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ステージパフォーマー 加賀城 匡貴さん

【北海道新聞掲載記事】
他のどこにもない、新しい笑いで観客を魅了するステージパフォーマンス「scherzo」(スケルツォ)。
主宰者の加賀城匡貴さん(34)は、ありふれた日常の風景の中から発想を膨らませる魔術師のような人だ。
「脳トレ!パッとブック」の発行や、今年2月にはチェコのプラハ日本人学校でワークショップを行うなど、エネルギッシュに活動している加賀城さんの発想の原点とその魅力を紹介する。

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クリエイティブの原点を与えてくれた英国での1年

加賀城匡貴さん(34)は札幌生まれの札幌育ち。
「サッカー選手になりたい」という夢と「人を笑わせたい」という想いが、磁石のS極とN極のように、ずっと自分の中にあったという。
高校時代はサッカーに打ち込む一方、高2の時にはクラスメートと10人で「欽ちゃんの仮装大賞」に見事出場を果たし、高3の時には学校祭で司会や演出を担当した。とにかく人をびっくりさせることが好きで、エンターテイナーの資質は、この時すでに出来上がっていたのかもしれない。

高校卒業後は、サッカー選手を夢見てイギリスに渡った。
「今思うと、夢のほうが大きかったですね。むこうで日本人の少年チームのコーチなどを経験しましたが、比較的早い時期にサッカーのプロの道は難しいと判断しました。それからは、以前から思っていた“人を笑わせたい”という方向に目を向けることにしたのです。せっかくイギリスにいるのだから、ロンドンのカルチャーを徹底的に吸収してやろうと思って、当時流行のジャズを聞きにクラブに通ったり、ブティックに足を運んでファッションにもふれました。とにかく、体験するものすべてが新鮮に映りました」。
この時期、イギリスで体験したこと、吸収したものは、その後の加賀城さんの活動に大きな影響を与えた。
 

スケルツォの結成、そして進化

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新しい笑いを追求する加賀城さんはステージパフォーマンス「scherzo(スケルツォ)」を主宰


1年間住んだ英国から帰国した加賀城さんは、以前から自身の中にあった「人を笑わせたい」という想いを形にするための準備を始めた。
ラジオ放送局の制作スタッフや内勤アルバイト等の仕事をする一方、坂本龍一のライブや佐藤雅彦の映画を観て刺激を受けるなど、自分の笑いのスタイルを模索し続けた。
「お笑いの世界に行くことを考えたこともありましたが、誰もやっていない、新しい笑いを追求したいという思いのほうが強かったですね。自分の中の噴火口を探して、マグマを噴出させるチャンスをうかがっていました」。

こうして自身のクリエイティビティと格闘した結果、日常の見慣れた風景の映像を見せながら、その印象を独特のナレーションと音楽でガラリと一変させるステージパフォーマンス「scherzo(スケルツォ)」が誕生、1999年には時計台ホールで第1回公演を行った。
「ネタの一つとして、朝、目覚めて布団から起き上がるまでの5分間をそのままステージで再現してみたりしました。寝ているほうはとても短く感じる5分間ですが、黙って見ているほうはとても長く感じます。この長い沈黙の5分間を観客に味わってもらうという企画でした(笑)」。
映像あり、寸劇あり、とにかく自分が面白いと思うものを全て詰め込んだという第1回公演の評判は上々で、スケルツォはその後、佐藤雅彦氏の映画「kino」の上映との2部構成による「スケルツォ公演2005」、イギリスの人気ジャズ・ファンクバンド、ザ・ベイカーブラザーズとのコラボレーションなど、どんどん新たなチャレンジを続けていった。


「脳トレ!パッとブック」で新天地を拓く

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一年がかりで取り組んだ著作「脳トレ!パッとブック」


2005年の東京公演の後、ステージを見に来ていた児童書出版社の編集者から加賀城さんに連絡が入った。
「加賀城さんのモノの見方、こだわり、考え方を生かして本を作れないか?」という相談だった。最初は絵本を作ろうかという話も出たが、国語・算数・理科・社会を加賀城さんの視点で切り、「脳トレ」という学校図書を作ってみないかという話に発展した。
「最初は、まずネタを4教科に分ける作業をして、次に、日常を4教科に分ける作業をしました。そうすると、これは国語だと思っていたものに実は算数の要素があったり、算数の題材だと思っていたら社会でも使えるといった例が出てきたのです。各教科はバラバラではなく、全部どこかで重なり合っているのですが、そうした点もこの本で訴えたかったところです」。

