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フードプロデューサー  小畑 友理香さん

小畑友理香さんは、食材の研究から商品の企画、開発、販路の開拓・提供まで、トータルに対応できる道内には数少ないフードプロデューサー。
道産食材の利活用についてアドバイスを求めようと、小畑さんのもとには道内各地から依頼が絶えない。
今夏には女性スタッフのみで食のプロデュース会社を設立し、さらにエネルギッシュに活動する小畑さん。そのパワーの源はどこにあるのだろうか。
 

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想定外の起業で培った人脈、そして度胸

英語の通訳になろうと専門学校に通っていた小畑さんは、縁あって北海道庁の臨時職員となり、データ入力の仕事を担当した。
当時はワープロ、パソコン普及の黎明期で、ローマ字キーボードを打てる職員がいなかったことから、英文タイプを使いこなせる小畑さんは貴重な戦力となった。やがてその実力が評価され、OA関連会社でインストラクターやデータ入力を担当し、その後は個人事業主として独立し、仕事を続けた。

「寝ないで働いても終わらないほど仕事がありました。どのメーカーのワープロやパソコンにも対応できたことが評価されて、大手のクライアントをご紹介いただいたり、取引先が拡大していきました」。
こうして4年間、個人事業者としてビジネスの基礎を固めた後、1990年に有限会社ディスクワーク・インを設立し、代表者となった。

「自分で会社を立ち上げるなど、思ってもみないことでした。『財務諸表って何?』、『お金ってどうやって借りるの?』、全く右も左もわからない娘が会社を立ち上げたのですから、奇異な目でも見られましたし、それはもう大変でした。ただ、そうやって世の中を知ることが楽しかったですね。物怖じしない性格や、人を使うことに抵抗がないのは、この時の経験があるからだと思います」。
20代の小畑さんは、道内に4拠点、最大で38人の社員を率いる女性起業家として多忙な毎日を送っていた。

 

「食」への扉を開いた学校給食献立作成システムの開発 
 

小畑さんが食の世界と接点を持つきかっけとなったのは、留萌市の病院から院内給食の栄養計算やカロリー計算、データ入力支援ソフトの開発を依頼されたことだった。

当時、生まれて間もない子どもを抱えていた小畑さんは、育児をしながら約1年間も現地の病院に通い、給食事業や複雑な栄養計算のしくみなどを徹底的に勉強した。
その甲斐あって、完成したシステムは現場の栄養士などから絶賛され、その後、札幌市が学校給食事業の支援システムとして採用するなど、現在でも多くのユーザーから支持されている。

このシステムを作る過程で、栄養士、管理栄養士などと勉強会を重ね、食、栄養、健康についての実務を身に付けた小畑さんは、食の分野、とりわけ道産食材の可能性とその活用に強い関心を持つようになっていった。

「子どもを置いて留萌に通った1年間はとても辛い時期でしたが、あの時に現場で教わった知識と経験が今に生きていると思います。食についてわかってくると、食材を選び、自分で考え、作って食べることが面白くなってきました」。
 

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キッチンでの一コマ。オフィスでは、試食会を兼ねたパーティも頻繁に行われている

 

フードプロデューサーの “モデル” をめざす

北海道の食材を生かした事業を考え始めた小畑さんは、その情熱と持ち前のフットワークを生かし、農家、料理研究家、食品会社、大学、研究機関など、食にかかわる人たちと幅広いネットワークを築き上げていった。
中でも、北海道大学で応用菌学を研究する浅野行蔵教授から、発酵や食材の機能性、臨床食への応用などを学んだことは大きな転機となった。

「研究に近いところに踏み込んだことで、食材をより深く、広い視野で見ることができるようになったと思います」。
研究と勉強に没頭し、その成果を北海道の食材を使った料理レシピの開発や商品の企画に応用させる中で、小畑さんの中に、「フードプロデューサーとしてのモデルになりたい」という気持ちが芽生えた。

「食材を使ってレシピを考えたり、商品を作ることではできても、プロモーションから営業、販路まで、すべてにわたって対応できる人材が北海道には育っていません。裏を返せば、北海道ではそれで食べていけないということです。だったら、自分がそのモデルになりたいと思ったのです」。
それは、若くして会社を興し、経営感覚があり、あらゆる方面に人脈を持つ小畑さんにふさわしい道だった。
 

