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イベントプロデューサー  山岸正美さん

参加者の喜ぶ姿を原動力にイベントを発信
10月5日から札幌国際短編映画祭が開幕

デザインプロダクションを経営するかたわら、
クリエイティブな魅力を放つイベントプロデュースに打ち込む山岸正美さん(61)。
その原点となる札幌国際短編映画祭が10月5日から幕を開ける。
映画祭の他にも数多くのイベントプロデュースに関わり、
感性を磨くことでたどりつく“気づき”の重要性を説く。

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  • 「SAPPOROショートフェスト 2011」

  • 「札幌デザインウィーク」

  • 「紙袋ランターン・フェスティバル」

  • 「山岸正美さん 1」

  • 「山岸正美さん 2」

 

短さの中に感動凝縮のショートフィルム

世界のショートフィルムを集めた札幌国際短編映画祭。第6回の今年は札幌東宝プラザを会場に、78本のショートフィルムを一挙公開。グランプリ受賞作などのアワードを決める国際審査員に、音楽家の細野晴臣氏や『海炭市叙景』の熊切和嘉監督ほか海外からも映像の専門家を呼び寄せる。

今でこそ広告展開でよく見かけるショートフィルムだが、ひと昔前までは“映画好きな大学生が作る自主映画”というマイナーイメージ。一般人が目にする機会はほとんど皆無だった。
そのショートフィムを、短さの中に深い感動と余韻をもたらすユニークな映像表現として北海道の私たちに再発見させてくれたのが、山岸正美さんが実行委員長を務める札幌国際短編映画祭だ。

デザインプロダクションの代表である山岸さんにとっても、この映画祭は初の社外イベントプロデュースにあたる思い入れの深いもの。「今年もたくさんの方に楽しんでいただきたいですね」と語り、開催準備に奔走する。

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Sapporo Short Fest 札幌国際短編映画祭 http://sapporoshortfest.jp/



札幌ツアーから地元発の国際映画祭へ

映画祭の前身は俳優の別所哲也さんが主催する「ショートショートフィルムフェスティバル」の札幌ツアー。1999年に東京で「ショートショート…」を見た現ICCチーフコーディネーターの久保俊哉が「札幌でもショートフィルムの魅力を広めたい!」と、旧知の山岸さんに声をかけたのが始まりだった。
以降は理解ある賛同者を募り、2000年に「ショートショートフィルムフェスティバルin北海道」をイベントスペースEDiTで開催。有志による手弁当での運営が続いたが、札幌市の全面的な支援を受けた2006年からは名称も新たに「札幌国際短編映画祭」となり、現在に至る。

山岸さんをはじめ実行委員有志13人の顔ぶれは皆、本業に加えて映画祭の準備に追われる多忙な企業人ばかりである。スポンサー集めやゲストの招聘、告知準備など各自に割り振られた案件が次々と押し寄せ、開催日まで疲労困憊の毎日が続く。
「この少人数で国際映画祭を続けていくのはほとんど無謀の一言。我々も大変ですが、支えてくださる関係者のご苦労を思うと身が縮む思いです。けれどもどんなに大変な思いをしても“のど元過ぎれば”で、終わってしばらくするとまた来年のことを考える。イベント中毒と言われても仕方がありません」。

そう笑う山岸さんを、映画祭以降もさまざまなイベントをともにする久保は「遊び心の人」という。
「フライフィッシングや自家菜園に凝ったりと、好奇心がつねに全開。山岸さんなら新しいことへの挑戦も一緒に楽しんでくれるのでいつも頼ってしまいます」と全幅の信頼を寄せている。



物体を動かすエネルギー単位「エルグ」

平素の肩書きは、札幌を代表するデザインプロダクション、マーケティング・コミュニケーション・エルグ(通称エルグ)の代表取締役。だが映画祭に端を発した“社外活動”は、10月から始まる「札幌デザインウィーク2011」の実行委員長や、〈理想の田舎を作る運動〉を提唱する「NPO法人アートチャレンジ滝川」の副理事長を務めるなど、年々広がり続けている。

こうした広い活躍には、実は社名にもつながる深い思いが隠されていた。
「アートとデザインの違いを考えたときに、アートが問題を提起するのに対して、デザインは問題を解決することが使命。しかもその問題解決のためには自分個人の思いだけにしがみつくのではなく、他者や社会とのコミュニケーションが必要不可欠。コミュニケーションを基盤に物事を伝えていくことの重要性を信じて、今の社名を付けました」。
エルグとは物体を一センチ動かすときに必要な仕事とエネルギーを表す単位だ。一人ではなく、誰かとつながるところにデザインの役割が存在する。この他者を思うまなざしが、社内外を問わず山岸さんの活動すべてに注がれている。

yamagishi02-1.jpg今年は10/19から始まる札幌デザインウィーク。札幌駅前地下歩行空間や大通BISSEなどの各会場でさまざまなデザインイベントが開催される。

yamagishi02-2.jpgNPO法人アートチャレンジ滝川が行うイベントの一つ「紙袋ランターン・フェスティバル」。手作りのランターンが冬の滝川を照らす光景が全国ニュースでも放映された。


