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フリーライター&エディター 佐藤優子さん

札幌で活躍するフリーライター&エディターの佐藤優子さん。
人物の真髄を掘り下げるインタビュー技術と取材相手への愛情あふれる文章が持ち味だ。
取材相手に「つい話してしまいたくなる」と思わせる、その"佐藤マジック"の秘密はいったいどこにあるのだろうか。

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フリーライター&エディターの佐藤優子さん


- 求人情報誌の編集現場で経験した数千本の人物取材

就職先としてマスコミ志望だった佐藤さんは、大学卒業後、求人情報誌を発行する札幌の出版社に就職。総務の仕事を経験した後、希望が叶って編集室に異動し、以後12年間、一貫して週刊求人誌の編集室に籍を置いた。
「12年間も異動なしの"井の中の蛙"でしたが、求人誌の巻頭部分の読み物の企画や進行管理、外部のライターが書いた原稿のチェックなど、編集全般を長く経験できたのは幸運でした。ライターとしても色々な職種や部署の方々にインタビューさせていただき、その数はおそらく数千本に達するでしょう」。
自社媒体である週刊求人誌の読み物編集を担当したこの期間が、のちに人物取材を得意とするフリーライター佐藤さんの"基礎体力"づくりとなった。
ただ、自社媒体という責任感もあって、当時は"編集者然"としたところがあったという。
「仕事をお願いしていたライターさんの原稿がこちらのイメージと違う場合には、かなり"上から目線"でダメ出しをしていたと思います。意図が伝わらないのは指示の出し方に問題があるのですが、当時はそれがわからなかったのです。外部のライターさんからは、コワイ編集者だと思われていたと思います(笑)」。
こうして編集者としての経験を積み、場数をこなす一方、居場所を変えたいと思うようになり、13年間勤めた出版社を退社。この時、35歳になっていた。


- スロースタートのフリーライター


ほどなく前職時代に付き合いのあった広告プロダクションから取材の仕事を紹介され、それを契機にフリーライターとしての活動が始まった。
会社の看板が取れた後も、無意識のうちに編集者時代の"上から目線"が出てしまうなど、フリーライターへの転身には苦労したというが、そこは努力家の佐藤さんのこと、自分の言動を振り返り、仕事を一つひとつ丁寧にこなす中で、人との接し方、原稿の書き方、プロとしての意識に磨きをかけ、フリーライターとしてのスキルを高めていった。
現在は、主に雑誌のインタビュー記事や企業PR誌などを手がけ、そこでは、前職で培った人物取材の経験が生きただけでなく、編集者としての客観的な目線も役立っている。
「フリーライターとしてはスロースタートなので、やはり差別化には気を遣います。編集、企画、スタッフィングまでを担当できる点は、ぜひともウリにしていきたいところです」と佐藤さん。
名刺の肩書きを「ライター&エディター」とし、多様な仕事をこなしながら信頼を得ることで仕事の受け口を広くしていける点は、今後さらに大きな強みとなるだろう。

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月刊誌「WING Sapporo」では、「光る女」と「北の匠」の取材・執筆を担当

 

- 「ラポール」が生きる佐藤流インタビュー術

人と接するに際し、佐藤さんには大切にしている言葉がある。
「ラポール」―― 作家の立花隆氏から学んだ言葉で、「心を開き合う状態」を意味するのだという。
「相手から貴重な時間をもらっているので、事前の勉強はもちろん、不快感を与えないように外見にも気を遣います。そして何より、"あなたのお話が聞きたくて仕方がない"という、私の本心をさらけ出します。それが相手に伝わって、お互いに心を開きあった状態になると、インタビューや打ち合わせの間に共有できるものが生まれ、実りの多い成果につながります」。

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「つい話してしまいたくなる」・・佐藤さんにインタビューされた人の多くがそう感じる


――『身を委ねて話を出来た。(中略)穏やかな小川を眺めながら、リラックスして話をしている感覚でした』―― これは、佐藤さんが最近取材した相手が自身のブログに取材時の感想を書いたものだ。
取材相手からのこうした感想は最大の賛辞であり、とりもなおさず、それは佐藤さんが「ラポール」を実践できている証といえるだろう。
心を開き、相手を理解しようとするその姿勢に加え、ゆっくりと、聞きやすいテンポで話し、心地よいトーンの声は、インタビューを受ける側の緊張をほぐし、「つい話してしまいたくなる」状況を生み出す。
こうして"佐藤マジック"にかかり、全てを話し切った人のインタビュー記事は、読み手の心を打つ。


