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札幌アートディレクターズクラブ

-世界で評価される札幌のグラフィックデザイナー

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2008年「ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ(ポーランド)」金メダル - 2008年「ショーモン国際ポスター&グラフィックアーツフェスティバル(フランス)」銅メダル- 2008年「ニューヨークADCアワード」メリット賞(受賞者4名)- 2007年「台湾国際ポスターデザインアワード」金メダル・・・・
これらがすべて札幌のグラフィックデザイナーのことだとわかる人が、はたしてどれくらいいるだろうか?これだけでも錚々たる実績の数々だが、これらはほんの一部に過ぎない。いま、グラフィックデザインの世界大会で札幌勢のメダルラッシュが続いているのだ。

この勢いはいったいどこから来ているのか?そして、札幌のデザインシーンに何が起きているのか・・?
その真相に迫り、世界で高い評価を受ける札幌のグラフィックデザイナーの実力とそれを生み出す背景を広く知ってもらおうと、このたび、札幌アートディレクターズクラブ(以下、「札幌ADC」)と札幌市経済局は、札幌市東京事務所で共同プレス発表を行った。
(当日の模様は札幌ADCのWebサイトにも掲載中)


7/23札幌市東京事務所での共同プレス発表風景
(左から)前田弘志さん、引地幸生さん(以上札幌ADC)、一橋基さん(札幌市経済局)

国内外でアワードを受賞した作品がズラリと展示された会場では、今回の共同プレス発表を仕掛けた札幌ADC運営委員の前田弘志さんがマイクを持ち、客観的なデータを交えながら、札幌のグラフィックデザイナーとその作品の評価について解説した。
まず、国内での札幌の評価だが、厳しい審査基準で知られるグラフィックデザインの全国コンペ「Graphic Design in Japan」(主催JAGDA)への出品・入選データで見ると、入選デザイナー数では札幌を中心とする道央圏が東京に次いで2位(2007年)、出品者に占める入選者の割合では道央圏が3年連続1位、2007年の入選者率は78.6%と高率を記録し、2位の東京(47.2%)を大きく引き離しているという。


国際コンペ入選作品の数々

一方、海外でも札幌のデザイナーは大健闘しており、総出品数が数万点にのぼるといわれる「ニューヨークADCアワード」(2008年春開催)では、入選276組500作品のうち、日本は36組が入選して世界第2位、このうち4人5作品を札幌のデザイナーが占めた。さらに、「ショーモン国際ポスター&グラフィックアーツフェスティバル(フランス)」(2007年夏開催)では、都市別入選者数で札幌が5位(4人が入選)となり、ベルリンなどの都市を凌ぐ存在となった。
他にも札幌のグラフィックデザイナーの実力を示す入選実績の数々が紹介され、それらを総合すると、「札幌発のデザインは国内よりも海外での評価のほうが高く、札幌は世界レベルのグラフィックデザイナーを多数擁し、その数は世界トップ10に入る都市」(前田さん)ということになる。


世界で評価される札幌発グラフィックデザイン

「札幌のクリエイターが最近とくに“イケてる”という印象は持っていました。今回、有力コンペへの入選デザイナー数、入選作品数、それらの国別・地域別比較など、誰にでもわかる定量データという形でこの“イケてる”の実態を客観的に示すことができたと思います」。前田さんはこう振り返る。


-優れた人材と作品を生み出す札幌ADCというエンジン

「大企業が多く立地し、大きなキャンペーンも頻繁に行われる東京で多くの作品が生まれるのは当然ですが、キャンペーンも大企業も少ない札幌でこれほど多くの優れたデザイナーや作品が生まれ、評価されるのというのは極めて異例なこと」と話す前田さん。実際、プレス発表の場でも、「なぜ札幌が次々と質の高い作品を生み出しているのか?」と質問が飛んでいた。
これについて、札幌ADC運営委員・会員代表の引地幸生さんは、「あくまで一つの仮説」と前置きしたうえで、「札幌ADCの存在や毎年行っているコンペティションの盛り上がりがデザイナーに刺激を与え、全国そして世界のメジャーに挑戦する土壌を形成している」と説く。

