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アートディレクター 岡田 善敬さん

【北海道新聞掲載記事】
世界が認める逸材揃いの札幌デザイン界で、
2009年最も注目を集めた人物はこの人だろう。
札幌大同印刷(株)のアートディレクター・岡田善敬さん(35)は、
「Graphic Design in Japan 2009」で新人賞を受賞、
続いて北海道勢からは初の東京ADC賞にも輝き話題を呼んだ。
2010年の年明け早々から、チャーミングな受賞作を一度に楽しめる
「オバケ!ホント?展」が好評開催中だ。

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デザイン発信都市・札幌を沸かせた新たな輝き

2009年に札幌デザイン界を賑わせた岡田善敬さんの快挙に話を進める前に、札幌のデザイン界について簡単な基礎知識をご紹介したい。
それは、札幌には海外の名だたるデザインコンペティションで評価を受けた世界レベルのクリエイターが幾人もいること、クリエイター同士の“放課後のクラブ活動”的な存在として「札幌アートディレクターズクラブ」(以下、札幌ADC)が意欲的に活動していることの二点である。

2008年のワルシャワ国際ポスタービエンナーレでは、2500点近い応募作品の中から選ばれた日本の入選者45人中、8人・12作品が札幌勢。同年のニューヨークADCでも毎年3万〜4万点がエントリーされる中、札幌のクリエイター4人が入選通知を受け取った。
こうした国際コンペでの入賞・入選の知らせがほぼ毎年駆け巡る札幌は、優れたクリエイターを輩出する“デザイン発信都市”として近年評価を集めている。

…ということをデザインを受け取る側の一般市民はまだまだ知らない。2010年1月6日から始まった岡田さんの東京ADC賞受賞記念「オバケ!ホント?展」は、その距離を一気に縮めてくれそうな“みんな大歓迎”のスピリットにあふれている。なぜなら主役は白い布のオバケ。見る人すべての記憶に眠る、あのオバケが会場を埋め尽くしているからだ。

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「オバケ!ホント?展」(Artdirection 岡田善敬 Illustration 倉橋寛之)は、ほくせんギャラリー[アイボリー]ivory(札幌市中央区南2条西2丁目 NC HOKUSEN ブロックビル4F 電話011-251-5100)で好評開催中。時間は11:00〜20:00(最終日は17:00まで)、1月16日(土)までなのでお見逃しなく!

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大きなオバケと一緒に写る記念写真コーナーも

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どんなフォルムにもすんなりとなじむ「オバケ!ホント?」の魅力に思わず頬がゆるむ


自主制作の原点「モアイ・フォント」

高校まで故郷の帯広で過ごし、絵に携わる仕事をしたくて札幌デザイナー学院に進学。1990年代当時は紙版下とデジタル制作の端境期。パソコンの習得が速く、札幌大同印刷株式会社に新卒採用された。

入社当初は地図や見取り図を1日数10枚作る日々を送り、その後デザイン力重視の企画室dio(ディオ)の立ち上げと同時に異動になった。今から10年前のことだ。「デザインの基本を教えてくれた大先輩や休日ゼロの時期を一緒に過ごした戦友、そして理解あるクライアントの皆さんがいてくれたおかげで、今の自分がいます」。

予算も納期も縛りがあるクライアントワークと、クライアント不在の自主制作。後者が簡単に思えるのは大きな誤解だ。自由であることの不自由さは当事者になって初めてわかるもの。印刷会社に所属するアートディレクターとして実績を積んできた岡田さんも、自主制作ならではの壁に頭を悩ませた。

「2004年から素晴らしい才能が集まっている札幌ADCに参加することで、徐々に自主制作にも関心を持つようになっていきました。ですが、自主制作には自分というものが100%出る照れがありましたし、“クライアントの要望だから”という逃げ道もない。途方にくれながらもまず予算だけは決めようと思い、予算をゼロ円に設定。それならフォント(書体)しかないと作品を絞り込んでいきました」

そうして生まれたのが「モアイ・フォント」。2007年の札幌ADCシンボル・ロゴ・タイポグラフィ部門で金賞と会員審査賞を受賞した。ところが本人が期待したよりもモアイ・フォントは機能性が弱くそれ以上の広がりが生まれない。展開力。次の課題が見えてきた。

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自主制作で評価される喜びを教えてくれた「モアイ・フォント」

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学生時代はサッカー部。「先生に“全国を目指して初めて全道で優勝できるんだ”と言われた意味がやっとわかってきました」



シリーズ化のカギはイラストレーターの表現力

誰も見た事がない奇抜な新しいものを作るよりも、人の記憶に眠っているものをデザインの力で輝かせたい。
「それが何かをずっと考え続けているうちに、昔『トムとジェリー』で見たオバケ姿のジェリーを思い出したんです。白い布をかぶった瞬間にパチパチと目があくのも面白くて、これだと」。あらゆるものに布をかぶせてオバケ化するグラフィック作品「オバケ!ホント?」が生まれた瞬間だった。

課題だった展開力をつけるには白黒のシンプルなイラストでいろんな事を伝えられる表現力が必要だ。岡田さんはその腕を見込んでイラストレーターの倉橋寛之さんに協力をあおいだ。
「見る側が自由に想像できるように、とか僕が思い描いていることを全部伝えて。倉橋さんの口から“布と真空パックの中間みたいな感じでしょうか”とそのものズバリの表現が出た時は、この人にお願いして本当に良かったと思いました」。

フォントやポスターから始まった「オバケ!ホント?」シリーズはその後レターセットやエコバッグ、Tシャツと現在20種類のグッズに展開されている。

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JAGDA新人賞の審査員評では「私たちが忘れかけていた「fun to design」(中略)を想起させてくれる」と絶賛された「オバケ!ホント?」シリーズ

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会場ではグッズ販売も行っている。缶バッジの「ガチャガチャ」も大人気!

「オバケ!ホント?」シリーズは結果、2008年の札幌ADCグランプリと尊敬する松永真賞のダブル受賞を果たした後に、2009年のJAGDA新人賞、そして北海道のクリエイターとして初の東京ADC賞に輝いた。現在開催中の展覧会はその東京ADC賞受賞記念のイベントでもある。同シリーズの本格的なお披露目は札幌ではこれが初めて。一般の人々にどう受け入れられるか、岡田さんも興味津々で見守っている。

「これからも見たら思わず笑ってしまうような心温まるものを作っていきたい。そのためには自分自身の人生が豊かでないと。そういう風に生きていく事自体がクリエイティブ以前の大きな課題なのかもしれない」と語った。

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会場にふわふわ浮かぶオバケモビールに子どもたちもくぎづけ。それを見つめる岡田さんも嬉しそう

 

BGM:渡辺崇(Junkan Production)

 

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■札幌大同印刷株式会社 企画室dio[ディオ]
http://www.dioce.co.jp/daido/
〒064-0807 札幌市中央区南7条西1丁目リバーサイド第2弘安ビル4F
TEL.011-562-1270 FAX.011-562-1280
■オバケ!ホント?ネットショップ
http://www.dioce.co.jp/shop/obake/

取材・文 佐藤優子 
blog「耳にバナナが」 http://mimibana.exblog.jp/