- 新天地を拓いたラジオドラマ「ほっかいどう百年物語」


STVラジオで毎週日曜日に放送されているラジオドラマ「ほっかいどう百年物語」の構成作家の一人として加わったことは、佐藤さんにとって大きな出来事だった。
北海道にゆかりのある人物にスポットをあて、膨大な資料や家族の証言など、丁寧に時間をかけて集めた情報をもとに物語を作りあげていく番組だ。佐藤さんはこれまでに、漫画家のおおば比呂司氏や指揮者の岩城宏之氏などの物語を手がけた。
普段は「読ませる」ために書いている原稿が、ここではやさしい言い回しで「聞かせる」という技術が求められ、難しさがある反面、やりがいも大きいという。
「ナレーターの方が私の書いた原稿から受け取ったイメージを声にし、それがラジオの電波に乗って発信されていくなんて夢のよう。物語が原稿用紙から浮き上がってくるようで、とても取り組みがいのある仕事です」。
放送終了後1分も経たないうちに、取材で伺った主人公の家族から「父さんのこと、思い出して懐かしくて泣けてきたわ」とお礼の電話が入ることもあり、大いに励まされるという。
人物の真髄を掘り下げ、人を輝かせるライター、佐藤さんが輝く場所がここにもある。

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ラジオドラマ「ほっかいどう百年物語」の仕事は、佐藤さんに新たな可能性を拓いてくれた


 - 紙媒体への愛着、そして、新しいジャンルへの挑戦


「一つのテーマを深く専門的にグイグイと堀り下げて、原稿に自分の思い入れを強く出すタイプというよりは、広く浅いタイプ(笑)。人によっては物足りない原稿だと思われるかもしれません」という佐藤さんだが、それは、"読者を置き去りにしない"という佐藤さんの想いの表れでもある。
長い間、求人誌に原稿を書いてきたため、紙媒体への愛着が強い一方で、最近はウェブの仕事も増えているという。
2008年春に開設された美唄市のポータルサイト「PiPa(ピパ)」はその代表的な仕事で、美唄のまちの中に深く入り込み、美唄に暮らす人やすぐれた特産品、魅力的なスポットを、愛情あふれる表現で紹介している。
「ウェブサイトの場合は、横書き・縦スクロールという形態が多くて、紙媒体に比べてデザインが画一的になりがちです。楽しんで読んでもらう工夫が難しいですね。知らないうちに情報が引用されるケースも多いので、情報の正確さと曖昧な表現を避けることには特に注意を払っています」。
紙媒体やラジオドラマなどで多彩な経験を積んできた佐藤さんだけに、ウェブサイトの世界でも私たち読者を楽しませてくれることを期待したい。

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美唄ファンのポータルサイト「PiPa(ピパ)」の仕事では、一つの地域にはじめて深く入り込んだ


- 5年目の節目を迎えて


佐藤さんが最近になって始めたことがある。自身のblog、その名も「耳にバナナが」の開設だ。(タイトルの「耳にバナナが」の意味は、ぜひこのblogを訪れてご確認いただきたい)
営業ツールとして開設したというこのblogには、これまでの仕事の実績のほか、佐藤さんの目からみたオススメ情報、そして、"ニヤリと笑える"情報が掲載されている。
ライターはデザイナーやイラストレーターのように作品を画像で見せることが難しい。このblogを通じて自分の"人となり"を知ってもらい、仕事のチャンスづくりに役立てたいという。
「自分をさらけ出すようでとても恥ずかしいのですが、開設から3カ月経った今もデイリー更新を継続中です」と佐藤さん。365日、どんなコンテンツが発信されていくのか楽しみだ。
佐藤さんは今年、フリーライターとなって5年目の節目を迎える。
これまでの4年間は、「応援してくれるクライアントや仲間に恵まれ、最高のスタートを切れました」と振り返る。
5年目に入る今年も、色々な場所で「ラポール」を実践し、取材相手に「ついしゃべってしまった」と思わせてニヤリとしている佐藤さんがいるに違いない。
ひょっとすると、次にその術中にハマるのは貴方かもしれない。

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佐藤さんのblog「耳にバナナが」では、佐藤さんの人柄を知ることができる

-メッセージ



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■フリーライター&エディター 佐藤優子
blog「耳にバナナが」 http://mimibana.exblog.jp/

取材・文  佐藤栄一