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アーティスト 斉藤幹男さん

【北海道新聞掲載記事】
縦長に置かれた3台の大型モニターがそれぞれ異なるモノクロの映像を映し出す。
精緻な映像を見慣れた目には、「動画の創世記」を思わせるノイズ入りの映像がとても新鮮に映る。
「Stripes too Stripes」と名づけられたこの映像の作り手は斉藤幹男さん(32)。
6年間のドイツと英国での創作活動を経て、札幌に拠点を移した気鋭のアーティストだ。
 

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写真の勉強を目的にドイツに留学

斉藤さんがアートに興味を持ったのは、早稲田大学在学中のこと。美術史や写真が好きで、若い講師の講義を好んで受講していたという。「フェニミズムアート」など、興味をそそる講義があり、アートへの関心が高まっていた頃、早稲田大学が芸術系の専門学校(現 早稲田大学芸術学校)を新設することを知り、卒業と同時に同校空間映像科に入学した。

「当時はまだアーティストになろうとは考えていなかった」という斉藤さんだが、2001年に開催された「横浜トリエンナーレ2001」で、会場や参加する著名のアーティストたちの写真を撮るボランティアとなり、プロのアーティストを間近に見る中で自らの意識も変わっていった。

アートの中でも特に写真に興味をもっていたことから、写真の勉強を目的に、2002年、芸術学校の卒業と同時にドイツのフランクフルトにあるシュテーデル芸術学院への留学を決めた。
 
 ドイツで芽生えたアーティスト・スピリッツ

留学先の学校は、基本的に授業というものはなく、学生が4〜5人でアトリエを借り、そこで作った作品を月に1回しか来ない教授に見せて批評を受けたり、飲食をともにしながら作品について意見を言い合うという形が主だった。

「学生は100人くらいの小さな学校で、教授は30代で学生も30代が多かったですね。教授は「教える」というスタンスではなく、アーティスト同士のような関係を求めていました。学生の作品を見て、「なぜ○○がここに描かれているのか?」、「その意味は?」、「なぜこの位置なのか?」といった具合に質問を投げかけてきて、その受け応えをもとに討論するということが多かったです」。

斉藤さんにはこうしたことがとても新鮮で、知的なゲームのようにも感じられ、同時に自分の作品をしっかりと掘り下げ、明確に説明できるようにしなければアーティストとして恥ずかしいと思うようになった。
「作品を作り終わってから説明を考えるのではなく、ちゃんと理由をもって創作するようになりましたね。作ってみて面白くなかったら人に見せて意見を聞いたりしていました」。
日本ではなかなか体験できない環境の中で、斉藤さんは自身の創作スキルを高めていった。

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ドイツで過ごした5年半はアーティスト・スピリッツを燃やすのに十分な時間だった


ギャラリーからの評価がアーティストへの道を後押し

写真の勉強を目的にドイツに渡ったものの、ドイツではひたすら絵を描くことに専念し、描き上げた何千枚もの絵を使ってアニメーションを作った。特に、子どもの頃からパラパラ漫画が好きだった斉藤さんは、モノクロの絵を元にした素朴なアニメーションを多く手がけた。

創作したアニメーションを学内の展覧会に出品したところ、それがフランクフルトやウィーンのギャラリーの人の目に留まり、企画展を開催するチャンスに恵まれたことが、斉藤さんをプロのアーティストの道へと導いた。

「それまでは漠然と作品を作っていた感じでしたが、ギャラリーで人に見せるための作品づくりが求められるようになってから意識が変わりました。しかも、アニメーションなどの映像はギャラリーが売りにくい商品なので、アニメの原画を生かしてグッズや彫刻を作り、原画と一緒に販売したり、インスタレーションにしてディスプレイするなど、色々な仕掛けや造作もしました」。

斉藤さんの作品を評価したギャラリーがグローバルなネットワークを持っていたことから、スウェーデン、デンマーク、台湾などでも作品が展示されることとなり、ドイツ滞在時に世界を相手にするアーティストへと成長した。
 

