よく芸能人とかがこぞって正月にハワイに行ったりして、一般人もそれにならって行っちゃったりしているが、あれってどうなんだろう?ぼくにはまったく理解できない、というか興味もない。大体、年明けに不釣合な日焼け顔でニヤニヤと新年の挨拶なんてのも下品な感じがするし、そもそも、そんなに暑くなったり寒くなったり身体に良いわけがない。
「寒い季節には寒い場所へ行こうじゃないか!」
ということで、雪吹きすさぶ札幌へやってきた。
ウゥ・・確かに寒い・・・。が、ぼくはこの寒さが嫌いじゃない。あたり一面雪景色。片栗粉のようなパウダースノーをキュッ、キュッ、と踏みしめて歩き回る。街の風景のどうでもいい部分がすべて雪で覆われてしまうので、普段つまらない看板とかも美しく思える。疲れたら喫茶店でコーヒーでも飲みながらひと休み。札幌には気の利いた喫茶店がたくさんあるから安心なのだ。
まずは金曜日、仕事を早々に切り上げて、東京からの客人を連れて地元の友人たちと「豊平峡温泉」へ。
市内中心部から車で1時間程で到着。非循環100%源泉かけ流し温泉に何故か本格インドカレー食堂を併設している。カレーの違和感インパクトに隠れて存在感の薄いそばも、通好みの隠れた名品なのだ。敷地内には巨大かまくらも設置されていて、なんとその中でジンギスカンも振舞うというなんでもアリの総合格闘技的最強温泉。
何かと周辺のサービスがフューチャーされがちだけど、メインの温泉は折り紙付きの本格派で、絶妙な温度で何時までも入っていられる。首から下は40度、首から上は氷点下といった露天風呂に浸かって夜空に降る雪を眺めていたりすると、いつの間にか髪の毛が凍っているなんて究極の頭寒足熱も体験できる。湯あたりもしないし湯冷めもしない。まさに魔法の温泉なのだ。
翌日は昼飯を食べに小樽まで。目的地は「なると本店」。
ここの鶏の半身揚げは小樽のソウルフード。お客の大半は寿司屋にも関わらず鶏の半身揚げを頼む。おすすめは定番の若鶏定食だが、ちょっと大人に半身揚げ+寿司ランチなんてのもオススメ。若鶏定食の場合は食べ方にコツがあって、利き手の箸を離さず、鳥を直につかむのは片手だけにしておくことをお勧めする。両手が鳥の油まみれになってしまうとオシボリで手を拭いている間に口の中の鳥肉を咀嚼してしまい、ご飯のおかずにならない。箸でおさえながらもう一方の手で鳥をさばき、口に入れたら箸の方の手でご飯をかきこむというのが、スマートかつ合理的な食べ方なのだ。
「なると」で胃袋を満たした後は近所のJAZZ喫茶「フリーランス」の特製3倍コーヒー。蔵造りの二階の窓から外の雪景色を眺めながら恐ろしく濃いフレンチをちびちび飲んでいると何とも幸せな気分になってくる。話によると最近は札幌から若い人達が結構移住してきているらしい。電車に乗って30分程で札幌、1時間ちょっとで空港までいける立地の割に家賃はべらぼうに安い。海もある。札幌に飽きた若い人達がより自由なコミュニティを求めて移住してくるのも頷ける。そういえば確かに、何をやってるのかわからない新しい小さな店がぽつぽつとできている。何か楽しくなりそうな予感がする。
その後、岬の突端まで行き北海道の冬の海とご対面。鉛色の海があからさまに殺意をもって打ち寄せてくる。隙あらば足首を持っていこうという魂胆みえみえでほんとコワイ。でもこの日本海の突端に立っていると自分がリセットされていくのがよく判る。頭も身体もキンキンに冴えてくる。あんまり長くいると凍ってしまうので要注意なのだが。
そんなこんなで「寒い季節には寒い場所へ行こうじゃないか!」計画は大成功だった。地元の人からしてみれば、際立って特別な過ごし方ではないかもしれない。が、観光客にとってみれば知らない土地にいる事自体がすでに非日常なので、それ以上突飛なアトラクションは必要ないのだ。やはり、知らない土地で普通に過ごすというのが真っ当な旅の作法なのだとつくづく感じた。札幌に戻って「こふじ」というよく行く飲み屋で旬のニシンの夫婦焼き、タチの天ぷらなどなど、持病に悪いものオンパレードもいただきつつ、札幌の夜は寒くもまた暖かく更けていくのであった。
吉川 徹
プロフィール:
吉川徹(アートディレクター/プランナー)
1964年神奈川県生まれ
1983年渡米, Pacific Northwest College of Art 絵画科卒(BFA)
1989年帰国, 広告会社, 展覧会企画会社を経てフリーランス
2000年より, ロンドンに拠点を置くクリエイティブ集団tomatoのワークショップに参加以後様々なプロジェクトに参加
2004年より, 北海道札幌市の創造都市計画『sapporo ideas city』に参画
2007年, D&DEPARTMENT PROJECT札幌店立ち上げに参画


