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ロケーションマネージャー 加藤 剛:"民間外交官"として、北海道のロケーションを世界へ!

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国内の映画やドラマ、コマーシャルなどに加えて、最近では海外の映画のロケーションも北海道で行なわれるようになった。こうした動きを支えているのがロケーションマネージャーの存在だ。ロケーションマネージャーとして15年のキャリアを持つ、ロケーションサービス・ダケカンバの加藤剛さんにお話を伺った。


ロケーションマネージャー 加藤 剛さん(42歳)


映画ばかり観ていた高校時代

小樽で生まれ育った加藤さんが高校生の頃、小樽には映画館がたくさんあり、名画座では1本500円で名作も楽しめた。
「昭和5年生まれの母親は、華やかな娘時代を過ごした、いわゆる"モダンガール"で、映画もよく観ていました。
そんな母親の影響で、私も高校生の頃はとにかくいろいろな映画を観ました。当時は洋画が面白く、『ブレードランナー』などにも衝撃を受けました。」
高校卒業後、加藤さんは映画関連の専門学校(東京)へ進学。
「撮影所の敷地内に学校があったので、授業で勉強するというよりも、撮影所のアルバイトに精を出していました。照明や特機、美術など、色々なアルバイトがありました。」
同じ寮に演劇科の学生がいたこともあり、蜷川スタジオの役者(群集)募集に友人と一緒に応募し、その後1年ほど裏方として舞台の仕事も経験した。
「東京では、小樽ではできない経験を色々しましたが、どうも私には東京の湿気が合わなかったようです(笑)。」
東京で2年半ほど過ごした後、加藤さんは小樽へ戻り、札幌の北海道内向けCM制作会社でAD(アシスタント・ディレクター)として制作の仕事を始めた。


ロケーションマネージャーとしてフリーランスに

CM制作会社で約3年間仕事をした後、そこからのつながりで、今度は東京や大阪から北海道へ来る撮影隊の北海道ロケ全体のサポートをするロケーションマネージャーの仕事の依頼があり、ロケーションサービスの会社に転職。
ロケーションマネージャーは、クライアントのニーズを受けて、それに最も適したロケ地の発掘、撮影許可の交渉と許可の取付け、撮影機材等の手配、クルーの受け入れ、宿泊・食事・移動車両の手配など、多岐にわたり、交渉力と細かな気配りが要求される仕事だ。
このロケーションサービス会社で3年ほど働いた頃、加藤さんはフリーランスのロケーションマネージャーとして独立を考え始める。きっかけになったのは、以前一緒に仕事をした人からの仕事の依頼だったという。
「実際に個人で仕事を請けてみて、こんな風に仕事として成り立つのかなという実感がありましたが、その時はまだ漠然としていて、こんなに長く続けるとは思っていませんでした。」
独立後、しばらくは大変な時期を過ごしながらも、フリーランスのロケーションマネージャーとして、着実に実績を重ねていった。
「自分の仕事として依頼が来るようになったのは、ここ5年くらいのことです。途中、他の会社の面接に行くこともあったり、ここまで来るには、いろいろありました。それでも、結局、続けてこれたのは、"ロケが好きだったから"でしょうね。」


記憶に残る"ゲリラライブ"

2000年に発売されたB'zの『juice』という曲のプロモーションビデオ。これが、札幌の時計台近くの駐車場でゲリラライブとして収録されたものであることは、ファンのみならず有名な話。加藤さんは、このPVのロケーションマネージャーとして活躍した。
「仕込みに2週間、本番1時間というタイトな仕事でしたね。B'zの二人がステージに出た瞬間に"ウヮー"っと大歓声が起こりました。周囲の道路が聞きつけた群集でマヒして大変な撮影だったけれど、強烈な記憶として残っています。そのときのスタッフとは、今でも付き合っています。」
ビデオクリップの仕事にはロケーションマネージャーとして参加することも多いという加藤さん。
「若い人たちには、こういう仕事もあることを知ってもらいたいですね。好きなアーティストのビデオクリップにスタッフとして参加できる可能性があるんです。私もミーハーでこの仕事を始めましたから。(笑)」


写真撮影から海外の映画撮影までをコーディネート

「現場に入っているときは、クライアントからの無理難題の連続で、"二度とこの人たちとは仕事をしたくない"と思うことも多いけれど、終わってしまうと、"面白かった"となるから不思議です(笑)。そして、一度つながると、次も仕事の依頼がくるというケースが多いですね。」
営業活動は特にしていないという加藤さん。クライアントからの色々な要求に的確に対応し、現場で信頼を得てきたのだろう。
初めてのクライアントは、人の紹介で問い合わせが来ることが多いというが、ホームページを通じた照会も結構あるという。
http://www17.ocn.ne.jp/~dakekan/