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2005年に制作した映像作品『Pockets』は、ウォルフスブルグ(ドイツ)の自動車メーカーAutostadt社の社屋LEDモニターに1ヶ月間展示された

 ART BOXで「動画の誕生」を魅せる

2008年にドイツから英国へと渡り、翌2009年、斉藤さんは生まれ故郷の札幌に戻った。その札幌で最初に手がけた作品が冒頭で紹介したモノクロアニメーション「Stripes too Stripes」だ。
JRタワーが北海道のアーティストたちに新たな発表の場を提供する目的でJR札幌駅の東側コンコースに設けた「ART BOX」(アートボックス)。この箱の中で、斉藤さんが作った3本のモノクロアニメーションが上映されている。

この作品のテーマは「動画の誕生」。
原画はすべて手書きという力作だ。
「駅に隣接した場所での展示なので、世界初の映画ともいわれるリュミエール兄弟の「列車の到着」を少し意識して、「動画の誕生」をメインテーマにしてみました。モニターを縦置きするのは初めての経験で、最初は3面を使って1つの絵にしようと考えていましたが、各モニターに別々の映像が違うタイムラインで流れるようにしました。想定した以上の出来に満足しています」。

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JRタワーのART BOXで展示中の作品「Stripes too Stripes」

 

3つの映像はそれぞれにテーマを持っており、まず、右側の映像は「映像の原始的な形体」をテーマしたもので、まるで影絵を見ているようなアニメーションが楽しめる。

中央の映像はメインテーマである「動画の誕生」を表現したもので、随所に表れる縞模様の変化が楽しく、作品タイトル「Stripes too Stripes」の意味をよく理解することができる。

左側の映像のテーマは「写真術」。画面全体に“計算された”ちらつきやノイズがあり、初期の頃のテレビの画面を思わせる。カラーテレビが普及する前の時代の記憶がある人には懐かしさを持って見ることができるだろう。このちらつきは斉藤さんが周到に計算して作品化したもので、逆に、想定外のエラーによるノイズが入らないよう気を使ったという。

「私のアニメの原画は殆どが手書きですが、パラパラ漫画を描くような感じで、あまり難しいことを考えず、ある程度適当に、感覚的、実験的に描きます。それでもちゃんと作品になるところが楽しいですね」。
斉藤さんが楽しんで原画を描いた様子は、3つの映像から十分に伝わってくる。


期待が大きい今後の札幌での活動

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6年間の海外生活を終え、帰国したばかり。札幌での積極的な活動が期待される

このART BOXでの展示は、外から見えない部分にも斉藤さんの経験が生きている。表示されている映像データはモニターの下にあるDVDプレーヤーから送出されているが、駅ビルの総合電源に合わせてモニターとDVDプレーヤーの電源が入るようにしなければならないため、自動再生機能を持った車載用DVDプレーヤーを作っているメーカーを自ら探し、調達した。
こうした環境づくりも含め、今回の展示作品は、これを1つのフォーマットとして他の場所でも展開できる可能性を予感させる。

「札幌在住のレベルの高いアーティストたちと少しずつ知り合いになっているので、交流を図りながら自分の活動を広げていきたいですね。たくさんの人に作品を見てほしいので、見る人を限定しない環境で作品を発表していきたいです」と斉藤さん。今後の活動に要注目だ。

JRタワー東コンコースのART BOXでの展示「Stripes too Stripes」は、1月31日(土)まで、8時〜22時の時間帯に見ることができる。ぜひ足を運んで、「動画の誕生」に触れてほしい。

Interview BGM:渡辺崇(Junkan Production)
Sound by GreenAppleQuickStep

 

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■アーティスト 斉藤幹男

プロフィール等    http://s-xing.jp/db/ind/prof0157.html
JRタワーART BOX  http://www.jr-tower.com/artbox/

取材・文 佐藤栄一(プランナーズ・インク)
http://www.planners-inc.jp