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レポート Live drawingでクリエイティブ・コモンズを体感

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-巨大な絵の正体は?

7月30日から3日間にわたって札幌コンベンションセンターで開催されていた「iSummit2008」は、8月1日、多くの参加者をもって幕を閉じた。
下の写真はそのクロージングパーティーの様子であるが、この写真を見て、「中央部に見える巨大な絵の正体はいったい何か?」と思われるのではないだろうか。

iSummit2008クロージングパーティの集合写真。
中央の巨大な絵が目を惹く


これは、iSummitの会場で行われた” Live drawing session”の”成果物”。
iSummitは、著作権の有効利用、共有、そのルールづくり等を提唱するクリエイティブ・コモンズに係る研究と普及を目的とした国際会議。” Live drawing session”は、このiSummit の趣旨にあわせ、プロの作家、来場者、子どもなどが、国境も性別も問わず、参加者全員で絵を描こうという、いわば巨大な” 落書き実験”だ。


子どもも、プロも、一緒に絵を描いた


巨大な紙の上にクレパスやマーカーを使ってみんなで絵を描く。
他の人の絵に何かを足したり、変形したり、他の人からアイデアをもらって別の絵を描いたりと、どんどん絵を変化させていくこの実験は、新しい著作権の利用や共有の方法を体感するイベントとして行われたものだ。
こうして最終的に出来上がった作品は、8.1m×11mの巨大な1つの絵となり、会場に展示された。


-プロの評価は・・・

このLive drawing sessionは、札幌在住の3名の若手アーチスト(高橋喜代史、平塚翔太朗、高幹雄)、札幌でアーチスト・イン・レジデンス事業を推進するNPO法人S-AIR、iSummit2008のゴールドスポンサーである(株)ロフトワーク(東京)のコラボレーションによって進められた。


drawingを進行した高橋喜代史さん。
インスタレーションを得意とするアーチストだ


「どんなものが出来上がるか、最後までわからない面白さがありました」と話すのは、このdrawing sessionにプロのアーチストとして参加した高橋喜代史さん。
子どもの発想は特に面白く、熱心に絵を描いている姿は、プロの高橋さんに「子どもからエネルギーをもらいました」と云わしめるものがあったという。

インスタレーション作家として活動しながら、北海道にしかできない、規模の大きな作品展の開催を目指す高橋さんは、「このdrawing sessionをもっと大規模にし、大人も子どもも参加できるイベントとして、毎年やってみるのも面白い」と思いを語った。


-Sapporoから新たなステージへ

一方、この企画を発案した(株)ロフトワークの取締役で、自らもクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのアドバイザリーボードメンバーである林千晶さんも、「参加者一人ひとりが他の参加から何らかの影響を受け、影響を与え、離れてみるとそれがアート作品になっていますね」と評しながら、「クリエイティブコモンズの根底にある”remix”の発想を具現化できました」と満足そう。
一般には理解が難しいクリエイティブ・コモンズの考え方を体感してもらう意味で、drawing sessionの意義は大きかったようだ。

 昨年のiSummitの開催地・クロアチアでプレゼンテーションを行った林さんに、今回のiSummit2008の印象を聞いてみた。
「今回のiSummitでは、これまでと”ステージが変わったな”という印象を持ちました。これまでのiSummitは法律や著作権の専門家の参加が主で、スピーチが始まると皆一斉にMac Bookを開く光景が見られましたが、今回は、専門家、クリエイター、ユーザーなど、幅広い層の参加がみられました。Windowsユーザーもたくさんいましたし(笑)、PCを打たない聴衆も大勢いました。また、国内の大手有力企業がスポンサーになるなど、クリエイティブコモンズが着実に普及していることを感じました。」と林さん。多様な参加者が集まった背景には、札幌という都市の性格も影響しているという。「札幌は外部から人を受け入れる寛容さを持った都市という印象を持っています。このニュートラルで寛容な環境は、クリエイティブなことを展開するのに適していると思います」


(株)ロフトワークの林千晶さん。
クリエイティブ・コモンズ・ジャパンのアドバイザリーボードメンバーも務める


「クリエイティブ・コモンズはクリエイターを幸せにするでしょうか?」
最後にこんな質問を投げかけてみた。
「します!」と即答した林さんはこう続けた。
「これまでは著作権の”囲い込み戦略”ばかりに関心が行きがちでしたが、これからは”Open化”がクリエイターの成功の鍵になると思います。作品を公開し、いかに多くの人に知ってもらうか。それをせずに、ただ権利を囲い込むだけではクリエイターは生きられません。権利を守りつつ、Openにしていくことが必要で、そのためには、それを可能にするインフラとルールが必要です。クリエイティブ・コモンズは、この2つを提供し、しかも、グローバルに、世界とつながる機会を作ります」

新たなステージに入ったクリエイティブ・コモンズとiSummit。ここ札幌でその扉が開いたとしたならば望外の幸せだ。Open化をキーワードに、札幌から世界に羽ばたくクリエイターが出現することを期待したい。





取材・文 佐藤栄一