Savon de Siesta 附柴 彩子さん
朝のオンと夜のオフ。肌に泡をのせた瞬間に暮らしのスイッチが切り替わる。
手作り石けんが持つ力を誰よりも強く信じる附柴彩子さんが
オンラインショップ「Savon de Siesta」を立ち上げ、2009年で4年目。
1月から“自分自身の店舗”として「Siesta Labo.」をオープンし、
石けん作りだけにとどまらない新たな一歩を踏み出した。
大学院の実験とお菓子と石けんの共通項
「肌にやさしい」だけのものなら他にもある。星の数ほどあるオンラインショップの中から「Savon de Siesta」の手作り石けんを“買い物かご”に持って行く女性たちが後を絶たないのはどうして? その答えを作り手である附柴彩子さんのお話から探ってみよう。
小柄でふんわりとした空気をまとう附柴さんだが、実は生粋の理系出身。初めて石けん作りに挑戦した2002年当時は、北海道大学の大学院で後のご主人となる附柴裕之さんと共に高機能ジェルの研究を進めていた。趣味のお菓子づくりの本を探していたら偶然目にした手作り石けんの本。異なる成分から新しいものを作る工程は、実験もお菓子も石けんもみな同じ。「化学変化の過程を楽しむ」というおなじみの魅力にはまっていった。
折しも2001年から化粧品業界の全成分表示が始まった。既製の基礎化粧品で肌トラブルが起きた経験から「もっとシンプルな成分で肌にやさしいものを作れたら」という思いもあった。「体の芯にすっと入ってきた」石けん作りを将来の仕事にする。附柴さんの中に大きな目標が生まれた。
「Savon de Siesta」の石けんはどれも合成添加物、合成着色料を使わない。天然の植物性オイルと水酸化ナトリウム混合の“石けん素地”をベースに作っていく
寄り道だった就職が後の開業を後押し
目標ができた一方で、大学院にまで進んだ理系研究者の就職という現実が迫ってくる。2003年、迷った末に製薬会社へ就職。京都勤務となり、朝早く夜遅い多忙な新入社員時代が始まった。
製薬会社の新人がまず最初に覚えることといえば、薬事法。「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」「医療器具」に関する品質や有効性、安全性に関する細々とした規定を覚えていく。後に附柴さんが趣味の生活雑貨と一線を画する「化粧品」としての石けん作りを実現できたのも、この時習得した「薬事法」の知識があればこそ。同時に会社員を経験することで「Savon de Siesta」のコンセプトも見えてきた。
「どんなに疲れて帰ってきた時でも石けんを泡立てて肌にのせた瞬間に“ああ、ここからはオフの私”と気持ちを切り替えることができました。お客様にもそんな石けんを使う時間ごとお届けしたい、肌にやさしく『ココロがホッとする手作り石鹸』を目指そうと心が決まりました」。
そして2005年に退職後、北海道に戻り裕之さんと結婚。年末には薬事法認可を取得し、札幌発のオンラインショップ「Savon de Siesta」を立ち上げた。
理学修士とAEAJ認定アロマアドバイザーの資格を持つ附柴さん。「Siesta」はスペイン語で「お昼寝」の意味
石っけんで表現する北海道の季節、感謝の心
サイトオープン以来、地元の新聞で紹介されたり全国誌の取材を受けたりとメディアに登場するたびに注目度が上がった。売上も右肩上がりが続く目覚ましい成長ぶりは、本人も驚くほど。流行に敏感な女性客の心をつなぎとめるカギは、附柴さんの企画力にある。上質なオリーブオイルを使った「マルセイユシリーズ」に始まった定番商品は、現在11種類。「大好きな北海道にいるから石けん作りをしていると思う」という言葉どおり、十勝産の「アズキ石鹸」や下川町の白樺水を使った「しっとり素肌!白樺石鹸」など道産素材にこだわった商品にも固定ファンがついている。
季節や展示会ごとの限定石けんにはさらに思い入れも深い。ドライブで見かけた北海道の風景や展示会に誘ってくれたショップスタッフの笑顔、附柴さんの“心を潤してくれるもの”を石けんを使って表現する。「ちょっと落ち込んでいた時に気持ちをほぐしてくれた」ミュージシャン「ううじん」の音楽もその一つだ。
「人間はストレスがたまると呼吸が浅くなり、リラックスすると深くて長い呼吸に戻ります。やさしい気持ちにさせてくれたううじんさんのアルバムを聞いて、リラックス効果のあるフランキンセンス(乳香)で香りづけした石けんを作りました」。2008年には開業3周年の感謝を込めて、なんと東京からううじんを招いたライブイベントも行った。会場に置いたアルバムと石けんの限定セットはたちまちソールドアウトになったという。
写真一番上の紙石鹸「初雪」(札幌スタイル認証)をはじめ贈り物にも最適。夫が経営する株式会社GEL-Design(ジェル・デザイン)とパートナーシップを結び、同社のSavon de Siesta事業部で製造・販売を管理する
北海道の作家を紹介する直営店もオープン
石けんを介して思いの丈を表現する附柴さんは、2009年に新たな一歩を踏み出した。1月から“自分自身の店”として「Siesta Labo.」をオープン。オンラインから対面販売へ。店頭で吸収する顧客の声を商品づくりに活かしていく。
店が入っているビルもユニークだ。築30年のマンションに洋服や雑貨、陶器、真鍮細工など個性的なオーナーズショップが集合する。取材後に各店を案内しながら、「私、このショップが集まっている『Space1-15』の広報も担当しているんです」と話してくれた。今後は、石けん作りと同じくらい、北海道の作家を紹介することにも力を入れていきたい。暮らしに取り入れたくなる素敵なもの作りを紹介する場、それが「Siesta Labo.」でもあるという。
9月には手作りアクセサリー「ufu」にスポットを当てた企画展も計画中だ。なるほど、「肌にやさしい」だけではない。附柴さんが生み出すふわふわとした泡は、私たちの心も包み込んでいくようだ。
「Siesta Labo.」の店内にあるシンクは「石けんを実際に試してもらいたい」こだわりから。写真中央の花はフラワーショップ「YOSHIE MAKOTO」にお任せで依頼。この日は西洋あじさいと一緒にホップが。「ホップは北海道に自生する植物。いつかホップを使った石けんも作ってみたいです」
BGM:渡辺崇(Junkan Production)
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■Savon de Siesta http://www.at-siesta.com/
ショップ「Siesta Labo.」:http://siestalabo.com/
札幌市中央区南1条西15丁目1-319 シャトールヴェール306
TEL 011-215-5288
営業日時 毎週木曜〜土曜 13:00〜18:00
※入り口はオートロックなのでインターホンを鳴らしてください。
取材・文 佐藤優子
blog「耳にバナナが」 http://mimibana.exblog.jp/