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Atelier BIKKY  砂澤 陣さん

来る3月6日から8日までの3日間、ICCを会場に、砂澤ビッキ回想展『縁樹』(えんじゅ)が開催される。
数多くの独創的な作品を生み、見る者を魅了する彫刻家・砂澤ビッキの長男であり、この回想展の主催者である砂澤陣氏(Atelier BIKKY)に、回想展の目的や内容について聞いた。

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今なお人々の心の中で生き続ける砂澤ビッキ

砂澤ビッキ回想展『縁樹』(えんじゅ)は、彼の没後20年の節目に、砂澤陣さんを代表とする実行委員会の手によって開催される。
「親父と交流のあった作家や漫画家の先生をお訪ねした時、没後20年経ってもまだ、多くの人の心の中で砂澤ビッキが生き続けていることを知りました。その際、色々な方から、『みんなの中に生きているビッキのことを、どこかできちんとした形でまとめられないか?』という話をいただき、私も46歳になって、今なら少しは親父と向き合えるかなと思いまして」と砂澤さん。
そして何より、「砂澤ビッキという人間の生き様とその作品に込めた想いを正しく伝えられるのは、息子である自分にしかできない」という強い自負が砂澤さんの中にあった。
こうして、未だ多くの人の中に生き続ける砂澤ビッキと今一度出会う場所を作ろうとの思いから、回想展の開催が決まった。
テーマの『縁樹』(えんじゅ)は、「父・ビッキを支えてくれた多くの方に感謝の気持ちを表しつつ、この回想展を通じて、新たな「縁」をたくさん作り、次の世代に継承したい」という砂澤さんの想いを表現したものだという。
今回の回想展は、砂澤ビッキの足跡を辿りながら、新たな人の出会いや縁を紡いでいく、そんな機会となりそうだ。

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砂澤ビッキ回想展『縁樹』(えんじゅ)の主催者  砂澤 陣さ


作品を見て、触って、感じてほしい

「親父はいつも、見る人に『触ってもらいたい』、『動かしてもらいたい』、『参加してもらいたい』と思いながら作品を作っていました。今回の回想展も、来てくれた人が作品に触れられるよう、敷居の高い展示ではなく、こちらから歩み寄っていくような展示スタイルにします。この回想展を子どもが見て喜んでくれたり、あまり芸術に関心ない人が興味をもってくれたり、プロのアーチストと交流できたり、世代やジャンルを飛び越えて、様々な縁が生まれてほしいと思っています」。
特に砂澤さんは、「砂澤ビッキを知らない人が、彼の作品を見てどう感じるか?」という点を大事にしているという。
「ビッキは一人の作家として、作品に対する純粋な評価を受けたがっていました。今回の回想展ではアイヌというエスニックな部分は前面に出さず、先入観がない状態で作品を評価してもらえるようにしたいと考えています」。
国際的にも評価の高い砂澤ビッキの作品が、彼の背景を知らない来場者の目にどう映るのか、その反応が楽しみだ。

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砂澤 陣さんが開設・運営している「砂澤ビッキ公式ホームページ」
http://www.bikky-sunazawa.com/

 

来場者が参加できるメニューも

「今回の回想展では、砂澤ビッキの彫刻、写真、絵画、知人に宛てた手紙など、彼の作品やゆかりの品々を展示するほか、ビッキが出演したテレビ番組の映像も上映します。ぜひ、ビッキを知らない人たちにも来ていただいて、作品に触れ、感じてもらいたいと思っています」。
このほか、来場者が体験できるメニューも用意されている。
来場者にビッキの代表作「樹華」(じゅか)の複製品の製作を体験してもらおうという企画だ。「樹華」は、ヤナギの木を大胆に使い、独創性が際立ったビッキの代表作の一つ。今回は、予め用意されたヤナギの木を来場者に挿してもらうことで、"新しい樹華"を来場者とともに作り上げていくという。
さらに、来場者にビッキの作品を見た感想を絵で表現してもらうことも企画されており、これには小学生などの参加を期待している。ここで描かれた絵は、回想展の次の開催地である旭川での展示の際に使用する予定だ。ビッキの作品から何を感じ、どう表現していくのか、ぜひ注目したい。

