始めた。古本屋である。

CDやDVDといったデジタルコンテンツのパブリッシュと超アナログな古本屋業。にわかに接点を見出しにくいが、田原さんによれば、「自分が好きな作品をピックアップして売っていくという点で、両者には共通点がある」という。
加えて、「ネットで書評を読み、クリックすれば注文できる」という、かつて描いていた夢が現実のものとなった今、良い本を集め、提供する側に回ることは、田原さんにとって自然なことでもあった。
少しずつ蔵書を増やしながら、2008年11月には札幌古書籍組合加盟の本格書店として、旧札幌ロフトの「古書の街」に「ブックスボックス田原書店」を出店した。(店舗は旧札幌ロフト休館にともない閉店)



手仕事の手・頭・体


古書を扱う店主にとって最も重要で、かつ、最も楽しみなのは、自らの店をどう特徴あるものにするかだろう。
ブックスボックス田原書店の目録「羊狼通信」見ると、それは一目瞭然だ。
目次を開くと、「手仕事の手・頭・体」を先頭に、以下、「芸術と文化」、「人間の旅」、「地球の旅」、「歴史の旅」、「文芸「読・語・書」本」といったジャンルが続く。

「一番力を入れているのはアート関係の古書です。「手仕事の手・頭・体」というカテゴリーに整理しましたが、陶芸、ガラス、民芸品、絵画といったジャンルのものです。中でも、昭和20年代に創刊された雑誌「月刊民藝」は程度も良く、早期発刊分も含めてこれだけまとまった数を蔵書している点は自慢できると思います」。民藝品や手仕事に関心のあるファンにはまさに垂涎モノだろう。
 

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蔵書の中でも特に目を惹く雑誌「月刊 民藝」


現在、ブックスボックス田原書店は、「Amazonマーケットプレイス」、「日本の古本屋」、「スーパー源氏」の各ネット通販サイトに出店しており、商品を注文できる。

「今後は蔵書を1万冊に増やし、アート、文化、民俗、歴史といったジャンルで専門店化を図りたい」という田原さん。6月には「ブックスボックス田原書店 展〜手の仕事、手と目と頭〜」を長沼町の絵本屋「ぽこぺん」(長沼町東6線北2番地 TEL(0123)88-4406)で開催予定(前半:6月11日(金)〜14日(月)、後半:6月18日(金)〜21日(月))なので、こちらも要注目だ。
 

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アート、文化、民俗、歴史分野の蔵書で専門店化を図る



手製本で古書に付加価値を

ブックスボックス田原書店のもう一つの特徴は、手製ブックカバーによる古書の装丁を行っている点だ。
特に、異国風のデザインが施された更紗(さらさ)は、木綿の手触りと染めによる独特の文様が古書の装丁によくマッチしており、古書の新たな価値を見せてくれる。

「文庫の古本などはどうしても安値になりがちで、ネット販売では価格が1円ということもあります。中身は何も変わっていないのに、これで本当に良いのかと疑問に思います。どうにかしたいと思って始めたのが、手製本の制作です。良い本は良い本として取り扱いたい」という想いから、手製本は田原さん自身の手で作られている。
欧州ではこうした手製本が一つのジャンルとして定着しているという。
手製本の販売だけでなく、個人蔵書の手製本化も請負うとのことなので、愛読書の装丁を頼んでみるのも良いだろう。
 

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一冊ずつ、丁寧に仕上げられる手製本。更紗の手触りが古書によくマッチする


Trust yourself. Just do it!


田原さんには大切にしている言葉が2つある。いずれもICCで聞いた言葉だ。

一つはゲームクリエイターの水口哲也氏の口から出た「イメージとエネルギー」、いまひとつはtomatoワークショップでSteve Baker氏John Warwicker氏が語った「Trust yourself. Just do it!」。

「自分がどうなりたいかをしっかりイメージし、自分を信じ、それを継続することの大切さを教えてくれました。負けそうになった時、励みになる大切な言葉です」。

ipadの登場で、デジタルコンテンツを楽しむ環境が激変しつつあることから、電子出版にも興味が湧いているという田原さん。パブリッシャーとして、デジタル、アナログの双方に対応できる強みが生きるのは、むしろこれからなのではないだろうか。
Just do it !


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■コンテンツプロデューサー/古書店主  田原洋朗

・booxbox
http://www.booxbox.com/

・「ブックスボックス田原書店 展〜手の仕事、手と目と頭〜」
前半:6月11日(金)〜14日(月)
後半:6月18日(金)〜21日(月)
場所:絵本屋「ぽこぺん」(長沼町東6線北2番地) TEL(0123)88-4406


取材・文 佐藤栄一(プランナーズ・インク
写真   山本顕史(ハレバレシャシン