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AISプランニング 代表 漆 崇博さん

【北海道新聞掲載記事】
AISとは、アーティスト・イン・スクールの略。
文字通り「学校にアーティストがやってくる」文化活動を
実現するために東奔西走する。道内でも同業者はほんの一握りだろう。
アートマネージメントを仕事にする漆崇博さん(32)の活躍を見てみよう。

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アーティストと学校をつなぐ橋渡し役

小学校の空き教室にアーティストが滞在し、交流活動を通じて子どもたちにアート体験を提供する。そこではアーティストは「期間限定の転校生」。
転校初日はもちろん、子どもたちも転校生も緊張気味。だが共有する時間が増えるにつれて距離は縮まり、成果発表の最終日には「やったね!」という大きな達成感を共有する。

2009年11月、開校30周年記念を迎えた札幌市立屯田南小学校の場合、校門をくぐった「転校生」は現代美術家の今村育子さんだった。代表作「わたしのおうち」などのインスタレーションで知られる今村さんは、子どもたちと一緒に空き箱を使った「理想の家」づくりを実施した。
思い思いの家が集まった最終日には「ゆめのとんでんみなみ村」が完成し、子どもたちのマイホームに豆電球の灯りがともされた。

こうした一連の「札幌アーティスト・イン・スクール」事業に欠かせない人物が、AISプランニング代表の漆崇博さんだ。
2010年に開業7年目を迎えるアートマネージメントのプロフェッショナル。アーティストと学校の橋渡し役となり、事業の進行管理や必要な物の手配、当日の立ち会い、記録、報告書作りなどあらゆる場面でAIS事業の成功を陰になり日向になり支えている。
長くて堅い事業名に親しみやすい「おとどけアート」の呼び名をつけ、「おとどけアート」実行委員会の事務局を務めている。

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2009年11月、札幌市立屯田南小学校で行われた「ゆめのとんでんみなみ村」の報告展風景(会場:札幌市役所ロビー)


個展会場で自分流世直しの目覚め

どんな現場でも調整役の責務は重く、「10のうち8は“楽しい”だけではすまない話ばかり(笑)」。ではなぜ続けられるのか、その答えを知るには漆さんの学生時代まで話を戻そう。

故郷の石狩から弘前大学教育学部に入学した。お世辞にもまじめとは言えない学生時代はアルバイトや恋愛、バンド活動などの「人生勉強」に費やした。小さい頃から絵を描くことが好きで、漫画家・筒井旭のアシスタントをしていたこともある。

遊び過ぎの自分を立て直そうと卒業後は宮城教育大学大学院に進み、美術教育を専攻した。油絵を描きためて個展を開いた時のことだ。人気のない会場で自作の絵に囲まれて座る漆さんを猛烈な違和感が襲った。
「自分が今こうしていても世の中は何も変わらないなと気づいたんです。むしろ、自分より上手く描ける才能はたくさんいるだろうし、そういう人たちを巻き込んで社会に対して何かアクションを起こしたほうが絶対世の中のためになる。うんと大きな風呂敷を広げてしまうと、自分なりの世直しがしたくなったんです」。

それからは大学院の仲間や先生を巻き込んで、アートプロジェクトやワークショップを率先して企画し経験を積んだ。北海道に帰って来たのは04年。S-AIRスタッフの一人で、道内のAIS事業に力を注いでいたアートディレクター小田井真美さんとの出会いから、同事業を本格的に始めるようになる。

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「アシスタント時代、師匠に自分の作品を見せたら“漆は漫画家よりプロアシ向きだね”と看破されました(笑)」


原点は帯広大正小学校のスケートリンク

初仕事の会場は2004年1月の帯広市立大正小学校。東京の土屋享さん、車田智志乃さんら2人によるアーティストユニット『KOSUGE1-16』が「転校生」となった。

帯広では冬場、小学校の校庭に水をまけば凍ってスケートリンクが出来上がる。そこでスケート未体験のアーティストたちは子どもたちからスケートを教わる「小菅スケートスクール」を開校し、これが破天荒に楽しかった。
「『KOSUGE1-16』さんたちは放課後に子どもたちと触れ合うだけでなく、スピードスケート用のワンピースを着て一緒に体育の時間に出たり、休み時間に上達のポイントを習字で書いたりしてすっかり教室に溶け込んだ。大正小学校さんの理解なしでは到底実現できないことを自由にやらせていただきました」。

自由に動ける分、アーティストの行動には彼らの生き様そのものが反映される。親とも教師とも違う不思議な大人に出会った驚きが子どもたちの顔を輝かせ、新しい価値観の芽生えを感じる現場に立合えた。「自分はこういう事がやりたかったんだという確信を得られた初仕事でした」。

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校庭がリンク化する帯広の地域性を生かした大正小学校での活動風景

 

街づくりは人づくり、学校の可能性に期待

「おとどけアート」は09年度で合計27回を数え、年度内の今後の予定は下記の通り。
・2010年2月8日(月)〜24日(水)
会場:札幌市立北小学校
講師:東方悠平(札幌出身)

・2010年2月13日(土)・14日(日)
会場:石狩市立生振(おやふる)小学校(石狩市生振375-1)
講師:Isamu Kreiger(Swiss)

この他に漆さんは、冬の北海道の風物詩ともいえる「除雪」をテーマにした継続型アート・プロジェクト「Sapporo II Project」のスタッフにも名を連ねている。
・Sapporo II Project 2010 もうひとつの雪まつり展
日程:2010年2月2日(火)〜22日(月)
会場:D&DEPARTMENT NIPPON PROJECT SAPPORO by 3KG

「おとどけアート」という話題性に惹かれた新聞・テレビで取り上げられた回数は多く、教育現場でもその評判は徐々に広まりつつある。一度事業を経験した教師が異動先の学校から連絡をくれ、「ここでもぜひ」と嬉しい再会を果たした例もある。「やっててよかったと励まされる思いです」。
一方で長く続けていくためには新しい切り口も求められる。新年度を迎えたら学校関係者に向けたアンケートを配布し、現場の声を聞き取るつもりだ。

AIS事業に関わり、深まる思いがある。
「街づくりは人づくり。人が変われば街も世の中も変わって行く。そういう意味では人材育成という共通の目的のために大人や子どもたちが集まる学校が持つ可能性は無限です。そこにアーティストを介在させる僕たちの活動が学校というコミュニティの潜在的な力を引き出せる起爆剤になれたら嬉しい。それが僕流の世直しかな、なんて思っています」。

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多忙な身を支えるものは?「勝手に自分で感じている使命感です。それは人から強要されるものでもなく、自分の人生経験からしか生まれてこないもの」

 

BGM:渡辺崇(Junkan Production)

 

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■AISプランニング 代表 漆 崇博
Website http://ais-p.jp
〒061-3212 石狩市花川北2条6丁目209
TEL.0133-75-6505
FAX.0133-75-8845


取材・文 ライター 佐藤優子 
blog「耳にバナナが」 http://mimibana.exblog.jp/