現在位置の階層

  1. トップ
  2. ニュース
  3. アーカイブ
  4. ICC News & Report
  5. レポート:江渡浩一郎氏講演"時を超えた創造の原則"

アーカイブ

レポート:江渡浩一郎氏講演"時を超えた創造の原則"

1月29日(金)19時より札幌市立大学サテライト・キャンパスにて、札幌メディア・アート・フォーラム(SMF)主催の研究会が開催されました。
今回の研究会のテーマは「メディアアートにおける“時を超えた創造の原則”」。
メディア・アーティストの江渡浩一郎氏を講師に迎え、知のコラボレーションシステム「Wiki」、動く表現物の創作・共有シスム「Modulobe」など、氏のこれまでの活動の紹介とともに、その背景となった技術や思想の歴史をくわしく解説していただきました。
 

eto_1.jpg
講師のメディア・アーティスト 江渡浩一郎氏


江渡氏は1971年生まれ。
産業技術総合研究所サービス工学研究センターに所属し、メディアアーティストとして、数々の独創性あふれる作品や実績を生み出されています。
メーリングリストとWikiとを統合した新しいグループ・コミュニケーション・システム「qwikWeb」、Webブラウジングの軌跡をたどり、結果を世界地図上に表示する「WebHopper」、LEGOブロックもモチーフに取り入れながら、多数のモジュールを接続して、まるで生物のように動くモデルを簡単に制作できる環境を実現した「Modulobe」など、江渡氏の実績は興味を惹くものばかり。
江渡氏がいかに人間同士のコミュニケーションをよりよいものにするためにコンピューターやネットワークを活用しようとしているかが伝わってきました。
 

eto_2.jpg
会場には関心を持つ参加者でほぼ満席。質疑も活発でした。


江渡氏の活動に影響を与えた技術や思想の解説の中では、久々に懐かしい人物の名前が出てきました。
その人物の名はテッドネルソン
「ハイパーテキスト」という用語の産みの親であり、それを活用したプロジェクト「ザナドゥ計画」を推進した彼は、1994年から数年間札幌に滞在し、若手人材とともに研究を行っていたのです。
札幌と深い縁をもつ彼が江渡氏にも影響を与えていたことを知り、嬉しく思えた瞬間でした。


講演後の質疑応答も非常に活発で、開発思想や理論に係ることから、氏が手がけた制作物に係ることまで、質問が続出。
中でも2003年にリリースされ、話題を呼んだプレステ2用のソフト「くまうた」の開発秘話で会場は一気に和みました。
愛嬌のある「くま」に演歌の歌詞を教えると、曲を自動で作曲するこのソフトで、江渡氏は自動作曲エンジンの開発を担当されました。
「いまこれを作るとしたら?」の質問には「たぶん、作らないでしょう」と答え、会場は爆笑に包まれました。
 

eto_3.jpg
江渡氏が作曲エンジンを開発したというプレステ2用ソフト「くまうた」。会場は爆笑の渦に包まれました。


1時間余の講演では全く消化しきれないほど内容の濃い話でしたが、江渡氏の著書「パターン、Wiki、XP~時を超えた創造の原則」(2009、技術評論社)には、今回の講演内容を含む詳しい解説があると思いますので、ぜひご一読をお薦めします。

------------------------------------------------------
取材・文 佐藤栄一(プランナーズ・インク