札幌ADCは、グラフィックデザイン、パッケージデザイン、映像、CI・VIなど、様々なジャンルのクリエイターが集まって、「クリエイターのクラブ活動」の場を作ろうと、2001年4月に発足。クリエイターが個人資格で参加・運営する団体として、クリエイター自身の自己啓発、意識の向上、レベルアップのために互いに切磋琢磨し、刺激を与え合う機会を作っている。
札幌ADCのメイン事業は、年1回の作品公開審査会と授賞イベント(札幌ADCコンペティション&アワード)および年鑑の発行。中でも「札幌型・ライブ審査会」と呼ばれる作品公開審査会は、「東京の夏より熱い」と評判だ。すべての出品作品、すべての審査経過を完全公開し、票集計の行方をリアルタイムで見ることのできるこの審査会には、札幌ADCの会員・非会員を問わず、毎年数百人が立会い、大変な盛り上がりの中で入選作品が決まっていく。


コンペティション審査会は審査プロセスが完全公開される

“参加者が主体となって祭りを興す”というエネルギーが多くの作品や人を集める源泉となり、完全公開審査というコンペティティブな場を作ることで、作品や人への感動、場の熱気と興奮を生み、この“エンジン”に動かされたデザイナーが、全国、そして世界へと果敢なチャレンジを続けている。
「この“雪玉式エンジン”が札幌ADCの極意です」と笑う引地さん。熱く激しいこの審査会は、今年も9月13日(土)と14日(日)の両日、札幌の「ちえりあ」で開催される。一般公開しているので、ぜひともこの“雪玉式エンジン”を一緒に動かしてみてほしい。


熱気あふれる審査風景

-デザイナーの力をビジネスに活かす仕組みづくりを

さて、札幌ADCの存在がクリエイターのスキルアップと意識の高揚を後押しし、世界のコンペティションで高い評価を得るデザイナーが続々と誕生していることは大変好ましいサイクルといえるが、一方で課題も顕在化している。
「アワードの受賞がビジネスになかなか直結しないのです。首都圏のように、デザインやデザイナーを経営に活かそうと考える企業が札幌や北海道内にはまだ少なく、デザイナーの存在が知られていません。観光産業や食品産業など、様々な業界の企業とデザイナーとのビジネスマッチングの機会などを積極的に作っていく必要があります」と前田さん。
まずは優れたデザイナーの存在を知ってもらい、デザイナーと企業の双方が成長できるビジネスチャンスの創出が強く望まれるところだ。

札幌市は2006年3月、「sapppro ideas city宣言」を発表し、この中で、アートデザインが生活の中にあふれ、創造性を活かしたコンテンツ産業が発展し、あらゆる産業が創造性を発揮して競争力を高める「創造都市・さっぽろ」の実現を謳った。
デザイナーやクリエイターは、この都市像の実現に欠かせない存在。地域が積極的に彼らを活用していくことが望まれる。
前田さんは、今回の共同プレス発表で紹介したデータ等をまとめた研究冊子「世界で評価され始めた札幌発のグラフィックデザイン」の最後をこう結んでいる。
「地元メディアが、北海道日本ハムファイターズの人気に与えた影響は少なくありません。今では巨人の選手よりも日ハムの選手の方が有名です。一方、デザインはどうでしょうか。より一層の発展のためには、「強いホームチーム(デザイナー)」を地域の誇りとし、プレイ環境を整備し、地域ぐるみで応援する機運の醸成が必要です。市民や地元企業に知られる広報をはじめ、産・学・官でどう取り組んでいくか・・・。」

世界で高く評価されたデザイナーたちが地元企業と連携し、優れた商品やサービスを世界に送り出す・・・そんな事例がたくさん生まれていくことを強く期待したい。


札幌アートディレクターズクラブ(札幌ADC)
WEB SITE: http://www.sapporo-adc.com/
(事務局所在地)
〒060-0033 札幌市中央区北3 条東5 丁目 岩佐ビル 
有限会社寺島デザイン制作室内
TEL : 011-241-6018  FAX : 011-241-6118

取材・文 佐藤栄一