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キッチンサポート青  青山則靖さん

「ここは僕の"アトリエ"なんです」。
案内された空間に足を踏み入れると、そこにはズラリと並ぶ鍋や包丁、調味料の数々。
アトリエの主は、フードプロデューサー・青山則靖さん(35歳)。
料理人として15年ものキャリアを持ち、飲食店向けメニューの開発から経営までをサポートする一方、料理教室の主宰や、異分野のクリエイターとのコラボレーションもこなす、その多才な素顔に迫った。 


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フードプロデューサーの青山則靖さん(35歳)


- 高校卒業後、料理の世界と出会う

高校時代は陶芸家になりたくて、芸術大学を志望したという青山さん。しかし、そこは狭き門だった。その後、札幌市内の飲食店でアルバイトとして働き始め、この店で経験を積んだ青山さんは、店で出会った人のつながりで小さな和食店へと移り、そこで初めて「オーナーシェフ」という人の存在を知る。
「高校を出て間もない当時の自分には、自ら料理に腕をふるい、店の切り盛りまで一切合財を背負う"オーナーシェフ"という人がいることに驚きました」。

こうして青山さんは、良い仕事をすれば客に感謝され、喜びと達成感を味わえる料理人という仕事に惹かれていった。負けず嫌いの性格から、「アイツができるのだから自分にも出来る」と考え、辛い修行も乗り越えることができたという。
料理人としての経験を積み、やがて独立も考え始めた青山さんに大きな転機が訪れたのは、30歳の時だった。


- フードプロデューサーへの道

カラオケのチェーン店を経営する会社に請われ、店で提供する料理のメニューの決定、仕入れ、スタッフの育成まで、調理長的な立場で食にかかわる全てのプロデュースを担当することになったのだ。
「それまでは一つの店の中での仕事でしたが、今度はチェーン店で、しかも全体をプロデュースする立場。絶えずコストを意識しながら、ロスを出さないレシピの開発を進めました。アルバイトのスタッフの中には料理の経験がない人もいるので、誰でも同じ質の料理を提供できるように、作り方から盛り付けまで、手描きの絵によるマニュアルも作りました」。
大事なところだけを強調し、使用する調味料はラベルのデザインまで絵に描くなどの徹底ぶりで、とにかくわかりやすいこのマニュアルはスタッフにも大好評だったという。


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わかりやすい手描きのレシピづくりは今でも続けている

こうしたプロデュースを続けるうちに、ほかの飲食店のオーナーからも「自分の店をプロデュースしてほしい」という依頼が来るようになっていった。
「いくら高価な食材を用意しても、使い方が限定されていたり、お客さんの入りが悪くて使い残したのでは飲食店の経営は成り立ちません。素材を効率的に使い、ロスの少ないレシピで、しかもお客さんに満足してもらえる料理を考えなければなりません。個人の店とチェーン店の両方を経験したことで、単に料理人としてだけでなく、コストを賄い、利益を出せる店にするためのノウハウが身に付いていきました」と青山さん。
こうして、"経営がわかる料理人"となった青山さんは、33歳にしてフードプロデューサーとして独立をはたす。



- 料理への愛、店への想い

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手作りのキッチンスタジオは青山さんご自慢の"アトリエ" だ

独立後、青山さんが最初にしたことは、自らが"アトリエ"と称するキッチンスタジオの開設だった。
「料理人という職業は、調理場がなければ仕事ができません。さらに、店に勤めるか、自ら店をやる以外には調理場を持つことができないのが普通です。独立を機に、さっそく自宅の1階を改装して自分の仕事場を作りました。ここでレシピを考え、作り、今では料理教室も開いています」。
こうして自分の城を持った青山さんには、おもに知人の紹介で飲食店のプロデュースの仕事が舞い込むようになった。

