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ICC チーフコーディネーター  久保俊哉さん

この春、ICCは設立10年目を迎えます。
クリエイターのインキュベーションを目的に設立され、数多くのクリエイターを輩出し続けてきたICC。
設立時からチーフコーディネーターとしてクリエイターの育成に力を注いできた久保俊哉氏に、ICCのこれまでとこれからについて想いを語ってもらいました。
 

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― ICCは設立10年目に入りますが、振り返ってみてどんな想いがありますか?

「長かったようで短かった」というのが率直な印象です。
丸9年が経ちましたが、前半と後半とでは、やってきたことに大きな違いがあります。
前半は「クリエイティブの種まき」に、後半は「花を咲かせるための土づくり」に重点を置いてきたというところでしょうか。


― 前半の「クリエイティブの種まき」というのは、どんなことをしたのですか?

初期の入居者は「こんなことをやりたい」というはっきりした方向性を持っていて、情熱的な人たちが多かったですね。そういう意味で、「クリエイティブの種」は持っていたわけですが、「これをどこに撒くか」が大きな課題でした。
そこで、彼らを対象に行ったのが、英国のクリエイティブユニット・tomatoの「International Creative Workshop」です。グローバルな視点を持ってクリエイティブの種を世界に撒き散らしてもらおうという意味で行ったのですが、このワークショップに参加したメンバーはその後、世界に大きく羽ばたいていきました。
一流の講師たちと毎日英語で濃密にコミュニケーションをしながら、「創造するとはどういうことなのか?」を問われ続けた結果、たとえ下手くそな英語でも臆することがなくなり、海外に武者修行に行った人、東京をすっ飛ばして海外のクリエイターとダイレクトにつながって仕事をする人などがどんどん現れ、成長していきました。


― 後半の「土づくり」については?

ICCも設立後数年経つと、入居者の属性も少しずつ変わってきました。社会人経験があったり、クリエイターとしての実績が長い人など、"大人"の人たちが入居するケースも増えてきたので、彼らに向けては、既に苗になっているものを如何に良い土壌に植え、ビジネスにつなげるかに主眼が移っていきました。札幌をベースにビジネスをしている人たちが多いため、景気悪化にともなって大変な状況となり、それは現在も続いていますが、そうした中でいかにビジネスのコアをつくり、広げていけるかを考え、アドバイスしています。
札幌の土壌が肥沃ならば困らないのですが、なかなか難しいのが現状です。

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ICCの開設以来、チーフコーディネーターとして活躍


― ICCの入居者は多様性に富んでいるのが特徴かと思いますが、ICCを"卒業"したクリエイターや現入居者の中で特に印象に残るクリエイターといえば、どんな方々でしょう?

それぞれのクリエイターが独自性やユニークな点を持っているので、挙げるとキリがないのですが、米国の短編映画祭でアワードを受賞した島田英二さん(現スノウバグズ)、インディーズ音楽の分野で活躍する谷本光さん、flash動画やオリジナル音楽で絶大なファンを持つイオシスチビナックス・アニメーションなどの制作で有名な前田麦さん、そして、昨年、「センコロール」でメジャーデビューした宇木敦哉さんもICCの卒業企業の仲間です。
現入居者の中にも、世界7大陸最高峰の無酸素単独制覇を目指すアルピニスト、栗城史多さんがいます。
クリエイティブの中身も、目指すものも、皆それぞれ違いますが、ICC卒業後も活躍している姿を見ると、とても嬉しくなりますね。


― 活躍しているクリエイターに何か共通点はありますか?

