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北海道スタープロジェクト  小林仁志さん

道産品の広告やブランディングに新たなスタイルを提案!
「北海道スタープロジェクト」は、広告、デザイン、商品開発の各分野に精通する3つの企業が連携し、成果報酬型という新たな手法で、優れた商品やサービスを提供する道内企業のブランディングを支援する。
同プロジェクトのメンバー、アリカデザインの小林仁志代表にプロジェクトの狙いや具体的な活動について聞いた。

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 北海道から新たな広告モデルを発信

「私は東京出身ですが、せっかく北海道にいるのなら、ここでしかできないことをやりたいと思っていました。北海道のOFFICE CUEや沖縄のアクターズスクールのように、地方発で高い支持を得るコンテンツが出てきているので、広告の世界でも何かそうしたムーブメントを起せないかと考えはじめました」と小林さん。

「北海道スタープロジェクト」の構想は、デザインプロダクション・アリカデザインの代表として広告やブランディングを手がける小林さんが、こうした思いを広告代理店・電通北海道のスタッフらと話す中から生まれた。
「食やクラフトなど、北海道には他に誇れる商品を作っている企業がたくさんあるのに、残念ながら商品の存在が知られていなかったり、ブランディングができていない例が多いと感じていました。しかし、小さな会社は広告予算を確保するのが難しいのが現状です。そこで、成功報酬方式という、これまで広告ビジネスの世界では馴染みのなかった方法を取り入れて自分たちのノウハウを提供し、良い商品を作っている企業を一緒に育てるプロジェクトをやってみようという結論に至ったのです」。

こうして立ち上がった「北海道スタープロジェクト」(以下、「プロジェクト」)は、アリカデザイン、電通北海道、そして、商品コンサルティング等を手がける制作室の3社をメンバーに発足。北海道で地域プロダクト(商品)を生産するクライアントを対象に、プロジェクトメンバーがブランディング戦略作成、ブランド基本デザイン制作、プロモーション基本戦略作成を提供し、この対価はクライアントが生産する商品の売上の一部からロイヤリティとして回収する新しい事業モデルを採用した。
プロジェクトの発足にあたって作られたロゴは、北海道から支庁の形を切り抜いて造形し、星(スター)の形にしたもの。「北海道はスターになれる」というメンバーの強い想いが込められている。

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北海道スタープロジェクトのロゴ。「北海道はスターになれる」という想いが込められている。

 
第一号クライアントは十勝しんむら牧場に決定
 

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プロジェクトの第一号クライアントは、ミルクジャムのパイオニア・十勝しんむら牧場

 プロジェクトの第一号クライアントは上士幌町の「十勝しんむら牧場」に決まった。
十勝しんむら牧場は、「ミルクジャム」をヒット商品に持ち、牛を放牧で育て、土にこだわった牧場経営を貫いていることで知られている。
以前から知り合いだった牧場主の新村浩隆氏が「ブランド戦略を考えたいので、プロジェクトの第一号になっても良い」と参加を快諾し、プロジェクトは本格的にスタートを切ることとなった。

「しんむら牧場は「ミルクジャム」のパイオニアですが、最近は競合商品も多く、大手企業も目をつけ始めたので、競争の激化によってパイオニアのポジションが脅かされるのではないかと考えました。そこで、プロジェクトとしては、まず、この看板商品に目を付け、"ミルクジャムといえば十勝しんむら牧場"いうブランディングに重点を置くことを提案しました」。
具体的には、「ブランディングとは何か」から伝え、十勝しんむら牧場は「ミルクのおいしさ、ぜんぶ」を提供する牧場であることを消費者に約束(ブランドプロミス)すべきと提案し、それにあわせたCI、VI、ロゴタイプを制作した。
さらに、十勝しんむら牧場が現在製造している商品を、価格、消費者ターゲット等をもとにポジショニングし、その結果、「ミルクジャムの定番化」が最大の課題だという結論に達した。
「日本にはミルクジャムの食文化が根付いていない上に、ジャムの性質上、どうしてもパンに塗るものとしてのイメージが強すぎるので、汎用性に乏しい点が課題でした。それを打開するため、ミルクジャムを使ったスイーツの開発を提案しました。スイーツという手土産市場でミルクジャムの存在を知ってもらい、最終的にはミルクジャムのパイオニアとしてのブランドの確立につなげるという戦略です」。

ミルクジャムを使ったスイーツは現在開発中で、早晩お披露目される予定。
「ミルクジャムを使ったプリンはどうか、アイスクリームはどうかなど、私の担当業務は、完全にデザインの領域を越えてしまっています」(笑)。

