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フローリスト 若林秀彦さん(フルール若林)

お祝い、励まし、感謝、思い出…人生のさまざまな場面で
贈り贈られる花々をもっともふさわしい形に演出するのが、
「フローリスト」というクリエイターだ。
若林秀彦さんの手から生まれるフラワーアレンジは
空間と曲線が織りなす優美な世界。
花のある人生がこんなにも幸せなものかと気づかせてくれる。

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「花はギフト」の転機に家業を継いだ三代目

1993(平成5)年、JR札幌駅前の一等地に店を構える老舗生花店が新たな店名を掲げた。「若林生花店」から「フルール若林」へ。時代は平成に入り、日本人の生活様式も変わった。マンション暮らしでは花を飾る床の間がなくなり、供花する仏壇も徐々に姿を消しつつあった。花は「ギフト」になっていった。

当時23歳の若林秀彦さんが店名も新たになった家業に就いた時期は、そんな時代に対応していく生花店の過渡期だったといえるだろう。高校を卒業後、家を手伝いながらフラワーアレンジの学校で基礎を学んだ。
修行のため東京の大手生花店に通い始めて1年半後、「父、倒れる」の知らせで帰郷。幸い病状は大事に至らなかったが、祖父、父と続いた代替わりの流れはできていた。2005(平成17)年に代表取締役に就任。ギフト中心の店づくりを進める「フルール若林」三代目が誕生した。

選ばれる店になるためにはアレンジの腕を磨かなければ。その試金石として数々の技能コンテストに出場した。道内大会の優勝も経験し、社団法人日本生花通信配達協会(JFTD)が主催するジャパン・カップでは北海道代表に三度も選抜された実績を持つ。日々の注文とコンテストのキャリアでフローリスト若林秀彦のファンを確実に増やしていった。

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創業は1935(昭和10)年、新潟県の花農家だった祖父が行商先の札幌に店を構えたのがはじまり

 

流行をふまえて空間と曲線の美を創作

取材当日、ちょうど大量のアレンジを作る仕事があったため「いくつかやりましょうか」と若林さん。道産花を使った切花品評会(※7月で終了)に向けて、贈る設定別に10パターンの作品をつくるという。

まずは「女性の誕生日に贈る」設定から取りかかってもらった。店内を一回りして選んだ花材はやさしいピンク系。ヨーロッパ産のハイドラジア(西洋あじさい)やカーネーション、バラのノーブレスを丸いフォルムに仕上げていく。
「一昔前まではステム(茎)が長い大きめなブーケが主流でしたが、今はコンパクトなラウンドスタイルが人気です」。写真では見えないが花を引き立てるグリーンには丸く大きな葉のゲイラックスとギザギザした葉姿がユニークなポリシャスを使用。1つのアレンジの中でコントラストを演出している。

そして仕上げには、“空間と曲線の達人”若林さんが好んで使うほっそりと伸びたミスカンサスが登場。アレンジの名脇役を使って印象的な緑のアーチをかけていく。完成前後の写真を見比べてみると、作品全体にリズムと立体感が生まれたことがよくわかる。

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「女性の誕生日プレゼントに」(参考価格3500円)。「このまま持ち帰ってしまいたい…」と取材陣からもため息がこぼれた

 

花の名産地・北海道、活性化の鍵は情報共有

お次は「開店祝い」をイメージして。天狗のうちわのような大きな葉は観葉植物のモンステラ。夏らしいヒマワリの一種、サンリッチオレンジを使う。
「この小さいヒマワリは砂川の生産者長岡良治さんが特許栽培をしています。当麻町や新篠津村にもいい花を作っている花農家さんはたくさんいて、実は北海道は花の名産地なんです」と語る。

意欲的な花農家は次々と市場に最新品種を送り出し、生花店も食指が動くものがあれば果敢に買い付ける。その逆に茎が曲がったアルストロメリアなど農家側が「これは規格外だから」と市場に出さないものが個性的なアレンジ制作に使いたい場合もあるという。
作り手と使い手が情報を共有し距離を縮めていけば北海道の花市場はもっと元気になる。そう若林さんは期待する。

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「開店祝い」(参考価格7000円)。重なるモンステラの間にはぜいたくにも白いトルコ桔梗がふんだんに。「のぞいてもらったときに楽しんでもらえれば」(笑)と若林さん

 

花が高めるクリエイター同士の創作意欲

アレンジの手を動かしながら取材に応じてくれた若林さん。一つの作品にかかる制作時間はわずか15分程度。「自分はつくりながら方向性を決めていくタイプ」という言葉が信じられないほど動作に迷いがなく、出来た作品はどれも美しい。

「こうすればキレイに見えるだろうという勘どころは、経験を積めば誰でもわかるようになります。最近同業の仲間ともよく話すのは、花と関係のない分野に関心や特技を持つことが大事なのではないかと。自分なら例えばインテリアや建築デザインの雑誌を見たりいつもいろんなことに興味を持つようにしています」

当別町に住む気鋭のイラストレーター佐藤久美子さんは去年の個展祝いに贈られた花を見て以来、すっかり若林ファンになった一人だ。「特別なにがあったワケでもなしに、自分の為に」依頼したアレンジを今度は佐藤さんが絵に描いたりして互いに創作意欲を刺激しあっている。「いつか一緒におもしろいことができたら」とコラボレーション企画に夢を膨らませる2人。その夢の実現を私たちも心待ちにしている。

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写真左上からヒメリンゴを使った「ディスプレイ」、横長のフォルムが斬新な「供花」(共に参考価格4000円)。若林さんが理事を務める北海道生花商協同組合では9月2日・3日に50周年イベント「花・愛でる心 Happy Life Happy Flower」をJR札幌駅西コンコースで開催。誕生から死を迎えるまで人生を彩る花の楽しみ方を見せてくれる 



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■フルール若林  http://www.fleurwaka.com/
札幌市中央区北4条西5丁目三井生命札幌共同ビル1F
TEL 0120-206-878
営業時間9:00〜19:00(土・祭日18:00) 日曜休み

取材・文 佐藤優子 
blog「耳にバナナが」 http://mimibana.exblog.jp/