今年も年が明けてひと月が過ぎようとしている。今月はやたらと人に会う月だった。といっても年末年始はただでさえ人に会う機会が増えるのでさほど特別な事でもないのかもしれないナ。人と会うと当然のことながら時間の濃度が濃くなる。自分以外の人の時間と経験を共有するからだ。同じトピックでも見る角度によって様々な理解と分析ができる。それらを共有し影響しあうので、どんどん時間の密度が濃くなっていく。最近話題のtwitterにしてもそうで、物理的に会っていなくても友人・知人の活動や考えていることがリアルタイムで飛び交っている中に身を置いていると重層的な時間の束を実感できる。これって結構すごいことだと思う。
自分ひとりで考えていると、どうしても持論のループに陥ってしまうので、他者の視点というのは思いがけないアイデアやひらめきを与えてくれるという点でとても重要だ。
この間、はじめて札幌を訪れたという友人が、駅の北側に広大に拡がる北大の敷地をみていきなり「スタンフォードみたいだなあ」とつぶやいた。確かに街中にこれだけの敷地面積の大学機関があるというのは札幌の特徴だろう。グリッド状に整備された交通網だったり、敷地間の垣根のない住宅だったり、確かに日本離れしている。また、冬が長い北海道は室内の暖房設備は行き届いている。室温段差がなくどの部屋も暖かい。冬でも室内でTシャツ一枚でソフトクリームを食べる環境なのだ。そのせいか札幌ではコタツがあまり普及していない、というかポピュラーではない。
市内は地下鉄が東西南北に敷かれ、中心部は路面電車は走っている。「路面電車は街の成熟に欠かせない」つまり、路面電車があるということはその街が歩き回れるということを示していて、人々の歩行生活を可能にする。歩行範囲の発展は生活文化を成熟させるには必要不可欠なのだ。そして歩き疲れたら路面電車を利用することでその範囲はリゾーム的に拡大して行く。机上の都市計画ではない生活に密着した成長が可能なのだ。歩き回れる街というのは生活に適した街といえる。
街のサイズがコンパクトで、大学を通して若い人達が常に流入してくる環境というのは理想的だ。文化レベルが高く、街が充実している札幌のQOLは世界的に見ても素晴らしい。その上、生活費が安価で自然環境が豊かとくればこの地に人が集まらない理由を見つける方が難しいではないか。
そこで提案したい。
札幌は東京を目指す事を止めるべきだ。東京を目指すということは即ち札幌の独自性を失う事に通じる。そして、それがもし達成されたとしても東京の二番煎じでしかない。東京と似たものであればそもそも札幌にわざわざ出掛ける必要はないのだ。たとえば金沢の21世紀美術館、青森の十和田市現代美術館、香川のベネッセアートサイト直島、山口のYCAM、と芸術関係のランドマークを例に上げるとどこも東京にはない独自性を持っている。東京では体験できない場所・コトがあるからこそ人々はわざわざ出かけていくのだ。札幌はどうだろう?環境、地形的ダイナミズム、豊富な素材、おおらかな精神性とホスピタリティ、札幌には東京にはない個性が既に数多くあるにも関わらず、それを半ば病的なまで削り落として東京のダミーを作ろうとしている。
ぼくの周囲のいわゆるクリエイティブ・リーダーと言われる人達は、事実もう何年も前から東京への興味を失っている。ここ数年各地で進行している創造都市計画は、そのようなクリエイティブ・リーダー達と地方自治体の地域活性の動きが重なって相乗効果のもとに魅力的な街づくりが進行しているように思える。ここで重要なの事は「よそ者の視点」だ。今まで見落としていた魅力、日常化されすぎて気がつかなかったコンテンツを発見し再評価するには常にこの「よそ者の視点」が必要なのだ。外に向かってより魅力をアピールするカタチに再編集し、閉塞した環境に空気穴を開けるには外からの視点が必要不可欠だ。そして、その空気穴を通して東京やその他の地域、果ては世界との自由な交流が可能になる事、それこそが札幌の活性化につながると信じている。
友人はスタンフォードに似ているといった。シリコンバレーの中心に位置するその街には世界的にも有名なスタンフォード大学がある。この大学の校訓は”Die Luft der Freiheit weht”(自由の風が吹く)。札幌もひとつでも多くの空気穴を通してより多くの自由の風を吹かせてほしい。
吉川 徹
プロフィール:
吉川徹(アートディレクター/プランナー)
1964年神奈川県生まれ
1983年渡米, Pacific Northwest College of Art 絵画科卒(BFA)
1989年帰国, 広告会社, 展覧会企画会社を経てフリーランス
2000年より, ロンドンに拠点を置くクリエイティブ集団tomatoのワークショップに参加以後様々なプロジェクトに参加
2004年より, 北海道札幌市の創造都市計画『sapporo ideas city』に参画
2007年, D&DEPARTMENT PROJECT札幌店立ち上げに参画


