現在位置の階層

  1. トップ
  2. ニュース
  3. アーカイブ
  4. Feature
  5. フォトグラファー    藤倉  翼さん (写真事務所 Air bags)

アーカイブ

フォトグラファー    藤倉  翼さん (写真事務所 Air bags)

普段は人を取材し、人を撮る側にいる写真家にインタビューし、紹介してみたい。 そんなリクエストに応えてくれたのは、札幌で活躍する31歳のフォトグラファー・藤倉翼さん(写真事務所 Air bags)。 「取材はここで」と紹介された珈琲店で対面したのは、独創性あふれる魅力的な写真家だった。

fuji_1.jpg


子どもの頃から決まっていた? 写真家への道

藤倉さんの父は、プロのカメラマン。カメラや写真が身近にある環境で育った藤倉さんが写真の世界に関心をもつのは極めて自然なことだった。
「子どもの頃からメカが好きで、興味を持ったのは写真よりもむしろカメラのほうでした。小学生の時、放課後に校庭で友人の写真を撮っては喜ばれていました。計算も何もなく、ただ純粋な気持ちで撮っていたこの頃の作品が今でも最高傑作だと思っています」。
小学校の卒業アルバムにも、「将来は写真家になる」と書いた。
高校卒業後、一時は写真から離れた時期もあったが、やはり、選んだのは写真家の道だった。
23歳になった藤倉さんは、数年後にプロのカメラマンとして独立することを心に決め、「写真の世界を広げたい」との想いから、札幌の路上で作品の展示・販売を始めた。
「田舎の風景を映したモノクロ写真などを路上で売っていました。見知らぬ通りがかりの人が写真をみてくれて、会話を楽しんだり、路上はとても面白い場でした」。
しかし、やがて、その“路上”に対しても閉塞感を感じるようになった。
「たしかに面白い世界ではあったのですが、そこも結局は“路上ワールド”でしかないことに気づいて、別れを告げることにしたのです」。
一つのところに留まらず、新たな可能性を求め続ける姿勢は、今も変わらない。
こうした経験を経て26歳になった藤倉さんは、プロのカメラマンとして独立を果たす。
独立後は、人物、店舗、料理、商品など、幅広いジャンルの写真を手がけ、仕事を通じて知り合った人との縁を大切にしながら、仕事の幅を広げている。

fuji_2.jpg
作品の“引き出し”の広さには圧倒されるばかりだ


独自の着想と着眼点が創作の幅を広げる

エスクァイア日本版デジタル写真賞’04-‘05でアート・オブ・スティル ライフ部門賞を受賞した「観覧車」の写真は、藤倉さんの作品の幅を広げることにつながった代表作だ。
仕事で池田町の「ワイン城」を訪れた藤倉さんは、エレベーターホールの中から見た風景に釘付けになり、シャッターを押した。
この受賞は、それまでモノクロ写真にこだわり、モノクロこそが作品だという思いの強かった藤倉さんにとって、自身のカラー写真に対する評価を大きく変え、写真の世界を広げるきっかけになった。

fuji_3.jpg
「エスクァイア日本版デジタル写真賞」でアワードを受賞した観覧車の写真


2005年に室蘭港で撮影した世界最大級の客船の写真も、自らのレベルアップにつながった思い出深い作品だ。
客船が入港すると聞いて室蘭に向かった藤倉さん。白鳥大橋の下を優雅にくぐり抜ける大きな客船の姿を見た瞬間、胸が躍った。
「港に停泊した客船は、まるで巨大なビルディングのようでした。船体の白と救命ボートのオレンジのコントラストがとても綺麗だったのが印象に残っています。船の写真ではあるのですが、じつはそこに写っている人々を映した写真なのです」。
たしかに、巨大な船体を背景に、たくさんの人々が様々な表情で映っている。これを人物写真だと思えば、不思議と別の見方ができるのだ。
強烈な印象を放つこの写真は、札幌のファションビル「PIVOT(ピヴォ)」の夏キャンペーン用の写真として採用された。
「仕事用に撮った写真ではないのですが、自分でもとくに気に入っている写真がキャンペーンに採用されて、とても嬉しかった」と藤倉さん。独自の着想と着眼点が、広告主の心をも打ったのだ。