例外なく、どのクリエイターもコミュニケーション能力が高いですね。コーディネーターの役割は、人脈づくりとその紹介にあるわけですが、いくら良い人脈を紹介したとしても、当の本人がしゃべれない、話かけないではせっかくのチャンスもなくなってしまいます。大きく成長したクリエイターたちは、皆、自分の作品やコンセプトを理解してもらおうと、積極的にコミュニケーションを図っていました。
これは、クリエイターに限らず、どんな仕事に就いていても、成長するための必要条件だと思います。

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クリエイティブ系の人脈は内外問わず幅広い。兄貴分のように慕うクリエイターも数多い


― ICCのアドバイザーには錚々たる方々が名を連ねていますが、アドバイザーからの助言で印象に残っていることなどはありますか?

残念ながら昨年亡くなられてしまったのですが、ICC設立時からアドバイザーを務めていただいた放送作家の鈴木しゅんじさんが、君塚良一さんと一緒にICCでシナリオワークショップを開いてくれた時に話してくれた言葉が忘れられません。
「自分の進む道に、険しい道と緩やかな道があったとして、もしも一流になりたいのなら、険しい道を選びなさい。険しい道を登りきった先にしか頂上はない」と言ってくれたのですが、そのしゅんじさんの言葉を今でも大切に思っています。
それからもう一人、tomatoの創設者でマネージング・ディレクターを務めていたSteve Bakerさんの「教育とは自信をつけさせること。クリエイティブとは地図のない領域に地図を描くこと」という言葉も、失敗を恐れず、勇気を持ってチャレンジする気持ちを与えてくれて、とても励まされます。
優れたアドバイザーの方々から貴重な助言や評価をもらえることは、クリエイターにとって、また、ICCにとっても有難いことだと思います。
先ほど名前を挙げた宇木敦哉さんは、アドバイザーの竹内宏彰さんが彼の実力を高く評価したことがきっかけでデビューに至ったという経緯もあります。アドバイザーの皆さんには本当に力になってもらっています。


― 反対にICCが直面している課題は?


10年近くもやっているのに、まだICCの名前や存在が十分に知られていないのは大きな課題だと思っています。もちろん力不足もありますが、ぜひICCのOB・OGたちにも協力してもらって、自分たちがICCの卒業生だと大いに宣伝してほしいですね。(笑)
長引く不況の影響で、クリエイターを取り巻くビジネス環境がどんどん悪化しているので、札幌市内などの狭いマーケットに依存したビジネスは成り立ちにくくなっています。ビジネス形態の変革やマッチングの促進など、ICCにもこれまでとは違った役割が求められてくると思うので、それに対応していくことも重要な課題です。

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4月からは札幌市立大学大学院で非常勤講師も務める。新たな出会いに期待が膨らむ


― 最後に、10年目を迎えるにあたり、今後の方針やお考えをお聞かせください

これはICCの開設当初から言っていることなのですが、クリエイターには請負型になって欲しくないのです。クリエイターである以上、苦しくても自主事業を展開してもらいたいと思っています。勿論、食べていくためには日銭を稼ぐことも必要ですが、それが100%になってしまったのでは、本当に自分がやりたいクリエイティブは実現できません。ひょっとすると日銭稼ぎの案件を取ってきて紹介するほうが入居者には喜ばれるのかもしれませんが、それではここに入居している意味はないと思います。
これまでたくさんの入居者と付き合ってきましたが、理想を追いかけたクリエイターの方がその後も頑張り続け、結果を出しています。
ICC入居時には、3年間の事業プランを出してもらいますが、完全請負型の事業プランでは入居審査が通らないようになっています。どんなに苦しくとも、本当にやりたいクリエイティブを実現できるよう、これからもコーディネートしていきたいですね。
自主事業をOJT的に実践する目的で、ICCで何かプロダクツを企画し、製造、営業、流通までを経験できるプロジェクトが出来ないか思案しているところです。これはきっと面白いし、有意義な機会になると思います。

― ありがとうございました。10年目のICCの動きに期待しています

 

 

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■久保俊哉
ICC チーフコーディネーター
マーヴェリック・クリエイティブ・ワークス 代表
札幌国際短編映画祭 プロデューサー

取材・文 佐藤栄一(プランナーズ・インク