先輩に恵まれ、デザイン・広告の基礎を習得

山岸さんは紋別市生まれ。親は鴻之舞金山で働き、山岸さんの高校進学と同時に一家で札幌へ移住した。高校は当時マンモス高だった札幌南高校から分かれる形で野幌に新設された札幌啓成高校の一期生。生徒たち手ずからグラウンドの整備や校舎の補強をするなど、ゼロから何かを作り上げていく作業を楽しむ性分はこの頃からかもしれない、と振り返る。

絵を描くのが好きで美術部に入り、卒業後は教師の勧めでデザインの道へ。上京して入った広告代理店で面倒見のいい先輩との出会いに恵まれ、「デザインや広告のいろは」をみっちり習得した。
4年後に東急エージェンシーに転職し、百貨店が流行の発信基地だった時代の広告業界で活躍。当時20代の若さも手伝い、感性という名の土壌に豊かな栄養分を蓄えた。そして28歳のときに東急エージェンシーの札幌支店に異動を希望し、帰郷。仲間と起業したデザイン事務所を経て、1988年にエルグを設立した。
 

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公私に渡り広い人脈を持つ山岸さん。コミュニケーションのコツを伺うと、「人の話を聞くこと。“答え”はいつも話す側が持っているのでそれを引き出すまで聞き続けます」




感性を磨き、気づきに満ちた豊かさを提唱

前述の映画祭やデザイン・アートイベントの他にも、札幌スタイルやファッションビルIKEUCHI3階のスポーツフロアにある「森の間カフェ」のプロデュースなど、“エルグの山岸さん”が手がけた仕事は実に幅広い。

だがどれも洗練されたデザインの中に人肌の温もりを感じさせるのは、「物質だけに依存しない豊かな暮らしに気づいてほしい」という山岸さんの願いが込められているからだ。
「いろいろなものを見聞きし感性を磨いて、“気づき”を増やしていくこと。そこで得た価値観や概念が人生で大きな決断を迫られたときに必ず助けてくれます」。
マイナーだったショートフィルムに新しい光を当てたように、札幌で魅力あふれる気づきのイベントを次々と手がける山岸さん。その原動力はただ一言、「皆が喜ぶ姿が見たいから」だと即答した。

10月は札幌国際短編映画祭に札幌デザインウイークと、プロデュースイベントが続々と開催される。
会期中足を運ぶ皆さんは、会場アンケートやスタッフに直接でもいいのでぜひ感想を伝えてほしい。あなたの喜ぶ一言が山岸さんの疲れた心身をほぐし、また新たに素敵なイベントを発信する活力になる。



〈さっぽろ創造仕掛け人に聞きたい! 3つのクエスチョン〉

Q.エルグに入りたい!」と若者が押しかけ応募をしてきたときはどうしますか?
A.
これまでもそうですが、「会いたい」と申し込んできてくれた人は一人の例外も無く全員にお会いしています。たとえ採用することができなくても、本人と話すことで見えてくる魅力やこれから身に付けていってほしい力を伝えて、次に進む一歩に役立ててほしいから。

Q.心に残る一言は?
A.
二つあります。一つ目は東京で初めて入った広告代理店の先輩から。その方は東急エージェンシーへの転職にも力を貸してくれて、高卒を理由に断られそうに なったところを口添えしてくださったんです。そのときに「大卒の応募者には4年間のムダがあるが、山岸くんにはその大事なムダがない。その差はすごく大き いんだ」と指摘していただき、自分の負けん気に火を付けてもらいました。もう一つは北海道アルバイト情報社の村井俊朗社長から「僕たちはいつまでもお互 いに“ありがとう”と言える関係でいよう」と。業者として出入りさせていただいていた時期にもらったこの一言は、深く心に響きました。私自身、誰に対して も同じ気持ちでいたいと思う大切な言葉です。

Q.今、気になるクリエイターはいますか?
A.
高知県在住のグラフィックデザイナー梅原真さん。ご自分を「一次産業デザイナー」と称して、地域に根づいた活動をされています。例えば高知県の黒潮町が 「自分たちのまちには立派な美術館がない」と悩んでいたのを、目の前に立派な砂浜があるじゃないかと気づかせ、海岸でTシャツアート展を開いて話題を呼んだ。この気づきをもたらし、皆を喜ばせる視点と行動力こそが、クリエイティブの理想型。こちらもおおいに触発されます。




●株式会社マーケティング・コミュニケーション・エルグ 
所在地:札幌市中央区南2条西6丁目 南2西6ビル 8F
TEL:011-221-2522
設立:1988年4月
資本金:1,000万円
代表取締役:山岸正美
従業員数:7名
事業内容:販売促進企画立案、CI計画・実施、広告制作、編集、サイン計画、イベント企画
 

 

取材・文 佐藤優子(耳にバナナが
撮影 ハレバレシャシン