加藤さんのホームページ


「ある婦人服のカタログ撮影ロケのコーディネートは、ホームページ経由で仕事の依頼が来て、長く継続しています。特に秋冬のカタログは、撮影時期が夏になりますが、北海道なら冷たい空気感が出るので、ロケ地として適しているようです。この仕事は、昨年、制作会社が変わったのですが、メーカー担当者が"北海道の加藤さんなら美味しいものを食べさせてくれるよ"(笑)とつないでくれて、新しい制作会社からも継続で依頼が来ました。人を喜ばせたくてこの仕事をしているので、こういう話もうれしいです。」
ロケーションマネージャーという仕事の奥深さがうかがえるエピソードだ。
ロケーションマネージャーとは、北海道の魅力をアピールする仕事であり、これが海外へのアピールとなれば、"民間の外交官"と言える仕事かも知れない。
2006年には、韓国映画「愛なんていらねえよ」(イ・チョルハ監督)のオープニングとエンディングの映像を北海道で撮影した際、加藤さんはロケーションマネージャーとして参加した。
「今までは、海外から北海道へのロケーション撮影は、東京の大手制作プロダクションを通してきていましたが、このときは、さっぽろフィルムコミッションの撮影誘致第一弾として、直接、札幌の企業が請けて実現しました。写真資料提供の際、雪原に1本の木がある風景を入れたのですが、最初のシナリオでは、背景に家があるイメージだったものが、結局、この写真の風景が採用されて、エンディングで使われました。こちらの提案がシナリオを変えたという、うれしい"事件"でした。」

ニュージーランドへの留学とマイケル・ケンナ氏との出会い

もともとニュージーランドが好きだったこともあり、仕事でも何か強みがあればということで、37歳の加藤さんは、英語を学ぶためにニュージーランドで3ヶ月を過ごす。
「流暢な英語とまではいきませんが、まずは、英語にビビらなくはなりました。韓国のスタッフと仕事ができたのも、英語で直接コミュニケーションできたことが大きかったと思います。マイケル・ケンナ氏との出会いも、撮影旅行で英語が話せたことがきっかけになりました。」
もともと写真好きの加藤さんは、カリフォルニア州デスバレーでの撮影旅行の際、ホームステイ先でモノクロームの風景写真家マイケル・ケンナ氏の写真を見て感激し、偶然にもそこで彼の助手に出会う。その後、北海道へ定期的に撮影にきていたマイケル・ケンナ氏本人から直接連絡が来て、加藤さんは彼の北海道での撮影のコーディネートを担当することになったのだ。
「自分が動くことによって、何かが変わっていったり、いろいろな出会いがあったりします。だから、若い人には、"まずは海外へ行って、外から北海道を見てこい"と言っています。」


若手と一緒に、世界を相手にした仕事を!

韓国のスタッフと一緒に仕事をして、加藤さんが一番感じたのはスタッフの若さだった。監督は30代、スタッフは20代がメイン、現場では加藤さんが最年長という環境の中で、日本でも、もっと若いスタッフを育てる必要性を痛感したという。
「北海道には、どこにも負けないロケーションがたくさんあります。やり方によっては、海外へ向けてもっと大きくビジネスが広がる可能性を持っています。例えば、北海道側のスタッフ全員が英語を話せたとしたら、それだけでも、海外からのビジネスが成り立っていくと思います。同様に、韓国語でビジネス交渉ができるスタッフがいれば、韓国のロケーション案件ももっと多く動くでしょう。これからは、今まで自分が経験してきたことを若い世代に引き継ぎつつ、若いスタッフと一緒に、良い仕事をしたいという夢を持っています。今は、それに向けて一歩踏み出したところでしょうか。」
ハリウッドよりもアジアの映画が面白いといわれている昨今、若い人たちがこうした世界に興味を持って飛び込み、北海道でロケーションマネージャーの活躍の場が広がることを期待したい。



●ロケーションサービス ダケカンバ
〒047-0023 北海道小樽市最上2丁目22-11
TEL : 090-8428-8513
WEB SITE http://www17.ocn.ne.jp/~dakekan/

取材・文 佐藤保子