fuji_4.jpg
この巨大な客船の写真も、藤倉さんには人物写真と映る


ポートレートへの強い思い入れ

藤倉さんは、写真を「感情の交錯を切り取る器」ととらえ、それを自身の作品に対する大きなテーマにしている。
「ポートレート」の撮影に深い思い入れをもっているのも、このテーマを大切にしているからだ。
藤倉さんにとって「ポートレート」とは、人物を被写体にしたものに限らない。
「ヒトやモノといったジャンルを超えたポートレートを撮りたい、ポートレートの意味を突き詰めてみたいという気持ちがあります。ポートレートは奥の深いものなので、1ミリでも本質に近づきたい」という。
藤倉さんが考える「ポートレート」を具現化したものの1つが、最近撮り貯めている「ネオン」の写真だ。
夜にススキノの風景を撮った際、目で見ている風景と写真とが大きく異なり、ネオンがその原因だと知って興味をもったのだという。
「ネオンは一つひとつ手づくりするので、すべて表情が違います。ネオン管の這わせ方にもバリエーションがあってとても面白いのです。ネオンは広告なので、時代とともに変わっていく面白さもあります」。
馴染みのある店舗や企業のネオンの写真は、見る側を楽しませてくれ、自然と会話も弾む。
こうした被写体に対する着眼点のユニークさは藤倉さんの持ち味であり、自ら“Tsubasaワールド”と呼ぶ独自の世界を創っている。

fuji_5.jpg
藤倉さんにとっては、ネオンもポートレートの対象になる


愛用している「8×10(エイトバイテン)」の大型カメラも、“Tsubasaワールド”を創るうえで、大きな意味を持っている。
このカメラで撮った写真を見たとき、それまでの迷いや悩みが一気に吹き飛んだという。
「8×10はとてもシンプルな構造のカメラです。これで飾られていないモノや自分が心を許している人を撮りたいと思いました」。
愛用の「8×10」で親しい友人を撮影したモノクロのポートレートを見せてもらったが、人物が飛び出てくるような立体感ある写真は、藤倉さんの云う「飾られていない写真」そのものではないかと思わせてくれる。
きっとこれからも、「ジャンルを超えたポートレート」を撮り続け、子どもの頃に撮った理想の写真に迫る作品を見せてくれるに違いない。 

fuji6.jpg
愛用の8×10で撮影する藤倉さん。これで「飾られていない写真」を撮る

新たな“Tsubasaワールド”へ

現在31歳、独立して6年を迎える藤倉さん。
最後に、これまでの写真家生活を振り返り、今後の目標を聞いてみた。
「40歳前後には、東京の写真ギャラリーにデビューしたいですね。昨年、東京でのワークショップに参加し、そこで満足の行く写真が撮れたので、最後の作品評価の際に一生懸命プレゼンしたのですが、審査員の反応はつれないものでした。がっかりしましたが、いつか東京に” ギャフン”と言わせてやろうという気になりました。そのためには、作品の精度を上げなくてはならないし、人間性のボトムアップも必要だと思っています」。
31歳のいま、やっと写真の入口に立った思いだという藤倉さん。
愛車は1970年代の古いセリカ。珈琲好きが講じて自ら焙煎までするという好奇心旺盛でユニークなパーソナリティも大きな魅力だ。
独自の着眼点と全身から溢れ出るエネルギーで、私たちの心を打つ写真を撮り続け、新たな“Tsubasaワールド”を切り拓いてほしい。

fujiweb.jpg
Webサイトでは魅力的な作品の一部を紹介している

 -メッセージ

---------------------------------------------------------------------

■フォトグラファー  藤倉 翼(写真事務所 Air bags)
Web SITE http://www.airbags.jp/photo/

取材・文 佐藤栄一