こうして、1年間の苦心の末、「脳トレ!パッとブック」全4教科が完成した。
「パッ」の2文字が目を惹くこの教材のうち、「社会」の本の中には、「まちの肌で遊ぼう」と題し、石畳の目地を迷路に見立てた「めじめいろ」や、レンガの目地をあみだくじに見立てた「めじたくじ」というページがある。また、「国語」には、音楽記号に合わせて「裸の王様」を読むというページがあり、f(フォルテ)の部分は強く、mp(メゾピアノ)の部分はやや弱く読むなど、まさに国語と音楽のつながりが表現されている。
子どもにも加賀城さん独自の視点と発想が楽しめるように考えられており、本を見た人からは「『ウォーリーをさがせ!』以来の衝撃」との感想も寄せられたという。

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加賀城さんの手にかかると、石やレンガの壁が「迷路」や「あみだくじ」に変身する


「見立て」をテーマに海外進出を実現

脳トレ本の発刊と前後して、加賀城さんは札幌の2つの小学校でワークショップを行った。
このうち、札幌の清田小学校では2度のワークショップを行い、初回は「廊下を走らない」という“めあて”を題材にしたCMの制作、2度目は児童がデジタルカメラで撮影した身のまわりの写真を題材に、それが何に見えるかという「見立て」を考え、発想をふくらませる機会を作った。
「それまでの経験の中で、「逆転の発想」、「リズムの反復」、「サイズの変更」など、自分の発想方法は全部で9つあると思っていたのですが、小学校でのワークショップを通じて、それらの発想方法はすべて「見立て」に集約されることがわかったのです」。
こうした収穫を得た加賀城さんは、これを海外でも展開したいと考え、EU加盟国の日本人学校に企画書を送ったところ、チェコのプラハにある日本人学校から「ぜひやりたい」との連絡をもらい、今年2月、プラハに旅立った。

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プラハ市内では身近なものにこだわって素材を集めた Ⓒ Junya Sakaguchi

「脳トレ!ツアー」と題したプラハ日本人学校でのワークショップは、身の回りのものから世界をふくらませる楽しさを体験させることを狙いとし、開催にあたって加賀城さんは2つの方針を決めた。
「まず、授業で使う題材や写真などはすべて現地で集めるということ、もう1つは、特別な場所ではなく、学校の近くや路地など、子どもたちが普段生活している場所にある素材を使うことです。「見立て」の題材はどこにでもあり、どこでも展開できるということを試したかったし、それを知って欲しかったのです。プラハ城の映像を題材に使うのではなく、道路のひび割れだとか、電気のスイッチなどが題材であれば、世界のどこででも展開ができると思ったのです」。

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道路のひび割れは「雷」に、電気のスイッチは「おじいさん」「おばあさん」に見立てられた


こうして、プラハ日本人学校のワークショップでは、加賀城さんが現地で集めた画像を児童に見せ、どんなモノに「見立て」ができるかをクイズ形式で問う授業や、襖の敷居を電車の線路に見立て、加賀城さんがライブでナレーションを入れるパフォーマンスなど、加賀城さんの想いが余すところなく披露された。
「クイズを出すと、子どもたちは正解を当てに来ようとするのですが、その裏をかくような別の視点を提示してやると、どんどん発想が広がっていきます。ちょっとしたきっかけを与えることで、子どもの反応が変わっていくのがわかりました。最終日に子どもたちからワークショップの感想文を受け取ったのですが、「室内にもこんなに面白いものがあることに気づいた」というコメントやお礼の文章などがあって、趣旨が伝わった喜びと感動で涙が出ました」。
加賀城さんにとって初の海外進出は、大きな成果を生み、成功に終わった。

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狙い通りの成果が出たプラハ日本人学校でのワークショップ風景      Ⓒ Junya Sakaguchi


“根づかない文化”を楽しむ

さて、念願だった海外進出を果たした加賀城さん。こうなると気になるのは今後の活動方針だ。
「少し前まで、札幌や北海道を指して「試される空き地」と言っていました(笑)。子どものころ、空き地にはみんなが遊びに来て、わーっと盛り上がるのですが、遊びが終わって解散すると、しーんとした元の空き地に戻って、後には何も残らないわけです。この感覚が面白いと思うのです。「根づかない文化」とでも言うのでしょうか。伝統芸能のように脈々と蓄積されていく文化がある一方で、毎回何が出てくるかわからなくて、とっても盛り上がるのだけれども、終わった後には何も残らないという形も「あり」ではないでしょうか。スケルツォがやっていることは、これに近いと思います。「根づかない」というと、ネガティブに聞こえるかも知れませんが、こうした逆転の発想ができるのも札幌や北海道の特性だと思いますし、これからもそういうものを見せていきたいですね」。

今後も、観客に「ワクワクして見てもらえるものを作っていきたい」という加賀城さん。
次の公演日程は「やってみたい場所が見つかり次第」とのことだが、次の「空き地」への招待状が届いたら、一目散に集合したい。
 

-メッセージ

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■ステージパフォーマー 加賀城 匡貴(かがじょう まさき)
http://www.scherzosketch.com

取材・文:佐藤栄一