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映像作家 島田 英二さん

24歳から撮り始めた9年間で20本のショートフィルムを制作。
アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、イラン…と、
監督作が上映された海外の映画祭に最近はメキシコ国際映画祭も加わった。
北海道のショートフィルム市場とともに成長した実力派映像作家、
島田英二さんの新作が10月14日から開催の札幌国際短編映画祭で上映される。

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「北海道から世界」を狙うバッターボックス

8月末に行った取材当日、本人の口から吉報を教えてくれた。監督17作目にあたるショートフィルム『銀杏の樹の下で』(2008年・14分20秒)が、メキシコ国際映画祭の最優秀外国語映画賞を受賞したという。

これが長編映画であれば、島田英二監督の名は日本のメディアにもっと流出していたことだろう。日本人が考える以上に世界にはショートフィルムの市場があり、一つの映像ジャンルとして確立している。釧路生まれ、札幌在住の島田さんは2000年からショートフィルムを撮り続け、その活躍は海外にも及ぶ。

「北海道から世界に向けて発信」というフレーズを実感したのは2003年の時。12作目の『6:00PM』(2003年・7分30秒)が、カリフォルニア・インディペンデントフィルムフェスティバルで短編部門のグランプリに選ばれた。札幌で撮影し、地元の子どもたちが主人公を務めた作品が海外で評価された驚きは、自信にもなった。それ以降も国内外を問わず映画祭への応募を積極的に続けている。

「もちろん空振りの時もありますが、まずは打席に立ってバットを振らないことには始まらない。振って当たったらまた次の打席に立ちたくなる。その繰り返しです」と語る。

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島田さんの母校でもある北海道大学の撮影協力で完成した『銀杏の樹の下で』
 


プロの目線が入った制作現場を経験

南カリフォルニア大学で映画制作の基礎を学び、その時制作した『Hands』(2000年・6分30秒)が転機を呼んだ。登場人物は2人。人を近づけもし遠ざけもする手の動きを躍動的に見せた同作で、2000年に札幌で開催された「アメリカン・ショート・ショートフィルムフェスティバル」に入選。映像関係者の人脈を広げ、01年からの3年間はICCにオフィスを構えた。

一般にショートフィルムの制作現場は、同世代の映像作家同士がカメラ、照明、録音などを互いに役割分担しながら作っていくことが多い。が、06年に撮った『ピクニック1号』(2006年・15分)では、初めてプロのカメラマンとタッグを組んだ。

「撮影の品田圭人さんをはじめとするプロのスタッフを一言でいうと“強い味方”。自分の頭の中で描いていたイメージを的確に形にしてくれますし、自分では考えもしなかったような技術的な解決策を提示してくれます」。

一人何役もこなしていた現場にプロのスタッフが入ることで、監督業に集中できる。いい作品づくりに欠かせない要素を肌身で学んでいった。

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友人と株式会社スノウバグズを立ち上げ、ショートフィルムの他にキャラクターの制作・販売も行う



島田先生が泳がせる映像作家・島田英二

2008年からは北海道情報大学 情報メディア学科の准教授に就任した島田さん。依頼があった時は「30代の自分に映画を教えることができるのか」と迷ったが、教育という新しい世界を知る機会と思い直し承諾した。実際、教壇に立つことで得た収穫も多かった。

「黒澤明監督の『七人の侍』を見たことがある学生は200人中10人にも満たなかった。今の若い世代は8割以上がアメリカ映画中心で、フランスや日本の作品を知らないんです」。そんな彼らに幅広い映画の魅力を伝えたい。そのために毎回授業前に山積みの専門書と格闘する時間も、ひいては自分の血となり肉となる。今年からは映画史の授業も始め、「自分のハードルを勝手に上げてしまいました」と苦笑する。

社会的な責任を担う教育者になった一方で、映像作家としての島田英二は自由に泳がせたままでいたい。市内中の電話ボックスを調べたり、札幌ドームの芝生に蟹を置いてみたくなったりと、作品のためにいつでも柔軟な発想でいられる心持ちを大切にしている。

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大学ではショートフィルムを制作するゼミも担当。学生たちのことを「子どもができたみたい」と語る島田先生だが現場ではすっかり溶け込んでいる様子。


20作品目が札幌国際短編映画祭で上映

今年10月14日から始まる「札幌国際短編映画祭」の「国内作品B」プログラムで上映される『サラダパン』(2009年・20分)は、ショートフィルム20作品目。「日常の心の機微を描きたい」と語る島田さんらしい丁寧な映像づくりが胸を打つ。

“ショートフィルムを100本になるまで撮り続け、全作品の舞台を落とし込んでいくと北海道地図が出来上がる”。当初描いていた夢が今、大きく変わろうとしている。撮りたいという気持ちのベクトルが長編映画に向いてきたのだ。

「教育や町づくりのように映画が巻き込める分野や、長編だからできることはたくさんあるはず。もっといろんな人を巻き込んで北海道で大規模な作品を撮ってみたい。長編を撮るタイミングが迫ってきている気がします」。

“世界に通じる映像都市”を目指す札幌でショートフィルム市場をけん引してきた島田さん。次のステージに向かうそのまなざしに何を映しているのか、スクリーンで確かめる日が待ち遠しい。

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札幌に実在する老舗パン屋「銀座屋」が舞台となった『サラダパン』。札幌国際短編映画祭では島田さんが講師となったショートフィルムワークショップの作品も10月15日16時からの映像教育フォーラムで無料上映される。詳細は映画祭サイトまで。

 

 


BGM:渡辺崇(Junkan Production)

 

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■株式会社スノウバグズ http://snowbugs.jp/
札幌市中央区南14条西6丁目3-16 リベラルビル3F
TEL・FAX 011-563-6500
■島田英二のブログ http://eshimada.exblog.jp/

取材・文 佐藤優子 
blog「耳にバナナが」 http://mimibana.exblog.jp/