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(株)Will-E 根本英希さん

株式会社Will-E。
社名に込めた想いは “志ある技術の提供” だ。
代表の根本英希さん(45)を訪ね、確かな技術力とアイデアで、顧客の「あったらいいなぁ〜」をかたちにする“ものづくりベンチャー”の横顔に迫った。

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ものづくりベンチャーの起業

根本さんは北見市出身。北見工業大学で機械工学を専攻し、卒業後はいすゞ自動車(株)に就職した。
エンジンに強い関心をもっていた根本さんは、神奈川県藤沢市の工場で約10年間、ディーゼルエンジンの設計・開発等を担当し、その後、同社が北海道に設置した部門でデジタルエンジニアリング関連の技術開発に従事した。
「コンピューターを使って性能試験や耐久試験をシミュレーションする仕事が主でしたが、自動車の商品開発プロセスをデジタル化する技術開発に伴い、設計を理解している人間が必要であるということで私が異動することになりました」。

ものづくりのプロセスを熟知していることは根本さんの大きな強み。
経験に裏打ちされた知識と技術力、そして、ものづくりに対する強い想いが、やがて根本さんをものづくりベンチャー企業・Will-Eの設立へと導いた。
「私が学生の頃、冬にみんなが使っている“ママさんダンプ”を作っていたのは北海道の会社ではなく、新潟の会社でした。このことにとても違和感を持ったのです。自分たちの生活用具は自分たちで作るべきだろうと。仲間たちとのそんな話がWill-E設立の原点です」。
こうして、2003年7月、根本さんは独立を決意し、人々の「あったらいいなぁ〜」をかたちにする“ものづくりベンチャー”Will-Eが誕生。同時に、ICCのサブ・インキュベーションルームに入居した。

 


福祉用具事業とものづくり支援事業を展開

会社設立にあたって想定した事業は、「福祉用具事業」と「ものづくり支援事業」の2つ。
どちらの事業も大量生産型ではなく、個々の顧客にあわせたオンリーワン商品の開発・提供にこだわっているのが共通点だ。
「福祉の分野では、車椅子などの移動用具にまだ研究・開発の余地がたくさんあると感じていましたし、ユーザーからのオーダーメイドで福祉用具の製造や改造などができないかと考えました」。

福祉に関する知識を身につけようと、介護ヘルパーの研修を受け、福祉の現場を経験した根本さんは、2003年12月、北海道庁の産消協働事業に提案した車椅子の清掃事業が採択され、事業化に向けたトライアルとして、約50施設、368台の車椅子の清掃を行った。
「利用者にとって車椅子とは靴みたいな存在です。当然、ひどく汚れたり損傷したりするのですが、メンテナンスがあまり行き届いていない点に着目して提案しました。キレイになった車椅子を見ると、皆さんすごく感激し、泣いて喜ぶお年寄りもいました」。
コスト面等から実際の事業化には至らなかったものの、公的な支援を受けながら祉用具事業を一歩前に進めることができた。
その後自社でパテントを保有していた「全方位移動可能車輪」を活用した商品開発に取り組むなど、技術力を生かしつつ、実績を残している。

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Will-Eがパテントをもつ「全方位移動可能車輪



Will-Eの本領が光るものづくり支援事業

一方の「ものづくり支援事業」は、「自分が培ってきた技術を使って、地域のニーズに対応する商品を作りたい」と考えている根本さんにとって、特に思い入れの強い事業。「こんなものを作れないか」、「こんなものが欲しい」というニーズを持つ企業とともに、オンリーワン商品の開発を精力的に行っている。
その代表的な商品が、江別市の草野作工(株)、札幌の(株)プラウシップ北海道立工業試験場と共同開発した下水道管維持補修工事用の「穿孔ロボット」だ。

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現場のニーズをもとに開発された下水道管維持補修工事用の「穿孔ロボット」


コンクリート造の下水道本管は耐用年数が50年。耐用年数を超えたものは掘り返して埋めなおす必要があるが、コストがかかるため、古い管の中に樹脂を注入して一括補修する工法も採用されている。この工法の場合、本管から各戸につながる枝管の穴も塞いでしまうので、補修後に枝管の位置を特定して本管側から穴を開け直す必要があるが、位置決めが難しく、感に頼って穴を空けているのが現状だ。開発した「穿孔ロボット」は、各戸の汚水桝から枝管に進入し、正確に穿孔できる点が最大のセールスポイントで、補修工事に要する時間とコストを大幅に短縮できる。
下水管補修工事現場からの「あったらいいなぁ」に応えた典型的な事例だ。
4月には、この穿孔ロボットの機能を絞り込んだ仮穴穿孔機「Borer」を商品化し、展示会などにも積極的に出展している。
「ニッチな商品なので、ビジネスラインに乗せるのが大変」と苦笑いする根本さんだが、しっかりしたニーズをもとに開発された商品だけに、今後、反響が期待されるところだ。

