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ATELIER SANO 建築家 佐野天彦さん

札幌の山の手に建つ、あたたかみのある白い戸建て住宅。ドアを開けると、この家の設計者、佐野天彦さん(31)がやさしく出迎えてくれた。
若手ながら11年のキャリアを持つ、気鋭の建築家の素顔を紹介する。

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市立高専で建築の道を志す

小、中学校の頃から美術が得意だった佐野さんは、開学3期目の札幌市立高等専門学校を自らの進路に選んだ。デッサンやデザインなど、基礎的なことを学んだ3年間が過ぎ、4年生からの専門課程で建築デザインコースに進んだ。
建築の道を志した理由については、「父がゼネコンの設計部で仕事をしていた影響も多少はあったかもしれません」と振り返る。

高専で建築を学んだ2年間は佐野さんにとって充実した日々だった。
「色々な設計課題が出るのですが、課題をやるのが楽しくて、建築が自分の性に合っていると感じました。建築の世界では“住宅に始まり住宅に終わる”という言葉もありますが、私自身も住宅設計に強く惹かれました」。
小さな建物の中に多くの要素を凝縮する個人住宅は、その奥深さと難しさゆえに、建築家を奮い立たせるのだという。

卒業後はアトリエ系の設計事務所に勤めようと考え、自身が「良い住宅だ」と思える作品を数多く生み出していた札幌の中井仁実建築研究所を就職先に選んだ。

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31歳の若さにして、11年のキャリアを持つ建築家・佐野天彦さん


“中井スクール”で培った技術と経験

中井仁実建築研究所は、所長のほかスタッフ数名という構成だったが、ここで鍛えられたことが現在の佐野さんの礎となっている。
「所長が設計をし、スタッフはアシスタントという形の事務所が多いと思いますが、所長の中井さんは若いスタッフでも建て主との打ち合わせに同席させ、プランニングを作らせました。打ち合わせが終わると、「明日までに一案作れ」と指示が飛んでくるのです。一人で設計できる力を付けさせるスタイルで、このやり方を“中井スクール”なとど呼ぶ人もいました」。

「“中井スクール”は非常に厳しかったですね」と語る佐野さん。「プランニングに甘い箇所があろうものならば、渡した瞬間に一目で見抜かれ「やり直せ」と即答されました。そんな時は何処が駄目かは教えてもらえず「自分で考えろ」としか言って貰えないんです」。実務上必要な基礎知識の習得もさることながら、建築に向き合う姿勢が甘すぎるとカツを入れられたこともあったという。

入所後2年くらいは、友人からの誘いも殆ど断っていたと言うほど仕事に没頭した佐野さんも、3年目頃になると建築についての実務が身につき、細かなチェックを受けなくてもOKが出るところまで成長した。
「どの建物も、まずは敷地の諸条件や施主が話す内容、人柄などから建物のイメージを膨らませ、第1案を作成します。それでも第1案がそのまま最終案になる事は稀で、最初の案を出した時に施主がどういう反応をするかを見極めながら次のプランに反映していくという作業を、対話を通して繰り返すのです」。

8年間の勤務の中で佐野さんが設計を担当した建物は10件以上にのぼり、一つひとつ経験を積み重ねながら、建築家としての実力を蓄えていった。

 

カタチになる喜び、そして、怖さ

佐野さんには今でも耳に残っている言葉がある。
中井所長が常々言っていた「美しければ良い」という言葉だ。
「“美しい”という言葉には深い意味があります。見た目だけでなく、その建物の背景や雰囲気も含めて、すべてが理に適っている建物は住まい手に愛され、永く大事にされます。それこそが“美しい”建物で、そう簡単にできるものではありません」。

苦心の末に出来上がった図面をもとに建築工事が始まり、実際に建物の形が見えてくる過程は、設計する者にとって最高の喜びであり、醍醐味だろうと思いきや、佐野さんの口からは意外な言葉が返ってきた。
「もちろん嬉しくもありますが、いざ建物が建ち上がることを思うと、むしろ怖さを感じました。建築はこの先何十年も維持できるものにしなければならないので、作り手の責任は重大です。プレッシャーで胃が痛むこともありました。恐らく建築をやっている限り、この怖さから解放されることはないでしょう」。
 “怖さ”を感じる感性こそ、建築家に必要な要件なのかもしれない。
 
 

