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有限会社fill 写真作家・山田さとみ-人の匂いのある写真が好き

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有限会社fillの代表、写真作家の山田さとみさんは、前職がCA(キャビンアテンダント)というユニークな経歴を持つ。広告写真、雑誌媒体、ブライダル、子ども撮影会など、多彩な分野で活躍し、日常の一コマを形に残すホームカメラマンとしてのファンも多い山田さんを訪ね、写真作家の仕事についてお話を伺った。



有限会社fill 代表 山田さとみさん


華麗なる!?転身

社会人となって就いた最初の職業はCA。バブル時代に、日本各地の空を飛び、東京での生活を謳歌していたが、4年目にして、ふと「これは私の天職ではないなぁ」と感じ始めた。
一方、写真は昔から好きで、高校生の頃にはコンパクトカメラを持ち歩き、学校の行事や、友人と出かけたときに写真を撮っては、皆に配っていた。「喜んでもらえるのが嬉しかった。シャイな性格だったので、写真をあげることが人とのつながりを作るひとつの方法だったのだと思います」。
やがてコンパクトカメラでは満足できなくなり、社会人になってすぐ、キャノンの一眼レフカメラを購入。写真への興味は着々と広がっていった。そんなある日、搭乗してきたお客様の中に、いかにも撮影機材らしきものを手にしたカメラマンを発見。接客しつつも話がはずみ、漠然とあこがれを抱いていたカメラマンの生活を垣間見た。山田さんの頭の中に"カメラマンになりたい"という想いがインプットされたという。
社会人になって4年間の生活をふと振り返ったときに、まるで学園祭の準備で盛り上がる学生のように、いろんな意味で走り続けていた自分に気づく。このままでは価値観までも変わってしまうような気がした山田さんは、「原点に帰ろう」という想いから、札幌へもどることを決意した。
札幌での最初の仕事は、TV番組制作プロダクションのムービーのカメラマンだったが、スチールとムービーの違いを知り退職。その後は、いろいろなアルバイトをする中で、雑誌編集の仕事なども経験した。そしてある日、出席していた友人の結婚式を撮影していた写真館への就職が決まる。念願のプロカメラマンとしての一歩を踏み出し、ブライダル写真を専門に少しずつ腕を磨く毎日だったが、他の分野にも挑戦したいという想いから、1997年、独立してフリーカメラマンとなる。


様々な現場でアシスタントとして腕を磨く日々

フリーカメラマンとして独立した後には、次なる試練が待っていた。ブライダル以外の撮影経験がない山田さんには、「カメラマンなら何でも撮れるだろう」というお客さんから来る仕事の一つ一つにとまどう日々。色々な人に聞いたり、本を読んだりと必死に仕事をこなしていた。その頃、必要な機材を調達するためにプロショップに通い、ウィンドウにぴったりと張りついて見ていた山田さんに、店員さんが声を掛けてきた。「独立したばかりで・・・」と事情を話すと、馴染みのスタジオへ声をかけ、アシスタントの仕事を紹介してくれたという。
「色々なスタジオにお邪魔しました。現場は、アシスタントに仕事を教えるというよりも、見て自分で勉強するのが当たり前というような厳しい雰囲気があって、わからないことがあっても簡単に聞くことはできませんでした。それでも私の場合は、『お前にはできないだろうから』と言いながら、いろいろなノウハウを教えてもらうことができました。師匠がいないということがコンプレックスでもあったのですが、反面、この時期にいろいろな現場を見ることができたことは、貴重な経験だったと思います」。


海外で撮影した写真から、近くの公園で見つけた瞬間を切り取った写真まで。日常のシーンも山田さんの写真でアートに変わる!


事務所をシェアしつつさらに技術を学ぶ

いろいろな人との出会いがきっかけで、プロカメラマンの世界へ、そして独立、現場への参加と着実に歩みを進めてきた山田さん。2001年には、スタジオキャパのフォトグラファー・辻野正人さんと事務所をシェアするという形で、スタジオを持つことになった。
「辻野さんはすごいキャリアのある方なので、同じ事務所で仕事を見せてもらえることは、願ってもない勉強のチャンスでした」。
その後も、山田さんのスタジオは、スペースや建物を他の会社とシェアしながら存在してきた。現在も、ロケーションコーディネート会社やデザイン事務所、カメラマン、撮影スタジオが入居する3階建のビル内にあり、手作りの内装や家具がアーティスティックな空間を作り出している。
「このビルに入居したての頃は、入居者みんなでアマチュアバンドのプロモーション・ビデオを企画して撮影したりもしていました。最近はそれぞれが忙しくてなかなかできないですが、たまに集合がかかって、駐車場でバーベキューをすることはありますね。仕事柄もありますが、皆さん多才で、話をしていても刺激になります」。



白を基調に木のデスクが並ぶ山田さんのオフィス。手作りの内装が心地よい空間を作り出している。


改めて原点を見つめ直し次なるステップへ

2006年2月に有限会社fillとして法人化して、以来、代表取締役としての顔も持つことになった。
「1人でできることには限界があるし、『3人寄れば文殊の知恵』というように、スタッフと協力して新しいオリジナルの仕事を創りたいなと思いました」。
こうした野望を持ちながらも、山田さん自身は、多彩な仕事をこなしてきた。プロカメラマンとしてスタートしてからずっと走り続け、法人化した後は、会社として考えなければいけないことも頭の中をいっぱいにしていた。そして、今また次なるステップに向けて、「原点」を見つめ直している。
「いろいろなことを考えなければいけなかったり、思い描いていたこととは違う方向になりそうだったりしたときに、原点に戻ることで、また次のステップを踏み出せるパワーがわいてきます。最近はずっとご無沙汰していた写真展の話があったりするので、久しぶりにそれを意識した写真を撮ってみようかなと思っています。そうすると、またいろいろな楽しみが広がってくるんです」。
コンセプトを持って作品からメッセージを発信していく写真展もあるが、山田さんはそれとは逆発想で、「私の写真を見てくれた人はどう思うのかな?というのが楽しみだ」という。
ウエディングの写真を撮るときにも、まず気持ちを優先し、それに技術をプラスしていくのが山田さんの撮影スタイルだ。そんな写真を見て、口コミで個人のお客さんから仕事の依頼もあり、中には、赤ちゃんが生まれた年に年賀状の写真を依頼され、その後、7年間、撮り続けているという。
「何気ない日常の1シーンは、当たり前ではなくて、その家族にとっては大切なシーンだと思うんです。その瞬間を撮って形に残すお手伝いがしたいですね。ホームドクターがあるようにホームカメラマンがあってもいいかなと」。
自分の職業を名乗るなら"写真作家"という言葉がしっくりくるという山田さん。写真作家・山田さとみさんの作品には、幸せなストーリーがあふれているに違いない。



●有限会社fill
住所:〒060-0033 札幌市中央区北3条東3丁目 フジミツビル3F
WEB SITE: http://www.fill-zip.co.jp/

取材・文 佐藤保子