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鎌倉会場での「樹華」(じゅか)制作風景

アーチストや芸術理解の起爆剤に

砂澤ビッキ回想展『縁樹』は、彼が作家として強い影響を受けた鎌倉での開催を皮切りに、今回の札幌のほか、小樽、旭川と巡回し、神奈川に戻る予定だ。札幌に先立ち、1月24日から3日間にわたって開催された鎌倉での回想展は、築80年の民家を利用して行われ、一時は来場者が会場に入りきれないほどの盛況だった。
「当時、鎌倉の工房でビッキと一緒に働いていた方々が来てくださって、当時そこで作ったものをお返しくださったり、40数年前、ビッキが経営していた阿寒の民芸品店で買ったという作品を持ってきてくださる方もいて、ビッキの鎌倉時代の人脈の糸口が少し見えてきたことがとても嬉しい」と砂澤さん。
「神奈川で回想展を開く際にはぜひお手伝いをしたい」と名乗り出てくれるクリエイターもおり、文化や芸術に対する理解の深さとそれを支えるコミュニティの存在を実感したという。
「北海道は、この土地や風土に土着したアーチストがあまり育っていないという印象があります。地元のアーチストを発掘したり、育成することに熱心な企業も少数です。砂澤ビッキという北海道を代表する作家の回想展に若いアーチストが携わり、そこからまた新しい芽が出て、アーチストの活動が活性化したり、作品を大事にするといった意識が高まれば、そこから北海道の芸術文化をとりまく環境も少しは良くなるのではないかと思います。今回の回想展が、アーチストの制作活動に刺激を与え、彼らが活動したり発表したりできる場を一緒に作っていくための起爆剤になればと思っています」。

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鎌倉での回想展風景

"ビッキ"の名を受け継ぐ者として

幼少の頃から父の影響を受けて絵や木に慣れ親しみ、ともに作品を製作した経験をもつ砂澤さんは、父・ビッキの名を受け継ぎ、父が生み出した独特の文様の伝承保存に努めている。
さらに、その文様に新たな表現方法を取り入れながら、レリーフ、ペンダント、額縁、着物、縫物などを製作するほか、猟銃店との協力により、銃床の彫刻を施すなど、新たなジャンルにも創作の幅を広げている。
今回の回想展は砂澤さんが主催する初の企画展だが、こうした活動を今後も継続し、次代を担う若い人材に、文化や芸術に携わってもらう機会を定期的に設けていく意向だ。
「私のやっていることはアナログな活動ですが、こうした活動を知ってもらい、興味を持ってもらうきっかけを作るには、画像や映像といったデジタルの持つ意味も大きいと思っています。デジタルを得意とするクリエイターの皆さんにも参加してもらい、一緒になって北海道から発信していければ最高ですね。本気でやればきっとできるはずです」。
"ビッキ"の名を継いだ砂澤さんが、今後、どんな才能と「縁」を結び、どんな新しい何かを見せてくれるのか、要注目だ。
まずは、3月6日からの3日間、ICCに足を運び、砂澤ビッキの足跡に触れてみたい。

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砂澤陣さんの彫刻作品
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■砂澤  陣(Atelier BIKKY)
http://www.bikky-sunazawa.com/

■砂澤ビッキ回想展『縁樹』(えんじゅ)

日 時:3月6日(金)〜3月8日(日)
会 場:札幌市デジタル創造プラザ(インタークロス・クリエイティブ・センター)
札幌市豊平区豊平1条12丁目1-12  TEL(011)817-8911
入場料:無料

取材・文 佐藤栄一