独立後、ATELIER SANOを設立

建築研究所に就職する以前から将来独立することを考えていた佐野さんは、入所から8年後の2006年末に独立し、「ATELIER SANO」を設立した。

独立後初めて手がけた物件が今回訪問した山の手の住宅だ。
白を基調にした木造二階建の住居は、大きな窓から十分に光が射し、床や階段、天井などに使われた木の色調が見事に調和し、落ち着いた佇まいをみせている。
「施主のご希望で、高齢の方にも、若い方にも利用しやすいつくりを意識して設計しました。その結果、尖ったイメージの建物ではなく、少し押さえ気味で包容力のある建物になったと思います」。
1階リビングには板張りの床と畳敷きの小上がりが配され、2階に上がると、やわらかな陽光が射すテラスがあり、ここにチェアを出し、読書に耽りたい衝動に駆られてしまう。
やさしく、ゆったり時が流れていくような空間にいると、この建物に込めた佐野さんの想いが伝わってくるようだ。

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山の手の住宅は独立後の第1号作品。「白」と「木」が調和したあたたかみのある住宅だ

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初冬の外観. 淡く積もる雪の中に白壁の建物が静かに佇んでいる

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リビングは北庭に開放し、柔らかな自然光を取り入れている。窓はトリプルガラスを採用し、断熱性能も高い(上記写真2枚:グレイトーンフォトグラフス 酒井広司)


独立後、2番目に設計した住宅は、コストとの闘いという難しい条件の中での設計となった。
「総工費1000万円という条件を施主から提示され、お話を頂いた当初は難しいかなとも思ったのですが、厳しい予算制約に面白さを感じる部分もあってチャレンジしました」というその建物は、プランニング時からローコストを徹底し、その建設には、施工を担当した工務店との連携が欠かせなかったという。
「どれ程ローコストな建物であっても建物の性能は落としたくないですし、数値では表せない「素材感」なども大切にしたいと思っています。それには設計のみならず、施工技術も必要なんです」。
難易度の高い計画であっても、それを面白がってくれる工務店や職人の存在は佐野さんにとって貴重な財産であり、大切なパートナーでもある。
苦労の果てに完成したこの住宅の引き渡しの際、佐野さんはとても嬉しい光景を目にした。
「この家には梯子を付けたのですが、小学生の男の子二人がワーッと楽しそうに梯子を上っている姿を見たときはとても嬉しかったですね」。
この時こそが、建築家として一番嬉しく、誇りに思う瞬間だろう。
その後、この住宅の建築実績は日本建築学会北海道支部主催の北海道建築作品発表会で好評価を得るところとなり、佐野さんにとって大きな励みとなった。

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33坪程に区画された住宅地に建てられた、素材感溢れる板張りの住宅

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内部は構造体がそのまま仕上げ材となり、床のコンクリートには床暖房が施されている

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縦に抜ける作りとすることで、空間の広がりや採光・通風を確保している
(上記写真2枚:リプラン北海道 2009/vol.83号掲載写真)

 

時間が経っても使い続けられ、愛される建物を

建築設計というクリエイティブな仕事をする職業人である以上、自分の個性をどこに求め、どう表現するかは大きな関心事のはず。同様に、どのような建物が良い建物だと考えるのか、その問いに対する答にも個性があるはずだ。

「昔から思っていることは・・・」と切り出した佐野さんはこう続けた。
「年月に耐えられる建物を作りたいのです。流行り廃りに影響されず、時間が経っても悠然と佇んでいるような建物を。バブル経済時のように、一時の勢いで作られた物には疑問を感じるものが多いのですが、デザインなど建築家の自己主張が強すぎる建物にも同様の抵抗感を感じます。永い時間が経過しても使い続けられ、愛されている建物こそ良い建築ではないでしょうか。建築家としての個性、「自分の色」とは、出そうとして出すのではなく、後々、軌跡を振り返った時に分かるような、そんなものだとも思っています」。

今後はこれまでの実績や建築家としての想いをもっと知ってもらうため、自身のウェブサイトや雑誌を使った情報発信にも力を入れる予定とのこと。
「自由な発想を持つ施主が多いので、設計は驚きとワクワクの連続ですよ」と語る佐野さん。次の作品の竣工が楽しみだ。

最後に、新作の「西町の家」の一部を紹介する。
ホームページには多くの写真を掲載しているので、是非見てみて欲しい。
 

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開放的なリビング.様々な開口部から光が溢れる作りだ

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夕景 室内の明かりが住宅地に優しく広がる。右の建物は建て主の両親の家で、2棟の間には中庭が設けられている(上記写真2枚:写真工房 富井義人)

 

BGM:渡辺崇(Junkan Production)

 
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■ATELIER SANO  代表 佐野天彦(さの たかひこ)
http://at-sano.com

取材・文 佐藤栄一

最終更新日:2009年10月27日