飲食店とそこで働く料理人の現実を良く知る青山さんには、「長く、愛される店をプロデュースしたい」という強い想いがある。
「料理人の道は30歳で決まるといわれています。店で調理長をめざすか、自分の店を持つか、そのどちらかです。調理長になっても、ある程度の年齢に達したら後輩に道を譲る人が多いし、自分の店を持っても拘束時間が長く、収入も決して良いとはいえません。自分がお手伝いをする店は、ちゃんと人件費が賄えて、長く愛される店であってほしいのです。飲食店のコストの中心は"Food&Labor"(材料と人件費)。両方を賄えるよう、徹底的に考えます」。
一つの食材をロスなくどこまで多様に使えるレシピを提供するかを考える中で、青山さんは特に仕込み工程を大事にしている。色々な作業を並行して行う調理場では、一つでも仕込み工程に無理や矛盾があればそのレシピが出せなくなるが、料理人としての経験を持つ青山さんには、開発したレシピが調理場で無理なく仕込みができ、提供できることを自ら証明し、現場の調理人を納得させられる強みがある。
料理人としての技術と経験、食材に対する豊富な知識、チェーン店で身につけた経営とコストの感覚。それらをフル動員しながら、長く愛される店づくりに向け、フードプロデューサーとしての信頼を築き続けている。


- 伝えたい"手づくり"の大切さ

飲食店のプロデュースをメインの仕事とする青山さんだが、"アトリエ"では料理教室も開いている。
「週に2回、予約制で行っていますが、生徒さんは年配の男性や女性のグループなど様々です。一緒にスーパーに行って食材を選ぶこともします。ゼロから料理を始める人、かなり上級の人などレベルも色々で、"レバーペーストを作ってみたい"というレアなリクエストが来て驚いたこともあります(笑)」。
料理教室の開催は、家庭で手づくりをしなくなったことに対する青山さん自身の危機感がその背景にある。
「消費者が手づくりをやめ、出来上がった食品を買うことが日常化した結果、多くの人がアミノ酸中毒のような状態になってしまいました。本来の素材の味を知らない人が増えていることに危機感を感じています。私の料理教室では、素材本来の味の感覚を取り戻してもらう意味も込めて、ダシをとるところから、一つひとつ手づくりすることを教えています」。
料理教室の評判は人づてに伝わり、楽しく、そして真剣に、完成した料理の試食時はいつも賑やかで楽しいひと時になるという。
朗らかで、料理に対する愛情あふれる人柄のため、最近ではテレビやFM放送などへの出演機会もあり、青山さんの存在はさらに知られつつある。青山さんが大事にする「手づくりの大切さ」を伝える機会も、今後ますます増えていきそうだ。


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「手づくりの大切さ」を訴える青山さん。話にも熱がこもる


- "食"を通じた果敢なチャレンジ

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青山さんのブログ。日々の活動のほか、食材やレシピの情報も満載だ

今年1月、札幌在住の島田英二監督が短編映画「おもてなし」を発表した。
「あなたから見た日本」をテーマにしたこの作品の中に、青山さんが作った料理が登場する。劇中に登場人物が懐石料理の「八寸」を食べて涙を流すシーンがあり、青山さんがこの「八寸」を創作したのだ。
ほかにも、市内のClubで行われるイベントに料理を提供しており、今後は音楽と食とのコラボレーションによるイベントを開催するアイデアもあるという。
 "食"がもつ意味やインパクトは非常に大きく、映像、音楽、デザイン、建築など、"食"は様々な分野とコラボレーションできる可能性を秘めているが、こうした新たな可能性に 積極的にチャレンジしている点も青山さんの魅力だ。

さて、そんな青山さんに今後の方針を聞いてみた。
「道内の生産者、特に農業者の方と一緒に商品を開発してみたいですね。北海道は良い農産物が生産され、ブランドも出来上がっていますが、加工品の分野ではまだまだこれからです。食材をムダにしないためにも、魅力的な加工品を作りたいです。そのためにはマーケティングの視点も必要です」。
"経営がわかる料理人"のノウハウは、ここでも存分に生かされそうだ。


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■キッチンサポート青  青山則靖
http://supportao.exblog.jp/

取材・文 佐藤栄一