現在位置の階層

  1. トップ
  2. ニュース
  3. アーカイブ
  4. Feature
  5. 株式会社佐藤デザイン室 「景観色を糸口に、札幌発のものづくりを」

アーカイブ

株式会社佐藤デザイン室 「景観色を糸口に、札幌発のものづくりを」

feat_vol22.jpg

札幌で暮らす人間は、「札幌」の魅力に慣れてしまっている。大自然が育む豊かな恵みやちょっとのんびりした心地よいライフスタイル、春夏秋冬の美しい彩りにも。これらを「当たり前」のことと信じて疑わない札幌市民たち--。2005年、この「当たり前」の価値に着目し、札幌のデザイン事務所が自社初の商品開発に踏み切った。景観との調和にこだわったレジャーシート「さくらシート」の生みの親である株式会社佐藤デザイン室のこだわりを追う。


(株)佐藤デザイン室 代表取締役 佐藤斎さん(47)歳、裕子さん(46歳)


色彩分析ソフトの活用で説得材料を提示する

エゾヤマザクラが咲き誇る趣あふれる花見の空間に、工事現場さながらのド派手なビニールシートがここにも、あそこにも。佐藤デザイン室のデザイナー佐藤裕子さんは、そんな人工的な存在感を放つシートと景観とのミスマッチに以前から違和感を抱く1人だった。
「四季の彩りを楽しむ野外で使われるものならば、もっと景観に寄り添うものを。そういうレジャーシートを自分の手でつくりたいと思ったのが、『さくらシート』の始まりです」。
通常はインテリアデザインやグラフィックデザインなどを手がける佐藤デザイン室にとって、自社発のプロダクトデザインは初めての挑戦。企画実現の足がかりとなったのは、自然界に分布するあまたの色彩の配色をデジタル画像から正確に分析する色彩分析ソフトだった。
「私が以前、札幌市が都市計画のために制定した『札幌の景観色70色』プロジェクトのお手伝いをしていまして。その時に開発されたソフトを使うことが念頭にありました。目指すシートが札幌の風土や自然の配色となじむよう、市内の公園や野外スポットのデジタル画像を集めることから作業が始まりました」。そうして出来上がったのが、土や草花からもらった色を格子状に散りばめた「さくらシート」ならではの配色バランスの妙。
色をデザインのツールとして扱う際に、デザイナー本人の感性に依るだけでなく他者をも説得できるような科学的な手法が欲しかったと語る裕子さん。
「受注仕事のときも同様ですが、『デザインのことはよくわからない』と言いがちなクライアントたちに『こういう理由でこの配色、このデザインになりました』と確たる説得材料を提示する能力が、デザイナーとって必要なスキルではないでしょうか」。


写真は紙で作った「さくらシート」試作品。野外に実際に敷いてみて、景観との調和を確認していった。


メーカー、バイヤー達との出会いを財産に

裕子さんの公私ともに良きパートナーである佐藤斎社長は、以前(社)札幌青年会議所に所属し、異業種の方たちとの繋がりが多かったという。
理想のレジャーシート実現に向けて製造メーカーを探していたところ、紹介を受けたのが山内ビニール加工(株)の山内浩二さんだった。
景観に配慮するレジャーシートづくりの話を聞き、すぐに賛同した同氏は、デザイナーである佐藤さん達と製作現場を担う工場の技術スタッフとの"橋渡し"にも尽力。
「山内さんのおかげで工場の方と何度も話し合う機会を持てました。最適な素材を見つけてくださったり、色校正のときもわずか数パーセント単位の色調整までしてくださったり。山内ビニール加工さんがいてこそ実現した『さくらシート』だと思っています」。 メーカーと厚い信頼関係を築く一方で、佐藤さん達は価格設定や販路の確保などいくつもの「商売」上の壁を乗りこえる必要にも迫られた。製造メーカーと共に製品を直接販売店にプレゼンし、その場で契約にいたるところまで話をまとめた経験や、展示会で知り合った全国のバイヤー、卸のプロ達から受けたアドバイスは、今後のものづくりを支える大きな財産になると振り返る。

 


山内ビニール加工(株)の山内浩二さん。
「さくらシート」を"本物"と見込んで製作現場との調整や営業活動に奔走した。


暗く、陰鬱な11月を待ち遠しい11月へ

佐藤デザイン室では、「さくらシート」の他にも地元で暮らす人々が見落としがちな札幌の魅力の再発見に努めていた。2006年11月には、仲間とともに「美しい11月プロジェクト」を実施。
「札幌の11月ってどこかマイナーな印象がありませんか(笑)。イベント盛りだくさんの12月を前に日照時間が通年で最も短くなり、寒い冬に向かう陰鬱な季節の印象が...でも本当にそうでしょうか。実は11月は秋から冬にかけての狭間の情緒にあふれる"美しい月"なのではないか、それならまず札幌に暮らす私たちから11月を思いきり楽しもうと考えまして。全く違うジャンルの仲間11名が発起人となり、フレンチのシェフやソウルのDJ、クラシック奏者などの協力を得てパーティーを開いたんです。札幌の美しい秋の画像を壁に映しながら、旬の料理や11月に合う音楽を参加者全員で堪能しました」。
こうしたイベントが定着すれば、夏や雪まつりシーズンだけでなく通年観光の可能性も開けてくる。札幌の「当たり前」に、新たな彩りを添える佐藤デザイン室の試みは続く。


「凛とした」など11月を形容するキーワードとイメージカラーをもとに、食、音楽、光、色を楽しむパーティーが2006年11月に開催された。


机上を飛び出し、社会とともにあるデザイン

佐藤デザイン室の仕事を語るうえで欠かせないのは、「畑違いの仲間たち」の存在だ。
「私たちが考えるデザインの定義とは、デザイナーがパソコンに向かう制作作業を意味するだけではありません。デザイナーではない人たちの"デザイン"能力(自由な発想や機動力など)と共にものごとをつくりあげていくこと。社会のシステムとともにデザインがあると認識しています」。裕子さんのこの言葉に深くうなずく佐藤斎社長は、最後にこう語ってくれた。
「札幌はなにかおもしろいことをやろうと考えたとき、一見縁がなさそうな業界でも志を同じくする方々との接点を見つけやすいサイズだと思います。企画やデザインを『編集する』手法を用いながらこの札幌の"狭さ"をもっと活用していけば、新しいものづくりのチャンスがさらに広がっていくのではないでしょうか」。

 


「さくらシート 北海道仕様」(写真上)180cm×90cm  1,350円(税込)。
関東の自然の色彩にあわせた「芝生仕様」(写真下)1,680円(税込)の姉妹品も。秀岳荘や東急ハンズ札幌店などで好評発売中。2007年6月には「さくらシート」制作秘話を語るトークショーを開催。佐藤さん達自ら参加者にメーリングリスト登録を呼びかけ、新たな人脈づくりも積極的に展開している。



株式会社佐藤デザイン室
064-0810
札幌市中央区南10条西13丁目1-41-903
TEL:011-211-0817/FAX:011-211-0818

取材・文 佐藤優子