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キャラクターマネージメント 須川 雅史さん

愛と平和の使者「コアックマ」と
ひねくれ者だが憎めない相方キャラの「アックマ」。
2008年に札幌で誕生した人気「ゆるキャラ(R)」が
この春、全道179市町村をめぐる「フリーハグ」の旅に出た。
生みの親でありキャラクターライセンスを持つ
ベガースウィンドル代表・須川雅史さん(30)が「助走」の2年間を語る。

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札幌発の人気キャラクター、全道キャラバンへ出発

「2008年6月×日。札幌ススキノに一匹のくまが現れました」。出身地はアックマ星。好きな言葉は「SMILE CHANGES THE WORLD」。近頃明るいニュースが不足しているこの星に「LOVE&PEACE」の使命を持って現れたピンクのクマ、それが「コアックマ」のプロフィールだ。

アンパンマンに“ばいきんまん”がいるように、コアックマにも背中合わせの相方がいる。パープルのクマで、名前は「アックマ」。「2008年7月7日。アックマ星の大王『アックマ大王』の命令で、地球に追放したコアックマを追って地球にやってきた」。「だひひひひ!」と笑い、悪事を企むひねくれ者の設定だ。

善と悪の対をなし、物事の二面性を体言する二匹の人気は今や右肩上がり。数10種類以上のキャラクターグッズが展開され、2010年の4月からは「北海道の皆さんにご挨拶を」と全道179市町村を訪れる「コアックマキャラバン」がスタートした。

地方再生の奇策とも言われた「ゆるキャラ(R)」は今や市民権を獲得し、キャラクタービジネスの成否は一企業の収益以上の影響を持つ。コアックマの発案者でありライセンス所有者の須川雅史さんも、「これまで協力してくれた方々のご厚意を無にしないよう、今年はさらに大きく成長したい」と新たな意欲を見せる。

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取材場所であるICCカフェに出没したコアックマ(写真左)とアックマ。好きな食べ物は「野菜と果物、ゼリー」という女の子らしい答えのコアックマに対し、「焼肉、すし」と男子道を突き進むアックマ
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屋内外のいろんなイベントで活躍中! 先頃東京で行われたICCフェスティバルにも登場した
 
 

「小悪魔」が羽ばたくススキノ生まれの誕生秘話

「コアックマができるまでキャラクタービジネスなんて考えたこともなかった」という須川さんは木古内町出身。札幌で海外輸入のレコード店を自営していたが、経営不振で閉店。副業でやっていたデザインの仕事で当座の生活を乗り切ろうと、ススキノにある小さな制作会社に入社した。「入ってからわかった」仕事の大半は夜の店の販促物を作ること。

会社から「デザインの参考に」と渡されたファッション誌には「小悪魔」「age嬢」という独得のフレーズが踊り、読者アンケートでは「将来の夢」10位内に「キャバクラ嬢」がランクイン。多感な10代の女の子たちが享楽的に欲望を追いかける姿に、同じく転職組のデザイナーだった三浦雄大さんも苦笑いでページをめくった。

須川さんは考えた。
「気がつけば“百年に一度”の世界的な不況で、若い世代が夢も希望も持てない気持ちは確かにわかる。だが、待て、と。できることは本当にないのか、と」。
その「待て」に共感した三浦さんと共に、まずは自分たちができることは何かを考えた末に、北海道を象徴する動物クマを今風にアレンジした「コアックマ」を発案。制作会社を辞め、自作ステッカーを無料配布しながら口コミで広めていく手弁当でキャラクタービジネスに乗り出した。

「はじめは、カワイイと思ってもらえるだけでもいいんです。半ば思いつきのように始めた僕らの行動が友達伝いに広まり、こうして形を残せるところまで頑張ってこれた。このコアックマの広がり方自体が『オレにもできそう』『私にも』という若い世代のモチベーションにつながってくれたら一番嬉しい」と、コアックマ誕生に秘めた思いを明かす。

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写真中央が須川雅史さん。2008年のクリスマスイブに株式会社ベガースウィンドルを起業。10年4月からICCに入居する。左はコアックマデザイナーの三浦雄大さん。右はウェブ担当の中山法子さん


 

世界中の感動を呼んだ「フリーハグ」で一躍人気者に

2008年6月のコアックマ誕生と同時にオフィシャルサイトを立ち上げ、ステッカーやバッジなどの先行販売も始まった。次の目標は09年の「さっぽろ雪まつり」。毎年200万人以上の集客を誇る札幌の風物詩はキャラクターデビューに格好の場だ。