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プロジェクトが提案した十勝しんむら牧場のロゴ

 

自らもリスクを取り、クライアントとともに成長する

「ミルクジャムの定番化」に向け、スイーツの開発を進めるプロジェクトは、商品ができた後の広告戦略にも新しい手法の採用を予定している。
「店舗や物産展への出店から、ECサイトの構築、タイアップ・プロモーションやPR的なアプローチなど多様なアイデアがあります。こうした手法は広告効果の予測が難しいので、クライアントに対価を要求しにくく、これまで広告代理店が積極的に提案してこなかった手法です。しかし、北海道スタープロジェクトは、プロジェクトメンバーがリスクを負っていて、商品が売れなければそれを回収できません。このため、"売るための広告戦略"を考えなければならず、必然的に、従来の発想にとらわれず、幅広い選択肢の中から最適なものを検討して展開していくことになります。確かに、クライアントはお客様ですが、プロジェクトメンバーもリスクを負っている以上、納得できないことがあれば、「それは間違っている」とはっきり言えるし、言わなくてはなりません。そうやって信頼関係を築き、お互いに成長していければと思っています」。
リスクを負い、対等な関係になるからこそ生まれる妥協なき議論と信頼関係。
メンバーにとっても、そしてクライアントにとっても、このプロジェクトは大きな財産を生むこととなりそうだ。

北海道スタープロジェクトが十勝しんむら牧場を第一号としてスタートしたことがメディア等でリリースされると、プロジェクトに関心を示したクライアントなどから様々な反響があり、その中から第二、第三の案件も見えてきた。
反響はクライアントだけでなく、「融資先のブランディングに力を貸してほしい」という金融機関などからの依頼や、大学、行政などからも照会があったという。
「地域資源の活用やマッチングに係る支援事業は行政などでもやっていますが、商品そのものの付加価値を高めてブランディングし、販路を作るところまでは対象としない場合が多いので、マッチングの「その先をやる」ところにビジネスチャンスがあるかもしれません」。
セミナー等の講師としてプロジェクトの話をする機会も増えているとのことで、プロジェクトでは、今後も様々な企業や関係機関との出会いに期待している。


北海道から、次のスターブランドを生み出したい 

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「プロジェクトを通じ、北海道から次のスターブランドを誕生させたい」と語る小林さん

北海道発の新たな広告モデルを模索してきた小林さんの、プロジェクトに対する想いは強い。
「優れた道産品をしっかりブランディングして道外にも販路を広げ、そこで得た利益を道内に還元できるようなしくみができれば北海道の活性化につながります。特に、商品にストーリーがあるものは期待が大きいですね。例えば、十勝しんむら牧場の場合は、土にこだわり、放牧した牛の乳しか使わないというところが価値の原点になっています。良いモノを作っていても売り方が間違っていたり、パッケージが商品にマッチしていないなど、課題を抱えているクライアントに対して、「きちんとエンドユーザーとコミュニケーションが取れるようなブランドづくりをしましょう」と提案していきたいですね」。

クライアントとの距離が非常に近く、やりがいも大きいという小林さんに、北海道スタープロジェクトの数年先の目標を聞いてみた。
「北海道から次のスターブランドを誕生させたいですね。「白い恋人」や「ロイズの生チョコ」のように、優れた商品をクライアントとともに作り、ブランディングし、スターブランドを生み出すことができれば最高です」。

この目標に向け、プロジェクトの次なるターゲット商品は何か? 「ミルクジャム・スイーツ」のお披露目とともに注目したい。

 

 

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北海道スタープロジェクト事務局
TEL(011)271-3310
札幌市中央区南1条東2丁目1-3 NKCビル3階
有限会社アリカデザイン内

有限会社アリカデザイン 代表 小林仁志 さん
1970 年東京生まれ。幾つかのプロダクションを経て、2001年10月、アリカデザインを設立。グラフィックデザインをはじめ、映像、プロダクトに携わり、フリーマガジン「PILOT」、Hanaテレビロゴをはじめとするプロモーション、CUE×PARCOのグッズ制作、OFFICE CUEドリームジャンボリー、飲食店や美容室等のショップ、ファッションビル、キャンペーンのアートディレクションを手がける。2005年より、飲食店の経験を活かし、カフェを経営。札幌ADCグランプリ、札幌ADCポスター部門金賞、JAGDA入選ほか、受賞歴多数。

取材・文 佐藤栄一