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有限会社エアーダイブ 田中宏明さん

漫画「義男の空」を刊行。
その感動的な内容と北海道初のコミック刊行が話題となった有限会社エアーダイブ代表取締役の田中宏明さん。
自ら漫画家としてのキャリアを持ち、若いクリエイターをプロデュースする田中さんを取材した。

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エアーダイブ社発行の漫画・「義男の空」


- 漫画家への夢、そして起業

田中さんは札幌の専門学校を卒業後、印刷会社やゲーム制作会社などを経験。
ゲーム制作会社ではチームのリーダーとして、人をまとめる立場に立った。
「自分よりも年上の人が部下にいたりして、難しい立場でしたが、ここでの経験は起業した後にずいぶん役立ちました」。
子どもの頃から漫画が好きで、漫画家を夢見ていた田中さんは、その後サラリーマン生活に別れを告げ、本格的に漫画家を志すことに。
「『会社を辞めて漫画家になる』と言ったら、みんなから奇異な目で見られました。本人は大真面目なわけで、とにかく、プロとしてのデビューを目指しました」。
漫画家の卵として創作を始めた田中さんは、やがて「ちばてつや賞」を受賞し、デビューをはたす。しかし、やはりプロの道は険しかった。
クリエイター、そして漫画家としての生活を経験する中で、田中さんは「才能ある人材を見出し、彼らを束ね、光らせたい」と思うようになった。
「いま現役で頑張っているデザイナーやクリエイターが歳をとった時、はたして若い時と同じように描き続けられるでしょうか?彼らがずっと食べていけるように、彼らを育て、雇用していける場が必要なのです」と田中さん。
こうして2006年3月、「有限会社エアーダイブ」を起業。漫画ビジネスを志向し始めた。

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エアーダイブ社内の風景(写真右が田中宏明さん)


- 運命的な出会いによって世に出た漫画「義男の空」

漫画の可能性に期待していた田中さん。
自社での漫画刊行は、運命的な出会いがきっかけだった。
田中さんの生まれたばかりの子どもが脳の病気であることがわかり、力のある医師を探し歩いた末、小児脳外科医の高橋義男医師に出会った。
治療や手術はもとより、後遺症の残る子どもたちが社会で自立できるまで面倒をみるという、義男医師の人間性に感銘を受け、「この人の軌跡を漫画で描き伝えたい」と思った。
息子の命を救ってくれた義男医師に感謝の気持ちを表し、病と闘い、それを乗り越えていく家族の絆と強い意志の大切さを伝え、こういう小児脳外科医の存在を知って、一人でも多く小児脳外科医を目指す人が増えてくれれば・・この想いが漫画「義男の空」の発刊へとつながっていく。
しかし、無名の企業がコミックを発刊することは当然容易ではない。企画・制作・編集・出版・流通・営業・・・。これら全てにかかるリスクは極めて大きく、これまで道内企業のどこもコミックを発行できなかった理由はここにある。
「病と闘うことに比べれば、コミックを発行するほうが易しい」と考えた田中さんは、自らリヤカーで売り歩くことさえも覚悟の上で、自社レーベル「Dybooks」の立ち上げと漫画「義男の空」の発刊を決意した。


- 苦労の末の第1巻発行、そして大きな反響

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エアーダイブ社のWEBサイト  (C)エアーダイブ

「義男の空」の発行が決まってからは、怒涛の毎日が続いた。一人で立ち上げた会社にもスタッフが増え、「第1巻を発行するんだ」という目標に向けてひたすら邁進した。
こうして、2008年1月、すべて手探りで制作を続けた「義男の空・第1巻」は、ついに書店の店頭に並んだ。
「無名出版社のコミックなので、書店とのやりとりでドタバタしましたが、第1巻を発行できた喜びは言葉では表現できませんでした」。
「義男の空」の発行は、マスコミでも大きく取り上げられ、読者だけでなく書店からも大きな反響を呼んだ。
「病と闘っている時は大変でしたが、時間の経過の中で忘れてしまったこともあります。この本が襟を正すきっかけになりました」、「家族が病気になった時、どう乗り越えていくべきなのかを知るバイブルになってほしい本です」といった読者からの声が届き、書店からは「中学生からお年寄りまで、幅広く売れています」との反応を聞いた。
この反響に田中さんは、「多くの人の支えがあって世に出せた本。「義男の空」はみんなの本なのです」と応えた。


- コンテンツビジネスをプロデュース

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WEB漫画「宇佐田さん」のサイト  (C)エアーダイブ

「北海道は人間の感性を養い、創造力を発揮する場所として最適な地」と評価する田中さんは、プロデューサーとして札幌や道内で活動する有能なクリエイターを発掘し、彼らの才能を開花させる取り組みに注力している。
エアーダイブ社のビジネスも、「義男の空」の発行だけにとどまらず、新たな事業に果敢に挑戦している。
ホームページ上で連載している「WEB漫画『宇佐田さん』」もその一つ。
愛嬌のあるウサギのキャラクター・宇佐田さんが繰り広げる日常の世界が微笑ましい。
書籍ではなく、WEBという媒体を使ったコンテンツの展開。プロデューサーとしての田中さんがどのようにクリエイターの才能を引き出し、ビジネスにしていくのか、今後の展開が楽しみだ。
一方、「義男の空」は、いよいよ第2巻が10月26日(日)に全道の書店で発売され、ネット通販サイトのamazon.co.jpでも購入可能となる。
「第2巻の発行は、第1巻とはまた別の意味での難しさがありました。第1巻を発行し、安堵したい気持ちを振り払うのが大変でした」と田中さん。
第2巻の内容が気になるところだが、その「義男の空・第2巻」の出版を記念して、10月26日(日)、紀伊国屋書店札幌本店でトークショー&サイン会が開催される。
これまで誰も成し得なかった自社レーベルによるコミック発刊を実現し、クリエイターを育て、コンテンツビジネスをプロデュースする田中宏明氏。そして、氏が率いる(有)エアーダイブ。
「義男の空・第2巻」のリリースとともに、その発展に期待したい。
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■有限会社エアーダイブ
代表取締役 田中 宏明
http://www.air-dive.com/main.html

10月26日(日)16時より、紀伊国屋書店札幌本店にて「義男の空・第2巻」出版記念トークショー&サイン会を開催予定。詳しくはWEBサイトにて。
http://www.air-dive.com/yoshionosora.html
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取材・文 佐藤栄一