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食への好奇心と情熱は人一倍。(上)は北見の木工場に特注した木製バターチャーン(手回しバター製造機)

 

「白花豆スイーツ」のコーディネートで地域を活性化

昨今、農商工連携や地域資源を生かした商品づくりへの関心が高まっているが、小畑さんには全道各地から新商品の企画や開発についてのアドバイスやプロデュースの依頼が舞い込んでいる。
昨年、北見市内の12の菓子業者が特産の「白花豆」を素材として開発に取り組んだ「きたみスイーツ」のコーディネートもそのひとつだ。

「白花豆は本州では高く評価されていますが、スイーツの素材にはあまり使われていませんでした。豆だけでなく、花の色も白く、イメージの良い素材なので、それを使って各店舗に開発に取り組んでもらいました」。
開発にあたっては、白花豆の栽培現場の見学も行い、「きたみスイーツ」としての統一感を出すためのコンセプトの検討と商品の試作には多くの時間をかけた。

こうして、各店舗が精力的に開発に取り組んだ12種類の白花豆スイーツは、昨年の「きたみ菓子まつり」でお披露目され、開店と同時に売り切れてしまうほどの反響を呼んだ。
開発の過程では、開発方針や意思統一など、生みの苦しみもあったというが、若手の菓子職人を中心に勉強会を開く動きも出てきたといい、小畑さんのプロデュースが地域に活力を与えた。

「道産食材の品質は確かに良いですが、ただ「北海道産」というだけで売れる時代は終わりました。誰をターゲットに、どこで、どう売るのか、販路を視野に入れて商品開発を進める必要があります。パッケージのデザインも非常に重要です。食材の生産、商品の製造、販路まで、持ち得る知識や人脈を生かして、トータルにプロデュースしたい」。
この想いを胸に、フードプロデューサーとして全道各地を飛び回り、中小機構では食産業支援のチーフアドバイザーも務めるなど、多忙な毎日を送っている。
 

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小畑さんがコーディネートした「白花豆」のスイーツは、大きな反響を呼んだ

 

“ささやかだけど幸せな時間” を 仲間とともに

今夏、小畑さんはフードプロデューサーとして新たな事業に乗り出した。
女性ばかり3人で、食のプロデュース会社「(株)カルナ」を立ち上げたのだ。
女性の感性や価値観を大切にしながら、優れた道産食材を自ら選び、研究し、商品の企画・開発から販売までを手がける会社だ。

「食べることは楽しいことです。おいしく、安全な食べものが食卓にのぼり、人が集って会話を楽しむ。そんな、ささやかだけど幸せな時間を仲間と一緒に作りたいと思ったのです。メンバーはみな40代の元気な女性たちです」。

この会社が今、開発を進めているのは、北海道産のトラ豆と金時豆を素材とする飲用酢だ。いずれも血圧降下作用などがあるGABAの含有量が多く、これを素材に作った酢は、飲料用でも、調理用でも有用だという。

「商品化はもう目前ですが、酢を作った後に多くの残渣が出てしまうので、この残渣の有効活用を考えているところです。どんな食品を作る場合でも、リサイクルの視点は大切です」。それは、小畑さんの食材に対する愛情の表れでもあるのだろう。
女性ならではの感性で、この商品が今後どう進化し、どういう形で店頭に並ぶのか、今から楽しみだ。
 

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商品化が待たれる「トラ豆酢」。(株)カルナの第一号商品として期待が大きい
 

「北海道は優れた食材の宝庫です。しかし、それに胡坐をかいていたのでは発展が望めません。『美味しい』というのは、もはや当たり前。いくら良い商品でも、安くても、顧客ターゲットが間違っていれば売れないし、デザインが悪い商品は売れません。そのためには、農業者も商業者の感覚を持つ必要があるし、デザイナーの協力も不可欠です。プロデューサーとして、売れる商品をどんどん生み出したいですね」と語る小畑さん。
インタビューの最後まで、そのパワーが落ちることはなかった。

 

BGM:渡辺崇(Junkan Production)

 

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株式会社カルナ 代表取締役 小畑友理香
札幌市中央区南3条西9丁目 オギサカ南3条ビル801
TEL(011)207-0388
http://www.fp-carna.co.jp

取材・文  佐藤栄一