 


精力的に拡張した産・学とのネットワーク

他の企業や大学と積極的に連携し、ネットワークを広げている点もWill-Eの特徴だ。
2004年には北海道中小企業家同友会産学官連携研究会「HoPE」に参加し、そこでは、ものづくりに熱き情熱を燃やす企業家たちとの出会いがあり、翌年には、そうしたメンバーと共同で「北のブランドものづくり工房」を標榜する新会社(株)プラウシップを立ち上げた。
「自分と同じようにものづくりが好きで、勉強熱心な経営者たちと出会うことができて嬉しかったですね。年齢では先輩にあたる方が多いのですが、志を同じくする人たちと一緒に、今後も北海道発の商品を創り出していきたいですね」。
プラウシップは産学官連携と企業連携を基本とし、参加メンバーが得意分野を活かしながら、大企業が取り組まない小ロット製品の開発、中小企業単独では取り組めない製品の開発を実践する会社で、これまでにWill-Eは、雪の結晶型の紙せっけん「ユキハナ物語」の商品形状製作や、野菜乾燥機「ドライアップ チャンバー」の設計などを担当した。

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楽しそうにものづくりの話をする根本さん。ものづくりは根本さんの天職だ


「いま、何かを欲しがっている人がいたとして、それを生産できる会社があったとしても、製作工程がわかっていて、設計図がなければものを作ることはできません。しかし、Will-Eは設計ができ、製造指示を出すことができます。こう考えるとWill-Eは、やれる能力をもった人たちの間を埋め、つながってもらう能力の方が長けているのかも知れません」。
企業、大学、研究機関などとのネットワークはさらに拡張しそうだ。

 


ICC「ものづくり工房」の運営に着手


ICCの1Fには、木工や金工などに対応できる機能を持った「ものづくり工房」が開設されており、Will-Eは現在、この工房の運営をサポートしている。
一昨年にはここを拠点に、市内の学生たちとともに、新たな発想で「屋台」のデザインと製作を行い、大いに盛り上がった。
「学生たちがここに集まって、夜中までわいわいと、木くずまみれになって作りました。この時の彼ら、彼女らのエネルギーはすさまじく、何か新しいことが生まれそうなワクワク感がありました。ものづくり工房を、そんな素晴らしい場に成長させていきたいです」。

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Will-EはICC 「ものづくり工房」の運営をサポート中。ここを拠点に、どんな新しい商品が生まれるのか、要注目だ


ものづくり工房で、Will-Eが目下取り組んでいるのが、「サンダス」という三輪車のリメイクだ。
「サンダス」は車椅子と自転車の中間的な乗り物で、バリアフリー研究会の小原氏がシニアのスローライフ用の乗り物として考案したものだが、デザインと機能の両面から見直し、より素敵で、誰もが乗りたくなる三輪車にすべく、研究・開発が行われている。
類似の商品は大手自転車メーカーなども製造・販売しているが、サイズが大きいなどの課題があるという。
「大手はマスを狙った商品づくりをしますが、「サンダス」は数十人に買ってもらえれば良い商品。ユーザー志向で、いかに快適に乗ってもらえる商品に仕上げられるか、私自身も楽しみです。技術的な課題もありますが、それを乗り越えるのもまた楽しいことです」。
「サンダス」は今年度中の製品化をめざしており、どんな素敵な三輪車がお目見えするのか、今から楽しみだ。

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現在開発中の三輪車「サンダス」。シニアのスローライフを豊かにする乗り物の誕生が楽しみ

 
 

奇跡の連続、そしてこれから

起業から7年目に入った今、過去を振り返るとこの6年間は奇跡の連続だったという。
「学生時代の友人との出会い、ICCに入居できたこと、事業のスタート、人との出会いなど、今思えば本当に奇跡的なことの連続でした。到底不可能と思われたことが可能になったり、良いパートナーに恵まれたり。商品化、事業化には困難がつきものですが、これまでの奇跡に報いるためにも、ビジネスを見据えて取り組んでいきたいと思います」。

ICCに入居するクリエイターとのコラボレーションや、道内と道外の産業との連携などを手がけていきたいという根本さん。
次はどんな新しいものを作り、私たちに見せてくれるのか、次回作が楽しみだ。

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社名のとおり、志ある技術を提供する企業として、期待が大きい

 


BGM:渡辺崇(Junkan Production)

 

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■株式会社 Will-E 
札幌市豊平区豊平1条12丁目1番12号
札幌市デジタル創造プラザ内
TEL (011)817-0380/FAX(011)817-0381
http://www.will-e.com


取材・文 佐藤栄一