数人で企画した展覧会を東京目黒のClaskaで開催している。
あまりまだ日本で知られていないイギリスのグラフィックデザイナー14名に、それぞれの東京のイメージを表現してもらい、ポスターというカタチで展示するという企画展。東京という都市が海外のクリエイティブに携わる人達にどう見えているのか?という素朴な疑問からスタートして、普段見慣れている東京を一歩引いて客観視する良い機会になった。
また今回は、プリンティング・ディレクターのYPP 山田写真製版所の熊倉桂三氏の協力のもと、ハイデルベルグの10色印刷機を使って、日本の最高峰の印刷技術でポスターを仕上げてもらった。熊倉氏は故亀倉雄策氏や故田中一光氏、永井一正氏や浅葉克己氏のプリンティング・ディレクターを務めるいわば印刷の神様みたいな人で、良い意味で、原画以上の仕上がりになったと思う。イギリスからデータを送ってもらい、日本の富山の工場で印刷して、東京で展示する。ビデオチャットでロンドンと東京を結んでトークショーをする。ホームセンターで資材を入手し、展示会場を文字通り手弁当で作った。完璧とは言えないまでも個人レベルでここまで出来たことは、励みになったしいろいろ勉強にもなった。
気がついたのが、来場してくれたお客さんのなかで「普段はWEB系のデザインをしているんだけど、最近は紙モノ/印刷物のほうに興味があるんですよねー」というお客さんがホント多い事。
世の中は電子文書、ペーパーレスの時代に着実に向かっているというのに時代に逆行しているじゃないか?でもそういう現象は実は結構あって、TV/AV機器が進化して、ハイ・ビジョンだったり、ブルーレイだったり、サラウンド・システムだったりがどんどん出てきて、より臨場感のあるヴァーチャル空間が用意される一方で、夏フェスとか昨今のエコブームから派生してキャンプやアウトドアといったよりリアルな体験を求めていたりする。今回のポスターの中にも理想科学の「プリントゴッコ」へのオマージュ的な作品があったり、単にカウンターリアクションと片付けられない現象がある。
ぼくはデザイン作業を版下制作から始めた、烏口(完全に死語だもんなあ・・・)最後の世代だと思う。なので、版下もとっておいたし、刷り上がりもちゃんと保管していた。新聞の突き出し原稿なんかも大事に保管していた。今で言うWEBのバナー広告みたいなもんだろうけど、それとは有り難みが違ったような気がする。つまり、モノとしての存在感に魅力を感じていたんだと思う。それは今でもそうだ。液晶ディスプレイのJPG画像よりも、紙の質感や風合い、インクの艶といった手に取れるものにどうしても惹かれてしまう。結局のところ、身体性を伴う感動の方が圧倒的に強いんじゃないかと思う。
リーマン・ブラザースの破綻で露呈した金融工学の脆弱さも、バーチャルな人間の欲望の数値化と細分化の結果だろう。所詮、テン・キーから液晶ディスプレイに打ち込まれる数字と電子化された文章で作られた砂上の楼閣でしかない。いろいろな種類の欲望をまとめてゴチャ混ぜにミキサーにかけて固めたものを小口に切り分け新たな欲望として積み上げたにすぎない。そういう実態のないものにぼくらの身体が拒否反応を示し始めた気がする。
今回はなんかまともな意見になってしまって面白くない。でも、あまのじゃく天の邪鬼のぼくがこんな真っ当な意見をするようになったら、いよいよヤバいんじゃないか?
とむやみに不安を煽りつつ、今年最後のコラムでした。皆さん良いお年を。
プロフィール:
吉川徹(アートディレクター/プランナー)
1964年神奈川県生まれ
1983年渡米, Pacific Northwest College of Art 絵画科卒(BFA)
1989年帰国, 広告会社, 展覧会企画会社を経てフリー
2000年より, ロンドンに拠点を置くクリエイティブ集団tomatoのワークショップに参加をきっかけに以後, 様々なプロジェクトに参加
2004年より, 北海道札幌市の創造都市計画『sapporo ideas city』に参画
2007年, D&DEPARTMENT PROJECT札幌店立ち上げに参画


