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【クリエイター×企業】広報業務の新たなトビラを拓く「×クリエイター」という方程式

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「堅い」大学の情報を、その先の高校生へ「分かりやすく」届けるために。

あらゆるステークホルダーへの対応が求められる昨今、クリエイターの存在感がこれまで以上に増しています。ICCでは企業とクリエイターをクロスする、マッチング相談を行っており、そこでつながった人たちによって、これまでさまざまな化学反応が起こってきました。今回は、札幌大学の金山敏憲さんとライターの安松まゆはさんによる「大学×クリエイター」の事例をピックアップ。2人が取り組む“協働”に迫りました。
  • 札幌大学 交流推進部 広報渉外課の金山敏憲さん(左)とライターの安松まゆはさん(右)の写真

    札幌大学 交流推進部 広報渉外課の金山敏憲さん(左)とライターの安松まゆはさん(右)

——金山さんはICCが登録クリエイターとのマッチング相談を行っていることをどのように知ったのでしょう? 

金山:知り合いを通じて、たまたま知りました。実はそれまで、ICCにマッチング相談の機能があることを全く気付いていませんでした。

——ICCにはどのように声をかけたのですか?

金山:大学の情報を外に発信するのに、言葉のプロであるライター/コピーライターを紹介してもらえないかと相談しました。 

——大学の情報発信に何か課題を感じていたのでしょうか? 

金山:大学のプレスリリースやパンフレットといった対外的に発信している情報には、学内の会議資料の文章がそのまま使われているものが多く、果たしてそれで大学が対象としている“高校生”にしっかり伝わっているのだろうかと、ずっと疑問に感じていたんです。もちろん、自分たちでも書き直しますが、学内向けの堅い文章を分かりやすくするには技術が必要です。さらに学内からの視点ではなく、ステークホルダーの視点を意識して情報を発信することも大切だと考え、プロに依頼してはどうかと学内で提案しました。

  • インタビュー写真 札大の金山さん

    金山さんは「学生も親も時代と共に変わってきていますから、良い意味で染まっていない人に発信してほしかった」と振り返る。

——代理店や業者などに発注するという選択肢もあったと思いますが、その中でクリエイターとのマッチングを選ばれたのには、どのような理由があったのでしょう?

金山:そうですね。大学の広報物は従来、広告代理店を通して外注先に依頼するのが通例になっています。ですが、プレスリリースのような広報物は、もっと学校と近い関係にある人の方がスピード感をもって、より分かりやすく伝えられるんじゃないかと。札幌大学では数年前からフリーのデザイナーと直接契約して、“協働”というカタチで制作物をつくってきたのですが、今回も同じように文章のプロと関係を密にした“協働”に取り組んでいきたいと思い、マッチングという方法を取りました。ただ、いざクリエイターを探そうと思っても、自分の周りに居る人は限られていますし、なかなか相談する相手もいません。ICCの存在は心強くて、無料というのもありがたかったです(笑)。

——金山さんからの相談後、ICCでは登録しているライター/コピーライターに案内メールを一斉配信。6人の登録者から返信がありました。

金山:応募いただいた6人と実際にお会いして、いろんなお話をさせてもらいました。中には、カメラマンや映像ディレクターを兼務されている人がいたり、実に多彩な方々に応募いただいたのですが、最終的に安松さんに決めたのは、広報的な仕事を経験されていたというのが大きかったです。受け身ではなく、同じ視点で物事を理解し、考えて書いてもらえるのではないかと期待してお願いしました。

  • インタビュー写真 札大の金山さん

    契約上は発注者と受注者という関係ではあるが、その中でも「いかに考え方や視点を共有できるかを重要視した」と金山さん。

——安松さんは、広報的なお仕事をされていたんですね? 

安松:神奈川県横浜市の文化施設で事業企画の仕事をしていたんです。そこを退職してからフリーのWebライターとして仕事をするようになり、2020年の春から札幌に拠点を移して活動しています。引っ越してきたタイミングがちょうどコロナの感染拡大と重なってしまったので、せめてオンラインで札幌の人や企業とつながりを持てたらと、ICCにクリエイター登録していました。 

——札幌大学の案内メールに返信されたのは、どんなところに惹かれたのですか? 

安松:募集内容に「分かりやすく翻訳してほしい」と書いてあって、それなら私にもできるかもしれないし、面白そうだなと思って応募しました。あと、自宅が南区だったので、近くていいかなって(笑)。

  • インタビュー写真 ライターの安松さん

    「場所や時間にとらわれない働き方がしたくてフリーランスのライターに転身した」と話す安松さん。

紙での発行を止めていた広報誌を、Webサービスを使って新たに創刊。

——最初は週に1〜2回の出勤。契約社員としての雇用でした。札幌大学と安松さんの“協働”は、具体的にどんなことから始められたのですか? 

安松:新しい教育プログラムのネーミングを考える、ライターというよりコピーライターとしての仕事が最初だったと記憶しています。そこからホームページに載せる文章を考えたり、プレスリリースを書いたり。 

金山:可能であれば文章的なものは、ほとんどお願いしようと思っていたんですよね。とはいえ、最初は慣れないこともあるので、簡単なところから手掛けてもらいました。

安松:プレスリリースって一般向けのほかに、「大学プレスセンター」という教育情報に特化したプレスリリース配信サービスに出すものもあって。それぞれ発信される場やその先にいる対象者が違っているので、個々に合わせて情報の強弱の付け方を調整しています。

  • 札幌大学 交流推進部 広報渉外課の金山敏憲さん(左)とライターの安松まゆはさん(右)の写真

    最初はお互いに手探りの状態だったという2人。「でも、そういう方がいいんですよ」と金山さんは笑う。

——まさに、さきほどのお話にあった「翻訳」されているのですね。 

安松:堅い文章を分かりやすくするのもそうですが、例えば、地域性の高い情報を発信する際は、札幌市外や北海道外の方もスムーズに読んでいただけるよう補足情報を加えたり。そうした細かな調整も自分に課せられた役目だと思って書いています。 

金山:安松さんとつながりを持てて最も大きかったのは、昨年(2022年)10月に立ち上げた札幌大学の新しいWeb版広報誌「リンデン通信」です。これは安松さんが居なかったら立ち上げられなかったメディアです。

——それは、どのようなメディアですか?