須川さんは当時の持てる資金全額を注いで、宮崎県の舞台制作会社にコアックマの着ぐるみ制作を依頼した。「費用を入金した時は一瞬落ち込んだ」テンションも着ぐるみが届いた日は最高潮に。早速狸小路に出没し、人の輪が出来た好感触に勇気づけられた。

コアックマが一躍人気者となった最大の勝因は、「フリーハグ」(フリーハグズとも言う)にある。通常、身内や友人同士で行うハグ(抱擁)を見知らぬ人々と交わすフリーハグは、2001年ごろにアメリカで始まったコミュニケーション活動。抱きしめることで言葉にできない愛や温もりを伝えていく。Youtubeにアップされたフリーハグの画像は「心が温まる」と今も世界中に感動を呼んでいる。

「これをコアックマでやりましょう」。デザイナー三浦さんのアイデアは当たった。雪まつり当日、「フリーハグしませんか!」のかけ声と共に会場を練り歩くコアックマに、行き交う老若男女が足を止めた。ピンク色のクマを抱きしめるとびきりの笑顔に、須川さんたちは大きな手応えをつかんだ。

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大道芸人とのその場限りの共演で拍手喝采も浴びたことも。人の縁がさらなる良縁を呼び、ICCコーディネーターともつながった

活動を始めてみてわかったことがある。
「“みんなが笑顔になれば世の中も良くなる”的なことを生身の僕らが言っても、そう簡単に受け入れられるとは思えない(笑)。ところが、キャラクターのコアックマなら僕らにはない説得力を持ってそれが言える。僕らが伝えたいメッセージをわかりやすく噛み砕いて落とし込める最高の代弁者。何でも吸収してくれるコアックマの懐の深さをあらためて実感しています」。
 
 

ゆるキャラ(R)サミットの北海道支部に任命

雪まつりデビューで弾みがついた2009年、コアックマのPR活動は本格化した。育児雑誌「はっぴーママ」に売り込むかたわら、びえいヘルシーマラソンでは着ぐるみのまま約5kmを完走。STV深夜番組「What’s New? Cute☆」の女の子オーディションを聞きつけた時は、「コアックマは女の子ですから」という“ダメもと応募”が局側の笑いをとって見事、合格。レギュラー出演の席を手に入れた。

さらなる転機となったのは、10月に滋賀県彦根市で行われた「ゆるキャラ(R)まつりin彦根〜キグるみさみっと2009」の出演だ。この時、須川さんたちはコアックマの売り込みと同時にウェブ制作に長けている自社の強みを積極的にアピール。
「おかげで、ゆるキャラ(R)さみっと北海道支部の役目をいただき、ゆるキャラ(R)さみっと公式サイトの制作も任せていただくことになりました」。
4月1日には公式サイト「ゆるキャラ(R)さみっと情報局」が開設され、全国の活発な情報交換を進めていく。

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全国から集まった「ゆるキャラ(R)」の中でもひときわ目立つコアックマ&アックマコンビ
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「ゆるキャラ(R)さみっと情報局」。協会本部は言わずと知れた人気キャラ「ひこにゃん」の出身地、滋賀県彦根市にある
 

北海道支部の使命の一つに、全道に60体以上いると言われる「ゆるキャラ(R)」のネットワーク作りがある。2010年4月17日の赤平市から幕を開ける全道179市町村の旅「コアックマキャラバン」では、ご当地キャラとコアックマの夢の共演も期待できそうだ。
さらに道中、着ぐるみのハグ最多記録でギネス登録を目指し、「1ハグ1円キャンペーン」で集まった金額を慈善事業に寄付するためのスポンサー企業も募集している。

キャラバンの特設サイトを制作した中山法子さんは、古くからの友人だった須川さんの活動に共感して仲間になった一人だ。「今はこのキャラバンがどう進んでいくのか、運営する私たちもとても楽しみにしています」。

コアックマ誕生以来、売り込み先でのあからさまな門前払いもゲリラ的なPR活動で担当者に叱られたことも、全てがコアックマの血となり肉となった。目指すは、札幌発世界に飛び出すキャラクタービジネスを成立させること。目標とするキャラクターは「アンパンマン」。「あれだけ長く愛されるようになったら本望です」。

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「“君たち、おもしろいことやっているね”と人を喜ばせる感覚が楽しい」と語る須川さん koakkuma-goods.jpg
コアックマグッズは道内のドン・キホーテやアカチャンホンポ、札幌市内や千歳空港のおみやげ店などで好評発売中

 

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■コアックマ
公式サイトhttp://koakkuma.jp/
コアックマキャラバン特設サイトhttp://koakkuma.jp/caravan/


取材・文 ライター 佐藤優子 
blog「耳にバナナが」 http://mimibana.exblog.jp/