金山:
札幌大学では8年前に広報誌を出すのを止めたのですが、学内では復活を望む声もあって。そこで、Webサービスの「note」を使った広報メディアを立ち上げたんです。コンテンツは2つあり、1つは月1回更新の卒業生紹介。もう1つは環境省に勤めていた経歴を持つ職員と学内の広い森をめぐる「サツダイ自然さんぽ」を隔月更新で配信しています。

  • 2022年10月3日に創刊した「リンデン通信」のスクリーンショット画像

    2022年10月3日に創刊した「リンデン通信」(https://note.com/satsudai_pr)

——そちらの記事を安松さんが書いている? 

安松:「サツダイ自然さんぽ」以外は、私が担当しています。「リンデン通信」では記事だけでなく、最初の企画書づくりから関わらせていただきました。

金山:これだけのメディアをつくるのは、自分一人では無理。ライターの安松さんが近くに居てくれるおかげで創刊することができました。今は通常の広報的な仕事をこなしてもらう合間に、「リンデン通信」の編集作業や原稿執筆をしていただいています。

安松:常にある仕事が増えてありがたいですし、勤務形態も契約から業務委託に切り替わって基本的に出勤のない形になりましたが、仕事の幅は以前よりぐっと広がりました。

金山:これからは大学のWebサイト自体をリニューアルする予定で、お願いすることが増えてくると思います。「リンデン通信」も札幌大学のオウンドメディアとして、トヨタ自動車の「トヨタイムズ」のような存在に育ってくれたらうれしいですね。

クリエイターと“協働”できるかどうかは、ディレクションで決まる。

——安松さんとのマッチング後、学内で何か変化はありましたか? 

金山:マッチングでの変化はまだ分からないかな。それこそ、「リンデン通信」も誰が書いているかを伝えていないので、僕が書いていると思っている人もいるかもしれない(笑)。ですが、「リンデン通信」を創刊できたことで、「こんな卒業生がいるけどどう?」と言ってくれる人がいたり、「こういう授業をやっているんで紹介できないかな?」って相談を受けたり、少しずつですが参加意識みたいなものが芽生えてきているように感じています。

  • 札幌大学 交流推進部 広報渉外課の金山敏憲さん(左)とライターの安松まゆはさん(右)の写真

    金山さんは「これからの広報は『マス』ではなく、『One to One』。だからこそ個々に合わせたクリエイティブが重要になる」と予測する。

——安松さんは1年やってきて、いかがですか?

安松:
とても楽しく仕事をさせてもらっていますし、安定して仕事をいただけているのも、すごくうれしく感じています。契約についても最初に大学に出入りさせてもらって良かったなって思います。いくら「翻訳」といっても、その媒体を読む人がどんな人かが見えてこないと、なかなか難しいところがあります。そういう点でも職員さんから札幌大学の学生ならではの特徴はもちろん、いまどきの学生の動向や考え方も聞けたので、すごく勉強になりました。

——“協働”ということで、継続して関わることでの良さは感じますか?

安松:そうですね。プレスリリースや「リンデン通信」を通して、知識がどんどん自分の中に蓄積されていきますし、卒業生のインタビューでは昔の札幌大学のことも知ることができます。そうするとやりやすさが増して、インタビューの引き出しも、文章の幅や深みも広がっているように感じます。

——他の大学はもちろん、企業においてもクリエイターと“協働”することは、なかなか容易ではないと思います。札幌大学のように“協働”を実現し、お互いの成長を重ねていくためのコツやポイントってあるのでしょうか?

金山:今後は大学に限らず、一般企業でもデザイナーやライターのような存在が居ないと困る時代になってくるんじゃないでしょうか。いちいち外注していると、スピード感もそうですが、なかなか伝わらない部分があります。自社で雇用しなくても、契約という形の協働がこれから増えてくると思いますし、安松さんには最初に大学に来てもらったことで、なんとなくですが分かってもらえたかなと。また、その際には、きちんとディレクションできる人がいるかどうかが大事になってくると思います。

安松:私も金山さんだからやりやすいと感じることが多々あります。一方で、たとえディレクションが手薄だったとしても、工夫次第で協働は可能だと感じます。私の場合のプレスリリースのように、定型の仕事があると求められている役割が想像しやすくなると思いますし、成果物に対してのフィードバックがあるとお互いの方向性や関係をより深めていくことができて、こちらとしてもありがたいです。

  • ライターの安松まゆはさんの写真

    金山さんから教わることも多く、特に「広報に対する考え方を直接聞けるのは勉強になる」と安松さん。

——ディレクションと蓄積、そして、お互いの信頼関係が大切ということですね。ありがとうございます。最後にクリエイターとの協働を検討されている企業の方々にもアドバイスをお願いします。

金山:大切なのは、何をどうしたいのかを、いかにきちんと伝えられるかだと感じます。コピーやデザインについて詳しく知っている必要はありません。クリエイターとの協業が必要な目的と、具体的にどんなことをしてほしいのかを明確にして、そのことをしっかり伝えられる人をキャスティングしていってほしいと思います。


文:児玉源太郎(株式会社メガ・コミュニケーションズ
撮影:出羽遼介(株式会社アンドボーダー